誕生日プレゼント
「え~今日のニュースです。本日の正午から宇宙に向けてスペースシャトルが発射されます。地球外の調査はこれが人類初で、これまで宇宙にはいくつもの星があり、一番近い惑星は月、他にも様々な星があると研究の成果でわかってきましたが、今日からの調査でその真実が明らかになります。今朝早くからも大量の報道陣がスペースシャトルの発射を見届けるために基地周辺に集まりつつあります。」
いつも通りニュースを見ながら朝食のトーストを食べる。そういえばGW殺人事件について報道をしているところを見た気がしない。単純にテレビを見ない時間が増えたせいかもしれないが、今必要なのは社会情勢ではなく、魔術に関しての知識だ。。
町が修復した現象。あれを何らかの魔術的現象と捉えた俺は、家にある魔導書を片っ端から読み始めた。
父さんに聞くのは・・・少々気が引けた。父さんに聞けば全部答えが返ってくる。父さんに聞いて答えが返ってくるだけじゃ芸が無いと最近思い、自分で答えを見つけようとすることにした。
たとえ答えが出なくても、調べたことが全て無駄にはならないし、「答えが出ないのは知識不足からだ。知識を付ければ自然と答えは出る。」、と父さんはよく言っている。
父さんの返答の速さが真実であると物語っているし、言いたいことはわかるが正直見習いに毛が生えたくらいの魔法使いの知識で物事を見通すなど慢心もいいところだろう。
サク サク サク サク サク
リズムよくトーストを齧りながら、魔導書に目を通し、耳からニュースを聞き流す。五感を全て使い1秒も時間を無駄にしまいと脳を働かせる。
折角脳に栄養を送っているのに、すぐさま消費してしまっては元も子も無い気がするが。それに、なんだか生き急いでいる気がして虚しい気持ちにもなる。俺まだ16だってのに。
ニュースはすでに別の話題、夏のおでかけ特集をしていた。そこにはちらりとだけ、俺たちが旅行で向かう蒼い海が映った。
朝の強い日差しが目覚めつつある町を照り付け、じりじりと鳴き叫ぶ蝉の声がこだまする。俺は日陰にあるベンチに腰かけてぼうっと、町を眺めていた。
麗虎が買い物に付き合って欲しいと言っていたので付き添うことになったが俺は荷物持ちでもさせられるのだろうか?まあ、今日は暇だったしずっと部屋に籠ったままではいけないと思い、こうして外に出ている。途中で買ったペットボトル飲料に口を付けながら集合の時間が来るまで思考を巡らせることにした。
町が修復する様を見たあの日から俺は九道とほとんど会話をしていない。帰宅部にもたまにしか顔を出さないし来ても反応が虚ろだ。九道なりの考えがあると思っているが、ショックの方が大きいのだろう。
まあ、人の手を一切加えないで町が戻っていくなんて普通じゃ想定できないもんな。無論、帰宅部には話していない。興味本位で夜に出回られても困る。
俺が今日までで調べてわかったことは、あの現象は建設魔法である可能性が高いということだ。建設魔法とは、自らの魔力を使用して建物をイメージ通りに建てる。壁の材質や間取りなども忠実に魔力で再現できるが、魔力の消費量が大きく、こだわりの間取りや狭い場所に建物を作るとき以外は基本的にコストパフォーマンスが悪く、極めた魔法使い以外は扱いが難しいことが多く、極めようと思う魔法使いの数は少ない。隠れ家程度のサイズならたとえ地中にも部屋を作れるので、身を潜めたいときに使うのが効果的と言える。
町一つを完璧に修復するとなると、それこそ魔術の領域になる。圧倒的魔力を持った魔法使いか、魔術を扱える魔術師がこの町に潜んでいる。そう考えるのが妥当だろう。
けど、何故壊れた町を修復するんだ。人を寄りつけたくないのなら壊れたままにしておけばいい。俺たちが暴れまわっても問題ないように陰ながら「協力」しているのか、別の目的があり「中立」しているのか、俺たちを「試している」のか。魂喰らいが現れ続けている理由にヒントになればいいのだが俺はその魔術師の手がかりを掴んでいない。
結局いるかいないかわからない、魔術師に目くじらを立てる訳にもいかず、ひとまず町を壊しても平気なら最大限利用させてもらうまでだ。
グイッとジュースを自らの肉体に流し込み、体の渇きを癒す。連日の猛暑が続いており、日陰にいても少なからず汗を掻いてしまう。集合時間の10分前に来ただけなのに、Tシャツが汗でほのかに湿っている。
程なくして麗虎がやって来た。白いワンピースにサンダル、黒い小さなバックを持ちこちらに手を振りながら走り寄ってくる。その姿はさながら白鳥のようだった。
「お待たせしました。どのくらい待ちましたか?」
「待つも何も集合時間丁度じゃないか。俺も今来たところだよ。んで?どのくらいの荷物量なんだ?」
麗虎はキョトンとするとすぐに意味に気が付き慌てて訂正する。
「荷物持ちじゃ無いですよ。明日姉さんが誕生日なので買うものを一緒に決めて欲しかったんです。」
白鳥姉妹は毎年誕生日になるとお互いに一つずつプレゼントをするようにしているそうだ。1年で最も楽しみな日と麗虎も豪語している。
誕生日か、あまり目立ったお祝いをしてもらったことは無いな。姉さんたちはすごい楽しそうにしてるけど、生まれた日を祝うって何だろうな。
「上げる物の目途は立ってるのか?」
「一応新しい服を買ってあげようかなと。」
「服か・・・。俺自分の服も選んだことも無いのに。俺なんかで大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。それに姉さんには内緒にしておきたいし、他の二人は今日呼べませんから。」
九道は一番日に焼ける理由を作ったであろう庭の掃除。こんな暑い中で草むしりとはご苦労なこった。黒橋は妹とお留守番をしているらしい。
「まあいい、ひとまず行くか。」
俺と麗虎は店に向かって歩き出した。
「これとかどうでしょうか?」
麗虎が一着の服を見せてくる。赤を基調とした半袖のパーカーを持ってきた。
「お、中々いいじゃないか。いかにもあいつが着てそうな感じがしていい。」
「そうですか?色合いはそうかもしれませんが、姉さんは家では基本浴衣ですよ?」
「まじで?あいつってもっとラフな格好しているものだと。『仕事』に来るときは動きやすい恰好で来るのにわざわざ着替えてるのか。」
「姉さんは正式な跡取りだからお父様がそういうのにうるさくて。私の服装は基本自由ですが、姉さんはではあまり着飾らないようにしてます。」
そう言うと、麗虎は目を逸らした。どうやらこれ以上踏み入って聞くのはまずそうだ。
「そっか、じゃあなるべくいい物を選んだ方がいいよな。あいつが普段着ないようなものは・・・。」
思ったが俺は今、女物の洋服屋さんを歩き回っている。俺こんな場所にいてもいいのか。ここに居ることのもどかしさからか俺の悪戯心があるものへと視線を誘導した。
ほう、これ割と良いんじゃないか?
「なあ麗虎、これとかどうだ?」
ニコニコしながら麗虎に渡す。
「こ、これですか?少し大胆な気がします・・・。」
「いいんじゃねえか?お前からの誕生日プレゼントならありがたく受け取るだろう。なんなら俺が金出してやるから。」
「そ、そうですか。じゃあこのパーカーと一緒にお願いしてもいいですか?」
「おう。」
こうして俺と麗虎の買い物が終わる頃には正午になる前だった。俺は麗虎と昼ご飯を食べてから分かれた。麗虎が少し照れていた気がした。そんなにまずい服ではないはずなんだが。
本屋で今後読む小説を探していると、鈴女から電話が掛かってきた。
「ねえゴミ道!今から時間ある?」
「時間はあるがゴミ道ではない。」
「そう、ちょっと買い物に付き合って欲しいんだけどいい?」
「別にいいが、荷物持ちか?」
「違うわよ、詳しい話は合流してから言うわ。じゃあ。」
「おい、待てよ」
電話を切られてしまった。一方的話された感じはが否めない。つーか集合場所何処だよ。
「・・・・・・・待つか。」
程なくして鈴女がやって来た。すごいと思ったのは位置情報の共有などをしてないにも関わらず10分足らずで合流できたことだ。
「やっぱりこの本屋だったわね。そんな気がしてたのよ!」
「何でわかったんだ?」
「だってあんたって大概本屋にいるイメージだからもしやと思って。」
「うーん微妙に否定し難い。」
「で、何を買うんだ?」
「あれ?言わなかったっけ?」
こいつ、鳥が歩けば何とやらを素で実践しているのか?頼むからもっと役に立ちそうな教訓を実践してくれ。しかし、俺は鈴女が何のために買い物に出ているかはある程度予測できている。
「服、だっけか。」
「そうよ!麗虎ちゃんの誕生日プレゼントの服を選ぶんだけど、良さそうなの無い?」
やっぱりこいつも服か。麗虎に似合う服か。ん?これってもしかしたら・・・。
「あるぞ。」
「ホントに!?何処のお店?」
「まあまあ、焦るでない。連れて行ってやるから大人しくついて来い。」
「やだ!」
まるで小学生を相手にしているような感覚だ。鈴女も跡取りならもっとお淑やかにするべきだろう。今の俺からするとよっぽど麗虎の方が跡取りに見えるんだがなあ。
俺は鈴女を店に連れて行き、麗虎と「全く同じ服」を買わせた。(俺が金を出した。)1日に2回、しかも入った時に違う女の子を連れている俺を店員は蔑んでみていた。辛い。
お祝いのケーキも「華菓子屋」で買った。俺からということで金を出したが、6号のホールケーキを2人で食い切るみたいだ。恐るべし女子の胃袋。
「ありがと!御道!」
鈴女は嬉しそうに礼を言ってくれた。これから先に待つ小さな惨劇に俺は心躍らせているというのに。
「こういう時だけ御道呼びしてんじゃねえよ。そうだ、今日買った服。今度の海行く時に着るように言っておけよ。」
「わかってるわよ、じゃあね!」
あらあら、スキップまでしちゃって。
「さて、俺も帰るか。」
帰っている最中に俺は今日の買い物で全く俺の物を買っていないことに気が付いた。
「麗虎ちゃん!!!」
「お姉ちゃん!!!」
「「お誕生日おめでとう!!!」」
二人で同時にクラッカーを鳴らす。時刻にして0時丁度。本来ならご近所さんや家の物の事を考えてクラッカーを鳴らすべきでは無いが、今は二人の時間を邪魔する者はいない。
「ケーキもあるわよ!御道が買ってくれたの。」
そう言ってホールケーキを取り出す。
「お姉ちゃん。先にプレゼント交換しましょ。」
「それもそうね。はい、これ!ちゃんと海に行く日に着ていくのよ。」
「私からも、ちゃんと海に行く日に着てね。」
二人のプレゼントが今開かれる。そこには、麗虎が選んだ半袖のパーカーと御道が選んだホットパンツが両方に入っていた・・・。
「「え?」」
そう被ってしまったのだ。御道の策略によって二人は同じものを買い(御道のお金で)、プレゼントするに至ってしまった。
「嘘・・・御道もしかして麗虎ちゃんが買うものと偶然被るなんて・・。」
「御道君もしかして姉さんと同じものを買わせたのかな?」
「あれ?もしかして麗虎ちゃんも御道と買い物に?」
「昨日の午前中に・・・。」
「あいつゴミ道!まさかこうなることを知ってあえて買わせたのね!」
俺の金だが、という声が聞こえた気がした。
「まあまあ、お揃いということで着ればいいと思うんですけど・・・。姉さん着ます・・・?」
「そりゃ、着ないと勿体ないからね。ゴミ道には違う形で報復してやるわ。」
「でも、御道君との買い物楽しかったんでしょ?私は楽しかったよ。」
「まあね。プレゼント代全部出してもらったしね。しょーがない、今回は許すか。さあ!ケーキ食べましょ。」
「わーい」
8月4日。二人は再び誕生日を迎えたことを祝った。去年とはまた一味違った誕生日に戸惑いながらも今まで以上に記憶に残る誕生日になった。
まほきたを読んで頂きありがとうございました!最近めっちゃ肩がこるんですよね・・・。歳は取りたくないものです。
それではまた次回お会いしましょう!




