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異世界北海道 夫を探して異世界へ来たら、夫にはもう妻がいました ~食堂酒場を開き、幸せになります~  作者: 雫石しま


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第47話 雛菊の花束と一杯のラーメン

「いらっしゃいませ」


 振り向くと、雛菊の花束を抱えた青年が金色の髪を靡かせて立っていた。


「こんにちは。お店がオープンしたと聞いて」


「……あ、ありがとうございます」


 レオンは花束をそっと手渡した。


 白い雛菊が朝の光を浴びて、可憐に揺れている。


「あの時はありがとうございました」


「いえ、こちらこそ」


 私は花束を胸に抱き、自然と笑みがこぼれた。


 十勝の市場でスリに遭いかけた時、真っ先に駆け付けて助けてくれた青年。


 それがレオンだった。


「覚えていてくださったんですね」


「もちろんです」


 レオンは穏やかに微笑む。


「あれだけ慌てていた方を忘れるはずがありません」


「うぅ……」


 思い出すと少し恥ずかしい。


「あの時は本当に焦ってしまって」


「無事で何よりでした」


 その物腰は相変わらず柔らかい。


 言葉遣いにも無駄がなく、不思議と相手を安心させる。


「どうぞ、お席へ」


 雛菊の花束を窓際に飾る。


「ありがとうございます」


 レオンは椅子を引く前に店内を見回した。


「温かいお店ですね」


「そう言ってもらえると嬉しいです」


 窓辺ではシマエナガが昼寝をしている。


 ヴェダーたちは入口からお客様を眺めていた。


「ヴェダー……」


 初めて見るお客様らしく、少しだけ警戒している。


 レオンはしゃがみ込み、七匹と目線を合わせた。


「こんにちは」


 静かな声だった。


 無理に触れようとはしない。


 ただ微笑みかける。


 ヴェダーたちは顔を見合わせる。


「ヴェダー?」


 一匹が恐る恐る近付く。


 レオンは手を差し出すこともせず、そのまま待っていた。


 やがてヴェダーが葉っぱでちょんとレオンの袖をつつく。


「ヴェダー」


 レオンは嬉しそうに笑った。


「仲良くしてくれてありがとう」


「ヴェダー!」


 その一言で安心したのか、七匹が一斉に集まってくる。


 葉っぱを揺らしながら足元を歩き回っていた。


「もう懐いちゃった」


 私は思わず笑う。


「人を見る目があるんですね」


 レオンは少し照れたように微笑んだ。


「それでは、おすすめをください」


「豚骨ラーメンですが、大丈夫ですか?」


 レオンは、初めて聞く言葉に不思議そうな顔をした。


「とんこつ?らーめん?」


「豚の骨を煮込んだスープのパスタのようなものです」


「豚の骨……捨てるものですよね……食べられるのですか?」


 その声はわずかに震えている。


「はい!一度食べてみてください!」


 レオンはゴクリと息を呑んだ。


「分かりました、それをください」


 彼は意を決したように私の目を見た。


「はい!」


 私は厨房へ戻る。


 寸胴鍋から白いスープを丼へ注ぐ。


 茹でたての卵麺。


 チャーシュー。


 刻みねぎ。


 一つ一つ丁寧に盛り付ける。


「お待たせしました」


 湯気の立つ丼を運ぶ。


 レオンは目を細めた。


「これがラーメン……」


「熱いので気を付けてくださいね」


「ありがとうございます」


 まずは、スプーンでスープを一口。


 ゆっくりと味わう。


 その所作まで美しかった。


「……美味しい」


 大げさではない。


 静かに、心から漏れたような一言だった。


「優しい味ですね」


 もう一口。


「豚の旨味が豊かですが、不思議と重くありません」


 今度はフォークで麺を持ち上げる。


 湯気を逃がすように少し待ち、口へ運ぶ。


 ずるっ。


 音まで控えめだ。


「この麺がまた素晴らしい」


 噛むたびにゆっくり頷く。


「弾力がありますね」


「手打ちなんです」


「そうでしたか」


 感心したように微笑む。


「この麺だからこそ、このスープが生きるのでしょうね」


 チャーシューを一枚。


 口へ入れる。


 しばらく味わってから、小さく息をついた。


「料理というものは」


 レオンは丼を見つめながら言った。


「作る人の心が表れるのですね」


「え?」


「丁寧に作られたことが伝わってきます」


 私は少し照れてしまう。


「ありがとうございます」


「一杯の料理で、こんなに温かい気持ちになったのは久しぶりです」


 店内には穏やかな時間が流れていた。


 窓から入る風が雛菊の花束を揺らす。


 シマエナガは「ジュリ」と小さく鳴き、ヴェダーたちはレオンの椅子の周りで楽しそうに遊んでいた。


 やがてレオンは最後の一滴までスープを飲み干し、静かに丼を置く。


「ごちそうさまでした」


「ありがとうございました」


「また必ず伺います」


 そう言って立ち上がる。


 その時だった。


 店の外で馬車が止まる音がした。


*・゜゜・*:.。..。.:*・'お読みいただきありがとうございます'・*:.。. .。.:*・゜゜・*


みなさまの『⭐︎』や『スタンプ』に励まされています

これからもどうぞ爽子の旅路を見守ってください

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