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22『天才科学者は詩人であり、二』

 アリスは、過去を懐かしみぼんやりしているルールーの顔を下から見上げるように眺めていました。


「ルールーは、他に大人がいなくても寂しくないの?」

「私は特に、そうしたことは思わない」


 世界が平面化した直後の世界には、ルールーと同レベルの科学者が多数存在していました。平面化により社会倫理が崩壊、モラルと条約を無視した脳の処理速度向上改造とクローン技術を目一杯利用できた結果、大科学者時代とも呼ばれた天才だらけの時代があったのです。


「どうして? 大人は大人と話したほうが楽しいんじゃないの?」

「じゃあ、なぜ人は子を産むんだい?」

「そっか、大人にとっても子どもが一番の相手なのね」

「そうかもしれないね、私でさえこの世界がとても好きなのだから」


 数々の天才の中で、なぜルールーだけが生き残ったのか。


「あ! また意味の分からないことを言った!」


 それは、彼女に突出した才能があったおかげです。ドクターストライプこと、ルールー・ララトアレ最大の才能は、狂わないこと。理屈と理由と理解の上に成り立っていたはずの科学が、不思議化などというわけのわからない現象に飲み込まれ崩壊していく中でもルールーは精神を病むことなく、意志がブレることもなく研究を続けることができたのです。


「学者の言うことなんて、理解できなくても世界は回るんだよ」

「私のこと、馬鹿にしてるの?」

「いいや、馬鹿は私だ」


 この、フィクションじみた世界に、徹夜で構築した理論をなかったことにされたのは一度や二度ではありません。この、子どもじみた世界に、血尿を流しながら解いた式を根本から破壊されることなんて日常茶飯事です。そんな、果てしなく繰り返される理不尽と不条理の中でもルールーは狂うことなく今日まで歩んできました。だからこそ彼女は、世界最後の科学者になれたのです。


「そうね、あなたは馬鹿よ」


 ルールーは時々、思い返します。学者の死因の第一位が脳への過負荷による神経回路損傷事故ではなく、自殺になったあのころを。そして懐かしさとともに、珈琲を飲むのです。学者にはやはりカフェインだと微笑みながら。

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