第46話 開店準備
朝靄の中、窯の火種になる白樺の枝を拾いにゆく。
朝露をまとった草が長靴を濡らし、ひんやりとした空気が頬を撫でた。
森の向こうから、小鳥たちのさえずりが聞こえてくる。
今日もいい天気になりそうだ。
七匹のヴェダーは葉っぱを揺らしながら、小枝をせっせと運び荷車に乗せている。
「ヴェダー!」
「ありがとう」
私は枝を束ねながら笑う。
細い枝は火付きがいい。
太い薪へ火を移すためには欠かせない。
落ちている枝だけを拾う。
森の木は傷付けない。
テオが教えてくれたことだ。
森はみんなで使うものだから、大切にしないといけない。
「ヴェダー!」
一匹が両手いっぱいに枝を抱えて歩いてくる。
ところが欲張り過ぎたのか、途中で枝をばらばらと落としてしまった。
「あらあら」
他のヴェダーたちが慌てて拾い集める。
「ヴェダー!」
「ヴェダー!」
みんなで協力して荷車へ積み直す姿に、思わず頬が緩んだ。
「仲良しだね」
「ヴェダー!」
誇らしそうに胸を張る。
シマエナガは白樺の枝をぴょんぴょんと渡り歩き、小さな虫を見つけては啄んでいた。
「美味しい?」
「ジュリッ」
嬉しそうに鳴く。
どうやら今朝の朝ご飯は当たりらしい。
朝日に照らされた白い羽が、ふわりと輝いて見えた。
荷車がいっぱいになる頃には、朝靄も少しずつ薄くなっていた。
「よし、帰ろうか」
「ヴェダー!」
みんなで店へ戻る。
森で拾った枝はまだ湿り気を含んでいる。
薪置き場に積んで乾かす。
「ヴェダー!」
パラパラと落ちた小枝をヴェダーたちが拾い集める。
「さて、と」
ヴェダー亭へ着くと、まずは窯へ火を入れる。
乾いた白樺の小枝を組み、マッチを擦る。
枯れ草へ火が移る。
ふわりと白い煙が立ち上がった。
「よかった」
そっと息を吹きかける。
小さな炎が枝へ燃え移り、ぱちぱちと心地よい音を立て始めた。
そこへ少し太い薪を一本。
また一本。
炎はゆっくりと大きくなる。
「今日もお願いね」
窯へ小さく声を掛ける。
返事をするように、薪がぱちんとはぜた。
その間に私は寸胴鍋を火へ掛ける。
昨夜から仕込んでおいた豚骨スープを温め始めると、店の中へ少しずつ甘い香りが広がっていく。
「いい匂い」
蓋を少し開けて木杓子で混ぜる。
白いスープがゆっくりと揺れた。
隣ではヴェダーたちが開店の準備を始めている。
「ヴェダー!」
一匹はテーブルを拭き。
一匹は椅子を並べ。
二匹は箸とフォークを一本ずつ丁寧に揃えていく。
残りの三匹は窓を磨いていた。
小さな体で一生懸命背伸びをしている姿が可愛らしい。
「ありがとう」
「ヴェダー!」
返事だけは今日も元気いっぱいだ。
私は麺を打つため、小麦粉を大きな鉢へ入れる。
塩水を回しかけ、卵を落とし両手で混ぜ始める。
さらさらだった粉が少しずつまとまり、一つの生地になっていく。
ぎゅっ。
ぎゅっ。
体重を掛けながら何度もこねる。
腕に心地よい疲れが伝わってきた。
「今日もたくさん来てくれるかな」
「ヴェダー!」
期待するように葉っぱが揺れる。
生地を寝かせる間にチャーシューを切り分け、刻みねぎを用意する。
煮卵も半分に切る。
艶やかな黄身が朝の光を受けて輝いた。
最後に暖簾を抱えて店の外へ出る。
空を見上げると、朝靄はすっかり晴れ、青い空が広がっていた。
私は深呼吸を一つして、暖簾を掛ける。
風が吹き抜け、新しい暖簾がふわりと揺れた。
「よし」
店内を振り返る。
温かな豚骨スープの香り。
磨き上げたテーブル。
新しいラーメン丼。
笑顔で待っているヴェダーたち。
そして窓辺では、シマエナガが「ジュリ」と小さく鳴いた。
「今日も頑張ろう」
「ヴェダー!」
元気な返事が店いっぱいに響き、ヴェダー亭の新しい一日が始まった。
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