表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界北海道 夫を探して異世界へ来たら、夫にはもう妻がいました ~食堂酒場を開き、幸せになります~  作者: 雫石しま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/89

第44話 満席です!相席でもいいですか?

 テオと肉屋のご主人の口コミもあって、ヴェダー亭の前には連日行列ができた。


 ラーメンは一日、三十五杯限定。


「同じテーブルでもいいですか?」


「いいよ」


 十二席しかない小さな店内は、昼前には満席になってしまう。


 そこには窯じいの姿もあった。


 湯気の立つ豚骨スープの香りが店いっぱいに広がり、茹で上がる麺の湯気と混ざり合って食欲を誘っていた。


「爽子さん! こっち、おかわりってできるかい?」


「今日は麺がなくなっちゃうのでごめんなさい!」


「そうかぁ! じゃあ大盛りにすればよかった!」


 店中に笑い声が広がる。


 見知らぬ人同士が自然と相席になり、ラーメンを食べながら会話を楽しんでいた。


「兄ちゃん、初めてか?」


「はい。肉屋さんに勧められて」


「驚くぞ」


「そんなにですか?」


「まずはスープから飲め」


「いやいや、麺からだろ」


「違う違う。最初はスープだ」


 いつの間にか常連らしいお客さんが、初めて来た人へ食べ方を教えている。


 厨房からその様子を見て、私は思わず笑ってしまった。


「ヴェダー!」


 七匹のヴェダーも大忙しだ。


 一匹は水差しを運び。


 一匹は空いたどんぶりを下げ。


 二匹はテーブルを拭き。


 残りの三匹は「いらっしゃいませ」と言わんばかりに入口でぴょこぴょこ頭を下げている。


「おお、かわいいな!」


「ヴェダー!」


 ヴェダーは褒められると葉っぱをぴんと立てて得意顔になる。


 窓辺では大きなシマエナガが気持ちよさそうに羽を整えていた。


「おい、見ろよ」


「あれ、本当に森の妖精なのか?」


「噂は本当だったんだ」


「ジュリ」


 視線に気付くと、小さく鳴いて首を傾げる。


「可愛い……」


 若い女性客が思わず頬を緩めた。


「でも逃げないのね」


「店主さんが助けたらしいよ」


「へぇ……」


 店へ入った時は半信半疑だったお客さんも、ラーメンと森の妖精の両方を見て感心して帰っていく。


 私は寸胴鍋の蓋を開ける。


 白い湯気がぶわっと立ち昇る。


 豚骨の甘い香り。


 丼へスープを注ぎ、茹でたての麺を入れる。


 チャーシューを二枚。


 刻みねぎを散らす。


「ラーメン、お待たせしました!」


「待ってました!」


 受け取った若い男性が、すぐにスープを一口飲む。


「……うまっ」


 思わず漏れた一言に、向かいの初老の男性が笑った。


「だろ?」


「こんな料理、生まれて初めて食べました」


「最初はみんなそう言うんだ」


 その隣では奥さん同士が話している。


「このチャーシュー、柔らかいねぇ」


「口の中でほどけるわ」


「家でも作れないかしら」


「この味は無理だねぇ」


 二人で顔を見合わせて笑っていた。


「店主さん!」


「はい!」


「スープまで全部飲んじゃった!」


 空になった丼を嬉しそうに掲げる青年。


「また来ます!」


「ありがとうございます!」


 自然と声にも力が入る。


 忙しい。


 本当に忙しい。


 でも、不思議と疲れは感じなかった。


 麺を茹でて。


 スープを注いで。


 チャーシューを盛り付けて。


 お客さんの「美味しい」を聞く。


 その繰り返しが嬉しくてたまらない。


「爽子さん!」


 入口からテオが顔を覗かせた。


「今日も満席ですね」


「おかげさまで!」


「外、五人くらい並んでますよ」


「えっ?」


 思わず入口から外を見る。


 本当だった。


 店の前には順番を待つ人たちが笑いながら列を作っている。


 その列の最後尾で、肉屋のご主人が大きな声を張り上げていた。


「豚骨スープは絶対飲めよ!」


「チャーシューも残すなよ!」


 すっかり宣伝係になっている。


 思わず吹き出してしまう。


 ご主人も私に気付き、大きく手を振った。


「爽子さん! 今日は豚肉、追加で持ってきたぞ!」


「ありがとうございます!」


「足りなくなると思ってな!」


 本当にありがたい。


 テオも苦笑しながら肩をすくめた。


「町中で噂ですよ」


「え?」


「『ヴェダー亭に行かないと人生損をする』って」


「そんな大げさな」


 私は照れ笑いする。


 でも店内を見回すと、どの席にも笑顔があった。


 誰かが笑えば、隣の席も笑う。


 初対面同士なのに話が弾み、ラーメンをきっかけに新しい縁が生まれていく。


 その光景を眺めながら、私は胸の奥でそっと呟いた。


(熊ちゃん……)


 現代日本で二人で営んでいたラーメンヴェダー亭。


 あの頃と同じように。


 いや、それ以上に。


 今、この店はたくさんの人の笑顔で満ちていた。


*・゜゜・*:.。..。.:*・'お読みいただきありがとうございます'・*:.。. .。.:*・゜゜・*


みなさまの『ポイント』や『スタンプ』に励まされています

これからもどうぞ爽子の旅路を見守ってください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ