表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界北海道 夫を探して異世界へ来たら、夫にはもう妻がいました ~食堂酒場を開き、幸せになります~  作者: 雫石しま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/81

第49話 排水口問題解決

 一つ悩みがある。


 調理中に出た野菜クズは、寸胴鍋で煮込めば新しいスープになる。


 チャーシューを煮た煮汁も継ぎ足して使える。


 無駄になるものは、ほとんどない。


 日々のゴミは一週間に二度、回収業のおじさんが荷馬車に積んで運んで行ってくれる。


 けれど。


 残飯と、お客様が残したスープの始末だけは頭を悩ませていた。


 食べ残しは家畜に与えるわけにもいかない。


 ましてや、お客様が口を付けたものだ。


 そして残った豚骨スープ。


 私は何も考えず、キッチンの排水口へ流していた。


 でも。


「この脂が浮いたスープはどこへ行く?」


 蛇口から水を流しながら、ぽつりと呟く。


「……やっぱり川、だよね」


 トーカチーには十勝平野を貫く十勝川が流れている。


 澄み切った水。


 魚が泳ぎ、子どもたちが遊ぶ美しい川だ。


 そこへ毎日少しずつとはいえ、脂の浮いたスープを流していると思うと胸が重くなった。


「残飯とスープは畑へ埋めればいいんじゃない?」


 そう思ってテオへ相談したら。


『駄目です!』


 珍しく大きな声だった。


『残飯やスープから塩分が染み出して、野菜が育たない土壌になります!』


『あっ……』


『豚骨スープには塩も脂も入っていますから!』


 全力で止められてしまった。


「困ったなぁ……」


 今日もお客様が残したスープを丼から排水口へ流す。


 白いスープが渦を巻き、見えなくなっていく。


 胸がチクリと痛んだ。


 料理人として。


 食べ物を粗末にしているようで、どうしても慣れなかった。



 ◇◇◇



 朝。


 眠い目を擦りながら階段を降りる。


 ぎしっ。


 木の階段が小さく鳴った。


「ジュリ……」


 その音でシマエナガが目を覚ます。


 ふわふわの羽を膨らませ、黒い瞳をぱちくりと瞬かせた。


「おはよう。今日もいい天気になりそうね」


「ジュリッ」


 嬉しそうに鳴く。


 羽の中がもぞもぞと動いた。


 ひょこっ。


 一匹のヴェダーが顔を出す。


 葉っぱを揺らしながら、大きく背伸びをした。


「ヴェダー……」


「おはよう、早起きね」


「ヴェダー!」


 得意そうに胸を張る。


 どうやらシマエナガの羽毛の中は、よほど寝心地がいいらしい。


 見回すと、残りの六匹はまだ寄り添って夢の中だった。


「みんな、よく寝てる」


 その寝顔に笑みを浮かべた時だった。


 ゴソゴソ。


 厨房の方から物音が聞こえた。


「ね、ネズミ?」


 この世界にもネズミはいる。


 食材をかじられたら大変だ。


 私は足音を立てないよう、そっと椅子を避けながら厨房へ向かう。


 物音は止まらない。


 ポリポリ。


 ジュルジュル。


 何かを齧る音と、啜る音。


「まさか……」


 息を潜め、そっと厨房の奥を覗き込む。


「……え?」


 そこにいたのはネズミではなかった。


 毬藻のような丸い体。


 短い手足。


 黒くつぶらな瞳。


 見覚えのあるシルエット。


 だけど。


 頭の葉っぱも。


 体も。


 まるで秋に落ちた枯葉のような茶色だった。


 茶色いヴェダーが、大きな丼を両手で抱え、残っていたラーメンのスープを夢中で飲んでいる。


 ジュルッ。


 最後の一滴まで飲み干すと、小さな手で口元をぬぐった。


「ヴェダー」


 満足そうにお腹をぽんぽん叩く。


「……」


 私と目が合った。


 茶色いヴェダーはぴたりと動きを止める。


 黒い目がまん丸になる。


 私も固まる。


 しばらく見つめ合ったまま、時間だけが過ぎた。


 やがて。


「ヴェ、ヴェダー……」


 気まずそうに葉っぱをしゅんと垂らした。


「もしかして」


 私はゆっくり近付く。


「そのスープ、飲んでたの?」


「ヴェダー……」


 こくん。


 小さく頷く。


「美味しかった?」


「ヴェダー!」


 今度は勢いよく頷いた。


 葉っぱまでぶんぶん揺れている。


「えぇ……」


 私は空になった丼を見る。


 本当に一滴も残っていない。


 そこへ。


 ぱたぱたぱた。


 残りのヴェダーたちも眠そうな顔で厨房へ集まってきた。


「ヴェダー?」


 茶色いヴェダーを見る。


 そして空になった丼を見る。


 七匹は一斉に「あっ」という顔になった。


「ヴェダー!」


「ヴェダー!」


 どうやら、「おまえは誰だ!」と言っているらしい。


 茶色いヴェダーは照れくさそうに頭を掻いた。


「ヴェダー……」


 申し訳なさそうに俯く。


 その姿を見ていた私は、ふと昨日までの悩みを思い出した。


 残ったスープ。


 捨てるしかないと思っていた豚骨スープ。


 その時。


 茶色いヴェダーのお腹が、ほんのり温かな琥珀色にぽうっと光った。


「……あれ?」


 次の瞬間。


 茶色い葉っぱの先から、小さな若葉が一枚だけ、ぴょこんと芽吹き、ペレットのような粒がお尻からコロコロと転がり出た。


*・゜゜・*:.。..。.:*・'お読みいただきありがとうございます'・*:.。. .。.:*・゜゜・*


みなさまの『⭐︎』や『スタンプ』に励まされています

これからもどうぞ爽子の旅路を見守ってください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ