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異世界北海道 夫を探して異世界へ来たら、夫にはもう妻がいました ~食堂酒場を開き、幸せになります~  作者: 雫石しま


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第34話 出来た!濃厚豚骨ラーメン

 寸胴鍋の中では乳白色の豚骨スープがグツグツと音を立てている。


 立ちのぼる香ばしく濃厚な香りが食欲をそそる。


 昨日一日かけて炊き上げた豚骨スープ。


 骨の髄まで溶け込んだ白いスープは、とろりとした艶をまとっている。


 私は木杓子でそっと混ぜる。


 湯気と一緒に立ちのぼる香りを胸いっぱい吸い込んだ。


「うん」


 思わず頷く。


 ちゃんと豚骨だ。


 異世界で初めて炊いたとは思えないほど、懐かしい香りがしていた。


 隣の大鍋には麺籠が準備され、湯が沸騰するのを待っている。


 ぼこぼこと大きな泡が上がり始めた。


「もうそろそろいいかな?」


 私は保冷箱から熟成させていた卵麺を取り出した。


 布を開くと、小麦の優しい香りがふわりと広がる。


 まな板の上へ広げ、手でパラパラとほぐす。


 一本一本が気持ちよく離れていく。


 その様子を見ていたヴェダーたちが、体を左右に揺らし始めた。


「ヴェダー!」


 どうやら真似したいらしい。


 一匹が麺を一本持つ。


 反対側を別の一匹が持つ。


「ヴェダー!」


「ヴェダー!」


 二匹で引っ張り合いを始めた。


「だめだめ」


 私は慌てて取り上げる。


「まだ料理の途中だから」


「ヴェダー……」


 少しだけ残念そうに葉っぱを垂らす。


 その横でシマエナガは首を傾げながら、「ジュリ」と不思議そうに麺を眺めていた。


 大鍋は勢いよく煮えたぎっている。


 ぐらぐら。


 ぼこぼこ。


 熱湯が卵麺を待っているようだった。


 ごくり。


 思わず喉が鳴る。


 いよいよだ。


 私は麺の打ち粉を軽く払う。


 余分な粉がさらさらと落ちていく。


 麺籠を持ち上げる。


 一つ。


 ふわりと麺を入れる。


 二つ。


 優しく重ねる。


 三つ。


 全部入れ終えると、そのまま静かに湯の中へ沈めた。


 すぐには触らない。


 これも大切なコツだ。


 少しだけ待つ。


 表面が落ち着いた頃を見計らって、菜箸を差し込む。


 くるり。


 くるり。


 優しくほぐす。


 麺が踊るように湯の中を泳ぎ始めた。


「いい感じ」


 黄色い卵麺が少しずつ透明感を帯びていく。


 私は一本だけ箸で持ち上げる。


 指先で軽く押す。


 まだ少し固い。


 もう少し。


 時計なんてない。


 頼れるのは長年の勘だけだ。


 もう一本。


 口へ運ぶ。


 もちっ。


 歯を押し返す弾力。


 その奥に、ちょうどいい芯が残っている。


「よし」


 今だ。


 私は麺籠を勢いよく持ち上げた。


 チャッ。


 チャッ。


 チャッ。


 手首を返しながら湯を切る。


 勢いよく振るたび、水滴がきらきらと飛び散った。


 深めの器へ麺を滑らせる。


 その上から、熱々の豚骨スープをたっぷり注ぐ。


 乳白色のスープが麺を優しく包み込んだ。


「いただきます」


 市場で買ってきた青ねぎを刻む。


 彩りに散らす。


 今度はチャーシューをのせてみよう。


 最後に黒胡椒を少しだけ。


 湯気が立ち上る。


 豚骨の甘い香り。


 小麦の香り。


 ねぎの爽やかな香り。


 全部が混ざり合って、厨房いっぱいに広がった。


「できた」


 私はどんぶりを両手で持ち上げる。


 白い湯気の向こうに、黄金色の卵麺が揺れている。


 ヴェダーたちは目を丸くしていた。


「ヴェダー!」


 シマエナガまで首を伸ばして覗き込んでくる。


「熱いから気を付けてね」


 私は小さな器へヴェダーたちの分を取り分け、少し冷ましてから並べた。


「いただきます」


 両手を合わせる。


 まずはスープを一口。


 れんげを口へ運ぶ。


「……!」


 思わず目を閉じた。


 豚骨の旨味がじんわりと広がる。


 臭みはなく、まろやかで優しい甘みが口いっぱいに残った。


「美味しい……」


 異世界へ来てから、ずっと恋しかった味。


 完全に同じではない。


 でも間違いなく、私の知っているラーメンの味だった。


 今度は麺を箸で持ち上げる。


 つやつやと輝く黄色い卵麺。


 ふうふうと息を吹きかけて口へ運ぶ。


 ずるっ。


 もちもち。


 しこしこ。


 豚骨スープが麺によく絡んでいる。


 噛むたびに小麦の香りが広がった。


「うん!」


 自然と笑顔になる。


「これだ」


 私が作りたかったラーメン。


 ヴェダー亭の最初の一杯。


 ようやく形になった。


「ヴェダー!」


 ヴェダーたちも器を抱えて夢中になって食べている。


 熱いのか、ふーふーと息を吹きかける真似までしていた。


 一匹は口の周りを真っ白なスープだらけにしている。


「ゆっくり食べてね」


「ヴェダー!」


 シマエナガは器へ顔を近付けると、「ジュリ」と鳴きながらスープを一口飲んだ。


 それから目を丸くして、もう一口。


 さらにもう一口。


 すっかり気に入ったようだった。


 気付けば、どんぶりは空になっていた。


 最後の一滴まで飲み干す。


 ふぅ、と息を吐く。


 身体の芯から温かくなっていた。


 私は空になったどんぶりを見つめ、静かに微笑む。


「よし」


 あとは、この一杯を誰かに食べてもらうだけだ。


 真っ先に思い浮かんだのは、銀縁眼鏡の奥で少し照れたように笑う、あの真面目な農業ギルド職員の顔だった。


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