外伝2 誰かの会話
もう一話あるのだよ!!外伝ですが。
とある研究室の一角。一人の男が休憩がてら窓の外を眺めながらコーヒーを飲んでいた。天気は良く入道雲がもくもくと夏の青空を白く染めている。普段男は滅多に外には出歩かないが、室内にいても身が溶けそうになる夏の暑さに少々気が滅入っていた。
日付にして8月。彼は普段1時間も休憩を取らないが、今日は彼の感覚が誰か来ると予想したことでいつもより長めの休憩を取っている。
事前にアポなどを取っていた訳でもないので、どんな人物が来るのかはたまた性別もわからない。ただ「来る」という感覚だけを頼りに彼は客人を待ち続けているのだ。
長い待ち時間は不安を焦りに変貌させる。もしかしたら来ないのではないか?そもそも確信の無い感覚に頼ってばかりで大切な研究の時間を疎かにしていないかと無駄な思考を巡らせては思考の安定化を図る。
気を落ち着かせるために席につこうとした時だった。コンコンという優しい2回のノックの後に中に人が入ってくる。
男は研究の内容をすぐに人に見せないようにするために、部屋を2分するように灰色のカーテンで仕切っていた。
訪問者は男に質問をしていいかを聞いてきた。もちろん彼はもとよりそのつもりだったので快く引き受けた。質問の内容はかなり素っ頓狂で一般人には理解できても信じることは出来ないだろう。
しかし、男は質問に対してこう答えた。
「混合獣が未来視を使ったことについてか・・・。君もあの報告書を読んだのかな?まったく、馬鹿な話だよねえ。人の進化が人類に新たな発展をもたらすために『人の進化』を起こすのに、人以外の物を混ぜちゃったんだよね。あれじゃ人の進化じゃない。ただの混合獣の進化だよ。」
男は椅子に座り、遠くを見つめながらさらに語りだした。
「そもそも未来視には2種類あってね。『明るい未来視』と『暗い未来視』ってのがあるんだよ。文字通りいい未来と悪い未来が見えるんだよね。で、それが何を指すのかというとね。明るい未来ってのは自分にとって都合の良い未来。例えば絵を描いているときに、『ここをこうしたらもっとうまく描けますよ。』っていうのが明るい未来視。暗い未来視なんかは、『もしかしたら絵具のチューブの中から勢いよく絵具が飛び出してくるかもしれない』っていうのがわかるわけね。一見ちょっと便利なものに見えるだけかもしれないけど、それは絵を描くという行為に対して未来視を使ってるからで、例えば人の人生の少し先が見えていいことがあったり悪いことがあったらそれを教えて人に役立ることも出来るだろう?けどそれってある種の慢心を生んだり、人を必要以上に恐怖させたりもしちゃう。悪い未来を予言ばかりしたら当の本人は消極的な行動しかとれなくなる。いいことばかり告げて努力をしなくなったり予言にしか耳を傾けなくなってしまったら、それこそ人生の破綻に繋がるだろう。混合獣の件はどっちかわからないけど、多分明るい未来視だろうね。視界に入るもの全てが自分にとってよく視える。暗い未来視だったら今でもどこかに隠れて出てこなかっただろうね。」
途中で聴者はある一つの質問をした。今の話をしっかり聞いていていたらごく自然に生まれる疑問だった。
「ふむ。なら両方を未来視を持っていたら良い方も悪い方もわかるから、それを判断材料にして最良の未来を導き出せたらいいのでは?、か。確かに過去に両方の未来視を持っていた娘はいたよ?でも死んじゃった。それを説明するためにもう一つステップを踏もうか。」
男は座り直し、コーヒーを啜った。ちらりと客人のシルエットを確認したがそれほど背が高いわけではなく、どちらかというと子供という印象を受けた。若いのに勤勉なことだと思い、話を続ける。
「未来視っていうのはね、研究の結果でわかってきたんだけど、自分の視界に入る物の未来しか視えないんだよ。しかも制限したくても視えている限りは勝手に未来の情報が頭の中に入ってくる。『明確に物を目で捉えた時に情報が入ってくる』みたいで、視る時以外は目を閉じていたり、生活に支障が無いくらいに視力を落とすケースもあるね。それでこそ全ての情報を脳一つで制御しようと思ったら卓越した分析能力を持った人物じゃ無いと無理だね。大抵は処理能力が追い付かなくて負荷死。」
コホンと息をついて、男は仕切り直す。もしかしたら話しづらい内容なのかもしれない。
「さっき言ってた娘なんだけど、負荷死だよ。両方の未来視を持つ少女に魔術師たちが託した難題は世界の未来を視ることだった。世界の未来を知ることで我々人類はどういった道を進んでいけばいいかを調べる。成功すればとんでもない人類資産になる。良い未来、悪い未来を集め、分析し、最良の選択が出来たらどれほど素晴らしいことか。けど、どうやって世界の未来を見るのかって?簡単な話しさ、見下ろせばいいんだよ。魔術師たちは遥か上空に浮き続けられる家を作った。原理はよくわからない。けど、それが魔術ってことだけはよくわかる。明らかに人知を超えた力で人類が試したことが出来ない領域に魔術師は踏み込んだんだよ。まあ、結果は失敗だった。少女の脳に接続し、伝わった脳波を分析し、映像として映し出す。僕も最初はうまくいったと思ったよ、映像が映し出されるまではね。映像が映し出された瞬間に少女は大声を上げ悶えだし、最後には頭が破裂して死んだよ。本当に・・・凄惨な光景だった。魔術師たちの挑戦は失敗に終わり、視えた未来は約15秒だけ。そこには何も変わらない僕たちの世界があったよ。こうして魔術師は人類の資本ともいえる両未来視を失ったんだ。・・・随分と長話をしてしまったね。立ちっぱなしで辛くないか?何ならこっちに座って話の続きをしようじゃないか。」
男がカーテン越しの客人をもてなそうと立ち上がった時に客人は答える。
「そうか。気が付けは小一時間も話していたんだね。すまない、僕の研究に興味を持つ人はあまりいないからつい長話をしてしまった。ああ、あと補足しておくと僕は魔術を使ったことが無いんだ。それでも魔術師を名乗っている、魔術を使うことだけが魔術師じゃないと肝に銘じてほしい。それじゃあ、またね。小さな魔法使いさん。」
魔法使いはぺこりとお辞儀をし、感謝の意を伝えるとパタパタと研究室を後にした。
男は立ち上がり、窓の前に立つ。昼を過ぎた太陽は徐々に傾き部屋の中を赤く燃え上がらせようとしている。
「未来なんて見るもんじゃ無いのにね。まあ彼らは視るんじゃなくて視えるんだけどね。」
バタバタと音を立てながら廊下を走る音が聞こえる。きっと彼女が来たんだろう。いつも慌ただしく時間ギリギリに私の元に来る。あれほどギリギリに来るなと言っているのにギリギリ癖は治っていない。勢いよくドアが開かれる。バタンと開いたドアは隣にあった棚に勢いよくノックをし、棚はいくつかの薬瓶を吐き出し、床を汚す。パリンパリンと割れた薬瓶を見た彼女は慌てて謝罪をし、床に散らばったものを片付けようとする。
「いいですよ。私が片づけますので。今はそれよりも大事な話があるのですから。」
すると少女はピタッと止まり、身だしなみを整え始めた。いやいや、そこまで畏まらなくても。
「我が弟子よ。あなたについに試練を与える時が来ました。試練の内容は調査ですね。ゴーストタウン阿原に潜入してそこでの活動を記録して定期的にこちらに送りなさい。そうですね。月1くらいでいいでしょう。そこで見た物やおかしいと思ったことを記入してこちらに送ってください。あ、別に晩御飯の献立は書かなくてもいいですよ。あなた日記に書くこと無くなったらよくするでしょう?もし困ったことがあったら阿原の地にいる御道家継という人物を訪ねなさい。きっと役に立ってくれますよ。私とは知合いですから私の名前を出せばきっと快く接してくれるでしょう。いつから?ああ、日時を指定してませんでしたね。8月中に引っ越しを済ませて、9月からは地元の学校で生活をしてもらいます。ゴーストタウンなのに学校があるのかって?質問が多い子ですね~。そりゃ学校はありますよ。南隆盛高校という学校がちゃーんとありますよ。総生徒数も902人とまずまずです。私たちの時代からすればそこまでですが。さあ我が弟子よ!さっさと身支度をしないと1週間後の引っ越しに間に合いませんよ!え、聞いてない?そりゃそうですよ、今言いましたから。」
少女はきょとんとしている。
「そもそもあなたが先週一週間旅行で家を空けたことが事の発端で本当なら1週間前から準備は始まっていたんですよ?というか私へのお土産は!?私はあなたの師匠何ですからお土産の一つくらい用意すべきですよ!ああぁ何たる不敬!私が国家の犬だったら私はあなたを不敬罪で逮捕しているくらいに不敬ですよ不敬!あぁー不敬!不敬!・・・もういいです。早く準備に取り掛かりなさい。あっそうだステイステイ、あなたが寝泊まりする場所は『山垣壮』という場所だよ。お隣さんもいるだろうから、怪しまれないようにちゃんと挨拶をしておくんだよ。はい、行ってよし。」
「犬みたいに言わないでください!」少女はそう言ってから急ぎ足で出て行った。
「ふーむ。彼女が出て行ってしまったら私の相手をしてくれる人がいませんね。これを機に新しおもちゃを探すべきでしょうか。片づけ・・・誰か呼んでやらせましょうか。おーい!安本くぅーん!」
呼んでも来ない。3度くらい呼びなおしても安本君はやって来ない。
「もう・・・。仕方ない私が片づけますか。私って人望無いんですかね・・・。」
そう言って魔術師はしょんぼりしながら薬瓶を片付け始めた。その中の一つにどこかで嗅ぎなれた医薬品の匂いがした。
わき道に逸れたお話やキャラを深めようとするために外伝挟みたいんですけど、いざ考え始めると自分の設定の煩雑さがすごく目立ちます。もう少しちゃんとまとめた方がいいかなって思ったりもしつつ面倒だからやらないっていう・・・。




