表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界北海道 夫を探して異世界へ来たら、夫にはもう妻がいました ~食堂酒場を開き、幸せになります~  作者: 雫石しま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/81

第23話 鶏小屋を作る

 翌日――。


 朝露に濡れた椎木の葉が、きらきらと朝日に輝いていた。


 窓を開けると、ひんやりとした風が頬を撫でる。


 鳥たちのさえずりが聞こえ、どこからか焼きたてのパンの匂いまで漂ってきた。


「今日もいい天気」


 私は大きく背伸びをする。


 昨夜は不思議なくらいぐっすり眠れた。


「上田――」という声に怯えていた日々が、もうずいぶん前のことのように思える。


 原因が分かるだけで、こんなにも安心するものなんだ。


 振り返ると、五匹のヴェダーたちが床へ転がるように眠っていた。


 丸い身体を寄せ合い、頭のフキの葉を重ねるようにして眠っている。


「ふふっ」


 思わず笑みがこぼれる。


 本当に毬藻みたいだ。


 その横ではチョボが「コッコッ」と小さく鳴きながら、ヴェダーたちを不思議そうに眺めていた。


「仲良くしてね」


「コケッ」


 返事なのか分からない鳴き声が返ってくる。


 私はエプロンを結び直した。


「よし」


 今日はやることがたくさんある。


 まずは――。


「鶏小屋を作ろう!」


 ◇


 庭へ運んでおいた木材を並べる。


 昨日市場で買った杉板は、思っていた以上にしっかりしていた。


 長い板。


 短い板。


 屋根用の薄い板。


 釘。


 金槌。


 針金でできた丈夫な網。


 全部地面へ並べると、小さな工房みたいだ。


「熊ちゃんだったら、あっという間に作っちゃうんだろうな」


 自然と呟く。


 熊ちゃんの趣味は日曜大工だった。


 ラーメン屋が休みの日になると、ホームセンターへ出掛けて木材を買ってきた。


 棚を作ったり。


 椅子を直したり。


 カウンターへ調味料置きを付けたり。


 いつも嬉しそうにトンカチを握っていた。


「爽ちゃん、釘は真っ直ぐ打つんだよ」


 そんな声まで思い出す。


 私は隣で板を押さえたり、釘を渡したりする係だった。


 最初は指を叩いてばかりだったけれど。


 少しずつ覚えた。


「……見よう見まねだけど」


 きっと何とかなる。


 私は木材を直角へ合わせる。


 トントン。


 釘を一本。


 もう一本。


 少し曲がった。


「あっ」


 慌てて抜く。


「難しいなぁ」


「ヴェダー」


 小さな声が聞こえた。


 見ると、一匹のヴェダーが板の角をぎゅっと押さえている。


「え?」


 さらにもう一匹。


 もう一匹。


 五匹全員が集まってきた。


 それぞれ細い手足で木材を支えてくれている。


「手伝ってくれるの?」


「ヴェダー!」


 葉っぱがぴょこんと揺れた。


「ありがとう」


 思わず笑顔になる。


 おかげで板が動かない。


 釘も打ちやすい。


 トントントン。


 リズム良く金槌を振るう。


 一匹は釘を運び。


 一匹は金槌を見つめ。


 一匹は網を押さえる。


 小さな身体なのに、一生懸命働いてくれる。


「みんな偉いね」


「ヴェダー!」


 嬉しそうに跳ね回る。


 途中でチョボまでやって来た。


 木屑をつついて遊んでいる。


「そこはまだ入っちゃ駄目」


「コケッ」


 名残惜しそうに戻っていく。


 その姿がおかしくて笑ってしまった。


 昼前には鶏小屋の形が出来上がっていた。


 最後に針金の網を木枠へ張る。


 タッカーなんて便利な道具はない。


 一つ一つ釘で固定していく。


「よし」


 ぐらつきもない。


 思っていたより上出来だった。


 置き場所は最初から決めてある。


 椎木から少し離れた日当たりのいい場所。


 午前中は暖かな日差しが差し込み。


 午後になると白樺の木が優しい木陰を作ってくれる。


 風通しもいい。


「チョボ、気に入ってくれるかな」


 試しに中へ入れてみる。


 チョボは辺りを見回しながら歩き回る。


 コッ。


 コッ。


 しばらくすると満足そうに鳴いた。


「よかった」


 私は胸を撫で下ろす。


 屋根を見る。


 まだ木肌のままだ。


「せっかくだし」


 店の屋根を塗った時に残った青いペンキ缶を持ってくる。


 刷毛へたっぷり付ける。


 すーっと塗る。


 鮮やかな青色が広がっていく。


「綺麗」


 ヴェダーたちも刷毛を持とうとする。


「だめだめ」


 慌てて止める。


「身体まで青くなっちゃうよ」


 それでも一匹は葉っぱへペンキを付けてしまった。


「ヴェッ」


 真っ青になった葉っぱを見て目を丸くしている。


「もう」


 私は笑いながら布で拭いてあげた。


 小さな鶏小屋が完成する。


 店とお揃いの青い屋根。


 遠くから見ると親子みたいだった。


「可愛い」


 満足そうに頷く。


「……さて、と」


 今日はみんなへお礼をしよう。


 私は厨房へ戻った。


「ヴェダー!」


 五匹もぞろぞろ付いてくる。


「そんなに楽しみ?」


「ヴェダー!」


 元気な返事が返ってきた。


 私はボウルへ小麦粉を入れる。


 砂糖。


 塩。


 泡立て器でよく混ぜる。


 さらさらと粉が踊る。


 そこへビールを一気に注いだ。


 しゅわっと泡が立つ。


 木べらでざっくり混ぜ合わせる。


 粉っぽさが消えたところで、細かく砕いたチーズをたっぷり加えた。


「今日は特別」


 ヴェダーたちの大好物。


 チーズパンだ。


 型へ流し込む。


 窯へ入れる。


 焼き時間は一時間くらい。


 でも、この世界に時計はない。


 朝日が昇れば朝市が始まり。


 昼になれば職人たちが昼休みを取り。


 夕日が傾けば夕市が開く。


 月が昇れば家へ帰る。


 みんな太陽を時計代わりに暮らしている。


「そろそろかな」


 私は何度も窯の中を覗く。


 表面が少しずつ色付いていく。


 チーズが溶けて香ばしく焼け始めた。


 ふわり。


 甘くて香ばしい匂いがキッチンいっぱいへ広がる。


「ヴェダー!」


「ヴェダー!」


 待ちきれなくなった五匹が、床をぱたぱた走り回る。


 右へ。


 左へ。


 くるくる回りながら窯の前へ集まる。


 チョボまで「コッコッ!」と嬉しそうに鳴き始めた。


 焼きたてのチーズパンの香りに包まれたヴェダー亭は、今日も笑い声でいっぱいだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ヴェダーたちが一生懸命お手伝いする姿も可愛らしい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ