阿原町
1週空いてしまいましたね・・・・。
7月の終わり。夜中に大きな音がして目が覚めた。何かが叫ぶおぞましい声。御道君が戦っているのだろうか。助けに行った方がいいのだろうか。いいや、まだだ。今助けに行っても足手まといになるだけだ。今はただ耐えるんだ。それにしてもこんな爆音が鳴り響いているのに、起きているのは僕だけなんだろうか。
「ヘッヘーイ!久しぶりに元の姿に戻れたぜ!」
「元の姿って何だよ。」
「俺は元々1匹だった。けどこっちに来た時に3匹に分裂しちまったんだ。それぞれが個の人格を持ってしまい、しかも成長度合いもまるで違う。昔の俺を見せられているみたいで歯がゆかったぜ。」
「そういえばお前たち、お前は何処から来たんだ?」
「俺は魔界から来たって言っただろ?」
「それはわかってるんだよ。どういった方法を通じてこっちに来たかを聞いてるんだよ。」
「阿原町から来たんだよ。ここには魔界の入り口があるからな。」
何だよそれ。この町は一体どうなっているんだ。
「んじゃ俺はそろそろ帰るぜ。今まで世話になったな。」
魔犬は踵を返し走り出した。我の進む先に道ありと言わんばかりに民家を踏み抜き、直進していく。
「おい、待てよ!」
慌てて杖に乗り魔犬を追いかける。かなり早いスピードだ。扉とやらを探しているのか阿原町を縦横無尽に走り回っている。
魔法弾を数発ぶつけてみたが効いている様子は無い。直接斬りつけて動きを止めるぐらいか・・・。鞘に納めていた刀を引き抜き、魔犬に接近する。黒炎を吐き、足で踏みつぶそうとしてくるのをギリギリで躱す。足踏みをする度に民家が壊されていくのは見ていて心が痛む。早く倒さねば。
魔犬の猛攻を避けつつ1撃ずつ確実に当てていく。魔力付与をした斬撃でも致命的なダメージを与えられているようには感じない。俺の攻撃は大したことはないと分かってか俺を蠅のようにあしらっている。明らかに俺だけでは手に負えない相手だ。焦りからか俺の攻撃も一辺倒になってきている。黒炎を避けるために距離を置く。誰か助けに来ないものか。
「おーっと。そこの助けが欲しいと顔に書いてあるお兄さん。夜を散歩中の修行僧はいらんかね?」
「九道!」
下を見ると法衣を身にまとい、八角棒を担いだ九道が俺を見上げていた。俺は高度を下げ、杖から降りる。
「来てくれたのか。」
「バーカ。馬鹿でかい音がしたと思ったらとてつもなくでかい犬が町中を暴れまわってるではないか。それにしては町はいやに静かだが。ところで、あれはお前の犬か?」
「・・・なんでわかんだよ。正確にはペットだった犬だ。あんなの家に連れ帰っても世話できねえよ。あっちはあっちで元の世界に戻ろうとしてるみたいだし。」
「元の世界?」
「詳しい説明は後だ。今は何がなんでもあいつを止めるぞ。」
「殺しても?」
九道が自信に満ちた顔で聞く。
「構いやしねえよ。」
「合い分かった。久しぶりの大物だ、心が躍るなぁ!」
九道が跳躍し、魔犬の後を追う。屋根を伝い、どんどん距離を詰めていく。何て身体能力だ。あんまり九道の事を深く知る機会が無かったが、もしかしたらあいつはすごい奴なのでは?一度八角棒を持たせて貰ったことがあったが、持ち上げることが出来なかった。重さにして10kg近い鉄の塊を軽々と振り回している怪力こそあいつの強さの証明と言えるだろう。
ギリギリまで近づき屋根から跳躍し、八角棒を振り下ろすあ。頭一つを捉えたと見えたが相手ももちろん躱す。
「馬鹿め!どこを狙ってやt」
言い切る前に魔犬が悶絶したかと思うと今度は雄たけびを上げだした。そう、九道が最初から狙っていたの頭などでは無く足。空中から1回転をし、足めがけて全体重を乗せた一撃。を砕くと同時にジュワジュワと音を立て浄化され左足は使い物にならなくなってしまった。
「うぎゃぁあぁああああぁああぁぁぁぁああああああ!」
痛みに悶えながらゴロゴロと魔犬は転がる。
「おろ?たった一発でのた打ち回るとは。これでは魂喰らいと大して変わらんではないか。」
「うるせぇ・・・左足が使えないくらいで何も出来ないと思うなよ。」
バランスを崩しながらも3本足で魔犬は立ち上がる。
「3つも頭があるのに、俺しか見えてないのがこれまた滑稽だ。」
「あ?」
魔犬が周りを見渡そうとした時だった。魔犬の背中でザクリと音がした。ゾクリと寒気が走る。ギリギリ見えるところまで首を回すとそこには背中に思い切り杖を突き刺した御道の姿があった。そして杖が刺さった場所から徐々に凍り始めている。
「はっがぁぁ!汚ねえぞ・・・お前・・・。」
「勝負に汚いも何も無いだろ。それに、こうでもしないとお前止まらねえだろ?」
(くっ・・・走り回って引きはがすことも出来ねえ・・・。だがこのままだと俺が凍り付くのも時間の問題。だったら!)
「仰け反るしかねえよなぁ!」
魔犬は後ろに跳躍すると、背中を下に倒れこもうとした。当然御道は魔犬の下敷きになる。
「御道!」
九道が御道の名を呼ぶ。しかし、魔犬を倒すことが先決と判断した九道は魔犬の腹部に何度も八角棒を叩きつける。殴る度に骨が砕け、不浄な肉が浄化され溶けていく。
「さすがに全部浄化するのはきついな。」
しかし、魔犬を蝕む氷は広がりつつあった。九道が気づき、離れた時にはすでに頭部以外は凍結してしまった。
「くそったれえぇぇぇ!あとちょっとで帰れるってのによお!」
魔犬は叫んだと同時に完全な氷像になってしまった。そして御道の声が聞こえる。
「九道!全部砕いちまえ!」
「合い分かった!」
九道の全力のスイングが氷像を完璧に砕いた。小さな氷片が夏の夜に舞い、地に着くころには水となり、地面を濡らした。
御道の姿が見える。どうやら杖が地面と魔犬の距離を稼いでいたようで押しつぶされてはいなかった。
「助かったよ九道。」
「まあ、同じ部の仲間だしな。これくらいは当然だろう。」
「そうか、じゃあついでにもう一つ手伝ってくれないか?」
「ん?町の片づけか?確かに町はこの有様だが・・・二人で片づけるのでは民家1軒でも10年はかかるぞ。」
「それもそうだが・・・。一つ確かめたいことがあるんだ。具体的にはその・・・。もう少し俺とここにいて欲しい。」
「・・・理由はよくわからんがまあいいだろう。その前に腹ごしらえだ。近くにコンビニがあるだろう。」
「そうだな、俺がおごってやるよ。」
その後二人はコンビニで夜食を買い、たわいのない談笑をして時間を潰した。コンビニの店員がとても機械的な対応だったことの愚痴も交えて。
時刻は4時を過ぎた頃だった。御道が唐突に話を切り、別の話題を切り出す。
「なあ、九道。お前ってこの町を4時以降に歩いたことはあるか?」
「5時以降はあるが4時台ってのは無いな。それがどうかしたのか?」
「俺がお前と初めて会った日あったろ?麗虎が地面に槍ぶっ刺した時。」
「あの日か。もう数か月も前になるな。」
「あの後で地面の跡がニュースか何かになったことってあるか?新聞とかでもいいが。」
「・・・無いな。そういえばあの跡はどうなった?」
「確認しに行こうぜ。」
その後跡を確認しに行ったが綺麗さっぱり無くなっていた。
「直っているな。」
「ああ、けどここ最近道路工事なんて無かったぞ?」
時計を見ると4時半前を指していた。夏ということもあり東の空が少し明るい青になり始めている。
「九道。何処でもいいから高い場所にに上ろう。町を見渡せるように。」
九道もコクリと頷き近くにあった小さめのビルに上った。
「俺の読みが正しかったら4時30分から5時までの間に何かがあるはずなんだ。しかも町もこの壊れ様だし、絶対何かがある。」
「それだったら誰かがもっと早く気が付くだろ?この時間帯に散歩しているおじいさんもいるはずなのに。」
「俺もそこまでは・・・。4時半まであと5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・。」
カチッとどこかで音がしたようだった。あれ程壊れていた住宅地は、まるで時間が巻き戻るようにみるみる修復される。小さな光の粒の様な物が建築物を構成していく。二人は町が修復っていく様をただ見ているだけだった。
日が昇り始めた。そこにはいつもと変わらない町の姿があった。町は直り、また同じような日々を歩みだすのだろう。小鳥はさえずり、誰もが目覚め始めるだろう。
「なあ・・・俺たちの町は一体どうなっているんだ?」
呆然と座り込みながら九道は御道に問う。
「わからない。ただ俺たちの町は普通じゃない。それだけだ。」
「非難する人とかいたか?誰も警察を呼んでいない。マスコミらしき人たちも来なかった。ただいつも通りに異様に静かだった。」
「ああ。」
そうとしか返事を出来ない。俺たちは疲れている。何か悪い夢を見ているのかもしれない。
「帰るか。今日はもう休もう。」
「そうだな。」
抜け殻みたいな会話だな、御道は心でそう思えど口にはしなかった。思えば那賀島の話を聞いた時に感じた違和感もこれだったのかもしれない。大の大人がまき散らした血痕を数時間足らずで片づけるのはほぼ不可能だと思っていたのも、今日で全て解決した。
なのに全然すっきりしない。嬉しくない。腑に落ちない。わからない。
御道と九道は「またな」も言わずにそれぞれ反対の道を歩いていく。
御道は帰るとすぐに寝た。6時間ほど寝て起きたらすぐに出かけた。今日も帰宅部のメンバーと会わなければいけないからだ。そして御道は悩んだ。この事実は誰かに伝えるべきなのか。俺と九道だけの秘密にするべきなのか。
うっかり話してしまいそうで心苦しい。蝉の大きな鳴き声が御道の思考をぼかし、考えることを遠ざける。
この町は何かがおかしい。
まほきたを読んで頂きありがとうございました!




