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23『退屈の国のアリス』

 いつまで経ってもルベローチェとハーヴィが帰ってこない。加えてルールーも研究室にこもりっきり…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 ……………………………………………………………………………………………。

 ………………………………………………………………………………………。

 …………………………………………………………………………………。


 アリスは、部屋の隅から隅へ行ったり来たりする遊びをしたり、椅子の上で膝を抱えてみる遊びをしたりと、自分なりの娯楽を生み出しながら時間をつぶしていました。


「嫌になっちゃうわ、私」

「なにがだ?」

「ずっと独りぼっちよ」


 ルールーが研究室から出てくるのは数日に一度の食事の時だけ。アリスはここぞとばかりの不満を漏らします。


「なるほど、ならいいものを君にあげよう」

「なにかくれるの?」

「ああ、少し待っていてくれ」


 一度研究室に戻ったルールーは、自分の背丈くらいある縦長の板を抱えて戻ってきました。


「え! 誰かしら!」


 板には、金髪碧眼の可愛らしい少女が映っています。


「君だよ、アリス」

「私なの? この、可愛い子は私なの? そういえば、窓に映る私に似ているわね」


 ルールーが持ってきた板は、鏡だったのです。


「気に入ったかい?」

「ええ。とっても。でも、怒ってもいるわ」

「なぜかな」

「こんなに素敵なものを、ずっとあなたは独り占めしていたのね」


 研究室には入るな――――――これは家から歩いて七分ほどの場所にあった研究所に行くのをやめて…………せめて…………長々と研究するならば二階の空部屋にいてほしいというアリスのわがままを聞く際にルールーが出した交換条件です。まあ、条件を守ることは、アリスにとってなんら難しいことではありませんでしたが。


「許してくれアリス。でも、君がいい子であることを証明するためには、たくさんプレゼントを用意しておかないといけないのだよ。言っただろう、あの部屋は君を喜ばせるためにあるのだと」


 なぜならば今ルールーが研究室としている部屋は、元から、アリスお断りの部屋だったからです。


「まだあるの?」

「もちろん。君はとてもいい子だから、これからも、とっておきのプレゼントをあげるつもりだ。だからあの部屋には入ったらだめだよ。見られたら、プレゼントがプレゼントでなくなってしまうからね」


 アリスは今後も、研究室に立ち入らないという約束を守り続けようと思いました。約束さえ守っていればいい子であり続けることができると、本気で思っているのです。



 食事を終えたルールーは、また研究室へと戻っていってしまいました。でも、アリスは退屈を感じたりはしません。鏡の中の自分という最高の話し相手を手に入れたのですから!


「あなたはだあれ?」

「あなたはだあれ?」


 鏡の中の自分は、左右はあべこべだけど同じ言葉を同じタイミングで返してくれる。こんなにも思い通りになる会話は、今まで経験したことがありません。


「私はアリス」

「私はアリス」


 自分がもう一人いるということが、こんなにも嬉しいことだなんて! アリスは嬉しくて嬉しくてたまらなく、鏡の前で跳ねたり揺れたりしています。


「あなた、とっても可愛いわね」

「あなた、とっても可愛いわね」


 思っていたことを口に出すと、思ったことが返ってきます。


「あなた、とってもすごいのよ」

「あなた、とってもすごいのね」


 キャッキャと笑えば、鏡の中の自分も笑ってくれる。


「あなた、とっても素敵ね」

「あなた、とっても素敵ね」

「あなた、とっても立派よ」

「あなた、とっても立派よ」

「あなた、とってもすごいの」

「あなた、とってもすごいの」

「あなた、とっても可愛いわ」

「あなた、とっても可愛いわ」

「あなた、とってもとってもよ」

「あなた、とってもとってもね」


 アリスの薄い胸の中で喜びが、叩き割ったキャンディーのようにはじけまくっていました。


「あなた、とってもすごいのよ」

「あなた、とってもすごいのね」


 鏡の中の自分と、どんどん仲良くなっていく気がします。


「私、すごいのかな?」

「あなた、とってもすごいのね」


 鏡の中の自分が、心の中だけで思っていることまで理解できるようになってきた気がしました。


「私、あなたと友達になれる?」

「私、あなたと友達になれる?」

「なれるよ、だってあなたは私だから」

「なれるよ、だってあなたと私だから」

「なれるの?」

「なれるの?」

「そうね。話は変わるけど私、今とても良いことを思いついたの」

「そうね。話は変わるけど私、今とても良いことを思いついたの」


 アリスは自分の背丈よりも大きな鏡をズリズリと慎重に動かし、窓辺へと運んでいきました。


「思ったとおりね」

「思ったとおりね」


 鏡に、夜空が映り、アリスはそっと、鏡に触れます。


「これがあれば空にさわれちゃう」

「これがあれば空にさわれちゃうのね」


 アリスは、鏡に映る景色の奥行きが理解できないのです。


「あなたの世界は、四角いのね」

「あなたの世界は、四角いのね。そこが少しだけ残念だわ」


 アリスにとって鏡は、平面世界でしかないのですね。

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