垂直に飛ぶスーツ男、のた打ち回る男
伏線がガンガン増えていく・・・管理大変だなこれ。
「あらお客さん?って姜次郎さんか。こんな優男が姜次郎さん以外な訳ないか。」
「久しぶりだね、莉子ちゃん。最後にあったのいつだったけ?」
「ほんの18年前ですよ。まあ私も当時は小学生だったからあんまり憶えてないけど。」
おいおい、これは一体どういうことだ。俺が連れてきた客人と莉子姉ちゃんは面識があるだと?18年前って何だよ俺まだ生まれてないじゃないか。そんな時期から父さんと姜次郎は知り合いなのか。姉ちゃんは夕飯の支度の途中だったらしく、エプロン姿で出迎えに来てくれた。この隠しきれない肉の匂いが今日の夕飯が豚の生姜焼きであることを告げていた。
「そうだ。折角だし姜次郎さんも夕飯食べない?私が作るご飯食べたことないでしょ。」
そりゃ今日が2回目なんだから食べたことはないんじゃないかな。心の中で呟きながら、姜次郎の返答を待つ。その、出来れば断る方向性で。そもそもこいつが何故家を訪ねてきたがいまいちよくわかっていない。帰る際に色々ごちゃごちゃ言いながらついてきたものの、やれ日中は暑いだのここ十数年で御道家へのアクセスが悪くなっただのじいちゃんは元気にしているかだの、大体が世間話だった。姜次郎が少し考えた後に、
「今回は遠慮しておくよ。たまたまここを通りかかっただけだし、お父さんと少し話したら帰るから。」
おいおいおい、がっつり待ち伏せしてたじゃねえか。しかも絶対俺の帰宅ルート知ってただろ。それでも夕飯を食べないという方向性で固めてくれたのは英断だと思う。察しが良くて助かった。
「そう、残念ね。あ!肉焼きっぱなしじゃない!家継、姜次郎さんを父さんの書斎まで案内して、私、夕飯の支度の途中だった!」
莉子姉ちゃんはパタパタと走りながらキッチンの方に慌てて戻っていく。その後ろ姿を見た姜次郎はポツリと呟いた。
「十数年前はそうではなかったが今では立派な良妻といったところか。高次君の娘じゃなかったらお嫁にしていたかもね。」
「やらねえぞ?」
明確な殺意を込めた視線を向けながら俺は即答する。こんなどこぞの馬の骨ともわからんようなやつに姉ちゃんは渡せん。
「まるで君の所有物みたいだね。そんなに御姉妹が大事なのか。無くさないように紐で括り付けた方がいいんじゃないか?」
あーもうなんでこいつは一々癇に障るような言い方をするのかね。魔術師になると必然的に言い回しも憎たらしくなるのか?
「さっさと父さんの所案内するから、今度は黙ってついて来いよ?」
「いいや、色々言いながら付いて行く。」
「あっそ・・・。」
「あ、君今心の中で本当に面倒くさい奴だと思ったね?私も魔術師だから心を読む術を知っているわけで。そもそも君さっき僕の顔見ながら心の中で僕を邪険に扱ってたよね?これだから最近の魔法使い、魔術師共に未熟な奴が多いんだ。もっと小川同盟を頼らないとまともに世代交代も・・・・」
玄関から父さんの書斎までほんの1分程度だったが姜次郎はマシンガンのように話し続けた。俺は思考を放棄して話を聞くことをやめ、淡々と相槌を入れながら父さんの書斎に向かった。姜次郎が放った独り言がそこら中に反響していた。
姜次郎を父さんの元に連れて行った時の父さんの顔は今までに見たことのないほど歪んでいた。その明らかに拒否反応を示した顔色は青く、再会の一言目が、
「来るなあ寄るなあ!ってか来やがったな!御道の本拠地に堂々と上がり込んできて正気かおまえ!」
自らの家を本拠地って言ったぞ。普通の家のより大きくて山奥にあるだけなのに、家のこと城か何かと思ってるのだろうか。そもそも数年前に何があったんだよ。
「ひどいな。再会の挨拶がそれとはさすがに俺も傷つくよ。」
「うるせえ!小川の者がのこのこ御道の地を踏んでるんじゃねえ!」
「もっと踏んでやる何ならジャンプもしてやるぞ。」
「うわああああああ!やめろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
大のスーツ着た大人が室内で垂直方向にジャンプしたりそれを見た大の大人がのた打ち回る光景はまさしく混沌と言っても差し支えないだろう。正直この場から早々に立ち去りたいがタイミングがまるでない。
「さて十分堪能したし、ここからは大事な話だ。家継君、ちょっと席を外してくれないか。」
「お、おう。元からそのつもりだったし。じゃあ俺はこの辺で。」
俺は逃げるよう退出した。正直あの空間に居続けることは出来ないと俺の全感覚が嘆いていた。けど盗み聞き位はいいよな。そんなにまずい内容ならここで話す必要ないし。俺は扉に耳を当て神経を研ぎ澄ませて中の音を聞いた。途切れ途切れに会話が聞こえてきた。
「今の段階では・・・体が限界だな。これ以上のペースでも問題は無いが、如何せん・・・がない。そのうち溢れることになるだろうな。」
「まあそうなる前に幾らかこちらで・・・ことになりそうだが。よくもまあこんなに。さすが同じ師を持っただけあるね。」
「おかしな話だよな。自らの父を師とせずに魔術・・・・・の・・・を師とするんなんて。そういえばそっちの方はどうだ?相変わらず勢いは衰えてないんだろ?」
「世代交代の時期が来てしまった。魔術師の世代交代を行わなければならないが、世代が浅い家は跡継ぎの育成が困難だから小川が中心になって指揮を執ってる。」
「そういえば・・はどうなった?あそこの家もそろそろのはずだが。」
「・・・かあそこも家で指揮を執っている。なんせ世代が一つ飛んでいるからな。何が起きるかも検討がつかん。16代目が放棄したことによって17代目の負担は大きい。下手したら死。・・・の魔術の歴史は絶たれるかもしれないな。」
「ほんと。・・・・・・・・・・・・・・・・とか言われてた。・・がこんなことになるとはな。まあしょうがねえよな。勢いがあるって言っても新たに志す者が多いだけで歴史ある家は廃れる。そういうもんなんだろ。」
「君たち一家が袂を分かたなかったらこんなことには・・・。嫌、今更言ってもどうという訳でもない。そもそも決断したのは詠斎さんだし。君には関係ないよね。」
「まあ悪いのは親父の方だと思ってるし。正直俺詳しい話知らないから。何とも言えんのだ。」
「ふーむ、そういえば家継君は今年でいくつになるのかな。高校生でしょ?」
「17だったかな。そもそもあいつが17になれるかわからん。・・・・も近いからな。」
「あ、今年中にやるんだね。早いうちにやっておかないと後が大変だからね。」
「そんな大層なもんでもないけどな~家の・・ってまああいつ次第ではあるけどもしかしたらあいつは・・してしまうかもしれない。」
「まあ可能性は大いにあるね。正直酷だと思うけど」
あやふやだがこんな感じの会話が聞こえてくる。どうやら俺に席を外させたのは俺に後ろめたい話があったからみたいだ。肝心なところだけ聞けないのは何とも歯がゆいことか。そんなこんな盗み聞きをしていると、後ろからツンツンと背中を突かれた。突然の事だったので慌てて振り向くと、香奈枝姉ちゃんだった。「夕飯出来たって。早くしないと冷めるよ。」
俺の気を遣ってか、小声で俺に話してくれる。香奈枝姉ちゃんは声量自体は大きいわけでは無いが、透き通るの様な落ち着いた声は決して聞き漏らすことの無い。寧ろ、一言一言逃さず聞き取りたくなるくらいの美声だ。口数自体はあまり多くないのだが。俺は小さくうなずき香奈枝姉ちゃんとこっそり父さんの書斎から離れた。
2時間後(結局長話になった)。話が終わった姜次郎を見送った後のことだ。父さんに聞きたかった問いを投げかける。
「あの小川って人はどういう奴なんだ?そんなにやばい人なのか?」
「世界魔術師連盟日本支部小川会の現会長小川伯明の一人息子だ。小川家は日本の魔法の祖と言われていてその歴史は古い。姜次郎は21代目だったかな。家よりもよっぽどでかい家で小川家だけで日本の魔法使い及び魔術師を抑圧している。言い方が悪いな。している。今日の魔法使いで彼らに逆らうものはほとんどいないだろうな。まあそのほとんどに御道家が含まれてるんだが、俺が子供の時からそうだったから経緯はよくわからん。魔法の存在自体は一部の限られた人しか知らないが日本人口の0,01%の人物が何らかの魔法に遭遇したことはあると、あいつは言っていたし、俺もそう習った。しかし、今日本にいる魔法使いは俺たち含め約1000人。魔術師なんてそれの10分の1以下だ。あいつらは自分たちの目に届かない魔術師が気に食わないんだろう。だからこうして俺たちに面倒な刺客や姜次郎を送って俺たちの動向を調べてるんだろうな。けど、向こうは特に干渉するつもりは無いらしい。どこまで事実は知らんが俺も姜次郎に免じて談笑位は興じてやってるんだ。あいつは時間は短い魔法を極めるために共に励んだ仲だからな。」
矢継ぎ早に話す父さんの言葉を半分ほど理解し、次の問いに移る。
「要はすごい人たちなんだな。そういえば父さんに魔法を教えた人って誰なんだ?」
「俺は親父からは教わってない。魔術師ってのは親を師とする必要は無くて学びたい人の元へ教えを請いに行く。俺も姜次郎も自分の親が苦手だったからな。俺たちの師はハロルド・バロウナ。魔術師の中でも奇特な人物で魔法や魔術を極めるのではなく彼は杖に執心していた。彼は今世紀最大の行いとして最強の杖を作ろうとしていた。結果的には杖の完成前に彼は死んだ。魔術を行使しすぎたことによる精神の摩耗によって自殺してしまったんだ。彼は杖に永続的に発動する魔術を付与することで少しの魔力で魔法を使えるようにした。今も未完成の杖はどこかにあるらしいが、俺たちが遺品整理をした時にはもうすでになかった。何故俺たちが彼を師としたのかというと・・・まあ人柄だな。魔術師は基本人当たりが強い人物が多いが彼はそうじゃ無かった。彼とその妻は俺たちを優しく迎え入れ、励まし共に語らい魔術を極めようとした。彼の死を悼む者は大勢いたが誰も葬式は上げなかった。『死んでしまったのか、残念だったな。』そこで終わったんだよ。あいつらはもう人としての感情を持ち合わせていないんだ。そして俺たちもいつか人じゃなくなる。」
熱く語る父さんを横目に俺はある一つの疑問を抱いていた。バロウナ。どこかで見たことのある名前だ。有名な俳優の名前だったか。いや、テレビで見た気はしない。もっと何処か身近な場所で見た気がする。
「すまん。一方的に話しすぎたな。まあ、姜次郎は悪い奴じゃ無いから特に警戒する必要は無い。本当は御道の地を踏ませたくはないが。」
父さんがげんなりしながら自室に戻っていく。俺も今日の「仕事」の準備をしなくては。
日が沈み切ってかなりの時間が経つというのに、気温は大して下がっていない。熱帯夜の中でも変わらず出現する魂喰らいは人間と違って案外快適なのでは?と思ってしまう。ここ最近色々なことあり、何故魂喰らいと戦っているのかあやふやになることがある。日記でもつけようか。初志貫徹とは言うが、最初がわからないのにあともわからないよな。さあ、熱帯夜に繰り出そう。待っているであろう帰宅部の仲間と共に今日も魂喰らいを倒すために。俺は自分が持っている杖にマーシー・バロウナという名前を刻まれていることに気が付いた。
続く
7月某日
最近物忘れが少し目立つので、日記をつけることにした。僕が少し前から使えるようになったあの不思議な力。まだ少ししか試してないけどあの薄い光の壁は2回叩くと割れてしまうらしい。何て脆いんだろう。僕の力が未熟だからかな?もしかしたら何度も練習すれば強度が上昇して何回物がぶつかっても壊れなくなるんじゃないかな。そうなったらこの不思議な力を誰かに使いたい。帰宅部のメンバーや家族を守りたい。けど今は我慢だ。能ある鷲は爪を隠す。あれ?鷹だったかな?あとで辞書で調べよう。この力がまともに使えるようになったらもう一度夜の町に繰り出そう。
まほきた!20話を読んで頂きありがとうございました!もう20話ですよ20話。正直あんまり深い設定を考えず見切り発車で書き始めたのでここまで続くとは思っていなかった。まだまだ頑張りますのでご期待ください。それではまた次回お会いしましょう!




