第40話 川辺で丼
「やっぱり丼が欲しいなぁ……」
卵麺、豚骨スープ、チャーシューが出来上がった。
あとは……器。
私は腰に手を当て、食器棚を眺めた。
木製のボウル。
陶器の平皿。
小さなスープ皿。
どれも普段使いには十分だけれど、ラーメンを盛り付けるには少し浅い。
熱々のスープをたっぷり注ぐには心もとない。
「これじゃあ、スープがあふれちゃう」
「ヴェ?」
ヴェダーも一緒になって棚を覗き込む。
小さな手で木のボウルを持ち上げると、頭へすっぽりとかぶってしまった。
「ヴェダー!」
得意そうに歩き回る。
「あはは、それは帽子じゃないよ」
ボウルを外してあげると、ヴェダーは少しだけ残念そうに葉っぱを揺らした。
私は腕を組む。
「どうしようかな」
市場にも器屋はあった。
けれど置いてあるのは平皿や浅鉢ばかり。
この世界では汁物をたっぷり入れる器を使う文化が、あまりないらしい。
「だったら……」
一つの考えが頭に浮かぶ。
「作ればいいんだ」
私はぽんと手を叩いた。
異世界へ来てから、畑も作った。
鶏小屋も作った。
ラーメンだって作れた。
だったら丼くらい、挑戦してみてもいいじゃない。
「ヴェダー!」
ヴェダーたちも賛成するように葉っぱを振る。
「まずは粘土かな」
そういえば以前、川に魚がいないか見に行った時。
岸辺に灰色の土が露出していた。
あの時は気にも留めなかったけれど、もしかしたら焼き物に使える粘土かもしれない。
「行ってみよう」
私は籠を持つ。
ヴェダーたちも慌てて後を追いかけた。
店の裏手から森を抜け、小川まで歩く。
さらさらと水が流れる音が耳に心地いい。
「この辺だったかな」
岸へしゃがみ込む。
指で土を掘る。
少し湿った灰色の土が現れた。
「これかも」
手に取る。
水を含んでいて柔らかい。
ぎゅっと握ると、形が崩れずそのまま残った。
「おっ」
砂とは違う。
ねっとりとして粘りがある。
試しに細長く伸ばしてみる。
途中で切れない。
「いい感じ」
「ヴェダー!」
ヴェダーたちも真似をして粘土を丸め始めた。
一匹は丸い団子。
一匹は細長い蛇。
もう一匹は……。
「あれ?」
頭のてっぺんが尖った何かを作っている。
「チョボ?」
「ヴェダー!」
どうやらそのつもりらしい。
思わず吹き出してしまった。
「上手じゃない」
褒めると、嬉しそうに葉っぱを揺らす。
籠いっぱいに粘土を集めて店へ戻る。
まずは石ころや木の根を取り除く。
手で丁寧にこねる。
ぎゅっ。
ぎゅっ。
空気を抜くように何度も押し返す。
子供の頃、図工で粘土遊びをしたのを思い出した。
「懐かしいなぁ」
十分に練り終えると、大きな塊を丸くする。
両手で包み込み、親指をゆっくり押し込む。
少しずつ。
少しずつ広げる。
底を厚めに残し、縁を立ち上げていく。
「こんな感じかな」
でも思ったより難しい。
少し力を入れ過ぎると、縁がぐにゃりと曲がってしまう。
「あっ」
今度は底に穴が開いた。
「失敗」
苦笑しながら潰す。
「もう一回」
粘土は何度でもやり直せる。
二つ目。
三つ目。
四つ目。
少しずつ形になってきた。
ヴェダーたちも隣で夢中になっている。
「ヴェダー!」
一匹は小さなお茶碗。
もう一匹は壺。
そして一匹は……。
顔の付いた器を作っていた。
「それ、使いにくそう」
「ヴェダー!」
本人は満足そうだ。
夕方になる頃には、作業台の上へ大小さまざまな器が並んでいた。
その中に、一つだけ。
私が思い描いていた形に近い器がある。
丸く深く、口が少し広がった形。
ラーメンをたっぷり盛り付けられそうだ。
「これなら」
私はそっと持ち上げた。
まだ柔らかく、乾いていない。
けれど形は悪くない。
「次は焼かないとね」
問題はそこだった。
窯はある。
でもパンを焼く窯と、陶器を焼く窯は同じでいいのだろうか。
温度は。
時間は。
釉薬は。
わからないことだらけだ。
それでも胸は不思議とわくわくしていた。
ラーメンを完成させる最後の一歩。
私は夕日に照らされた粘土の丼を見つめながら、小さく拳を握った。
「よし。今度は焼き物に挑戦だ」
*・゜゜・*:.。..。.:*・'お読みいただきありがとうございます'・*:.。. .。.:*・゜゜・*
みなさまの『ポイント』や『スタンプ』に励まされています。
これからも爽子の旅を応援してください。




