帰ってきた御道
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清々しい朝だ。蝉の騒がしい大合唱を除けばここは非常に快適だ。冷房がガンガン効いた部屋で娘が作った朝食を食べ、書斎に戻りこれまた冷房が効いた部屋で自分の趣味に没頭する。何という快楽、何という充実感。大切な事を忘れている気がするがそれは気にしない。テレビをつけて世の流れを確認するもどこもかしこも迫る夏の超大型連休の特集ばかりだ。休みというのは普段働いている大人や学生に当たら得られるものだとつくづく思う。俺も働いていない訳じゃ無いが嫁の収入だけで家族を養えているので働かなくてもいい。世間ではそれをヒモと言うが世間に出ていない俺からすればこれは立派な生き方だと確信している。娘も息子もいるし?その辺の奴よりはよっぽど勝ち組として生きているのだ。まあその息子が浮かない顔しているのが玉に瑕だが。こんな清々しい朝でテンションが高い俺にそんな腑抜けた顔を見せるなよ。
「おい、どうしたんだ家継。気分でも悪いのか?」
体調が悪いのか確認をとる。こういう気遣いが出来るのも俺が立派な父親であることの証明になる。
「ああ、最悪の気分だよ。人を殺したかもしれない。」
「まさかお前。一般人を殺したのか?」
「いや、人かどうかわかんねえんだ。念のため写真は撮ってきたんだけど。父さん確認してくれ。」
「写真撮ってる余裕あるじゃないか。大げさなんだから。」
確認してみたところ、確かに人と同じ姿をしている。しかし、高次の魔術師としての知識がそれが人間であることを否定した。
「こいつは、カドゥじゃねえか。」
「カドゥ?何だそれ。」
「魔界の生物の一種でな。通称模倣する者と呼ばれている。知能のランク的には魂喰らいの一つ上で力の強さはそれ以上と言ったところかな。喰った物全てを模倣し、自身に投影する。知識とかそこらもコピーするから、中には人語を話す奴もいる。ただ必ず最後に喰った物を模倣する習性があるから人間体を維持しようと思えば人間を食べなければならない。あまり気性が荒い生物でもないから、基本は植物を食ってそれに擬態してるってところだ。ある種今回お前が出会ったのは特例かもしれない。よってお前は人を殺してないよ。」
「でも、刀を殺すために使っちまった。これは戦うための道具なのに。」
「あのなぁ、刀が殺すための道具じゃないって言うなら、魔法も人を殺すための手段じゃないぞ。ただ殺すのに都合が良かっただけで、殺すための道具なんてこの世には存在しない。、と俺は思っている。使うのは本人次第だ。お前が正しいと思ったのなら別に悔いる必要は無い。」
その言葉に家継はハッと顔を上げる。的確なアドバイスを上げられたようで何よりだ。
「それにそんなちっぽけな事を考えるよりも他に考えることがあるんじゃないか?お前のためにわざわざ来てくれる友達がいるんだし、そっちを大事するべきじゃないのか?」
「そうだな、最近あいつらに構って無かったし。ありがとう父さん!やっぱ父さんって父さんなんだな!」
「よくわからんが誉め言葉として受け取っておこう。ほら急がないと遅刻するぞ。」
「ああ、行ってきます!」
朝食の食パンを急いで口に詰めながら飛び出していった。怪我をしなければいいが。
「今日はやけにお父さんって感じだね。父さんって人格コロコロ変わる人だったけ。」
一緒に朝食を食べていた香奈枝が聞いてくる。
「今日はなんだか気分がいいんだ。たまにはお父さんみたいな事言ってもバチは当たらんだろ。なぁに、今はただ泳がせておくだけだ。楽しいお友達ごっこも年内で・・・。あっ!あいつに儀式の話するの忘れてるじゃねえか!まあいいや。今年中に言えたらいいんだし。早めに言ってもあいつ忘れちゃうだろうからな。」
「あ。いつものいい加減な父さんだ。」
「いい加減でいいんだよ。規則なんてないんだから。こんぐらいが俺には丁度良いんだよ。」
「おはよう!黒橋!」
「うぇ!?お、おはよう御道君」
御道は声を高らかに黒橋に挨拶をする。急なことで黒橋は少し反応が遅れてしまう。
「どうした、元気ないなあ。あ、俺のせいだよな。ごめんな、ちょっと色々立て込んでたんだ。でももう大丈夫だ。今日からは部活の方にも行けるぞ。」
「本当!?御道君深くに来るの!?」
「ああ、夏休みがどうとか言ってやつ今日決めようぜ。あさってからは夏休みだしな。」
「良かった!詳しいことは放課後に話すね。皆不安だったんだよ?ここ最近御道君やたら口数少なかったし。ずっと思い詰めてたし。」
「悪い悪い。ひとまず今日から帰宅部再開だな。」
「御道君がいなくてもしっかり部活動してたよ。夏休みの予定も大分決まったし。」
「・・・もしかして俺除外られてる?」
「そんなこと無いよ。御道君がいてこその帰宅部なんだから。御道君がいないと始まらないよ。」
「そうか、長い間放置しててすまなかった。」
「だから謝ることじゃないよ。長い間って1週間ちょっとじゃないか。」
本当はたったの1週間でも辛かったけど。黒橋は心の中で呟く。
放課後になった。今こうして第二図書室の前二人で立てるのは久しぶりだ。九道君も同じクラスだけどいつもタイミングが悪くて一緒に来たことはない。
「なあ黒橋。お前先に入ってくれないか?俺からは入るの気まずいんだけど。」
「何言ってるの、御道君部長なんだからシャキッとしなよ。それに、皆事情は知ってて御道君の帰りを
待ってるんだよ。」
「『仕事』の時に顔は合わせてたんだけどな。気を使わせてしまったか。」
御道は罪悪感から俯いてしまった。
「はいはい。思い悩むのはここまで。入るよ。」
黒橋はガラガラと戸を開け部屋の中に入る。
「おい、待てよまだ心の準備が・・・。」
黒橋に続いて御道が中に入ると、
「あーーーーー!御道だーーーーー!」
小学生低学年の様な声をあげながら御道を指さす。
「はいはい、うるさいうるさい。人は指ささない。」
「その気だるげで人を小バカにするような含みの返しは間違えなく御道!やっと張り合いのある御道が戻って来たわ!」
「えっと、その、なんだ。ただいま。」
「ほんと!すぐどっかいっては何事も無かったかのように帰ってくる。猫かっての!」
「姉さん、御道君にも事情があるんだから仕方ないでしょ。」
「駄目よ麗虎ちゃん!そんな風に御道を甘やかしちゃ!大体御道が帰宅部に来ない間ずっとソワソワしてたの麗虎ちゃんじゃない!」
「ちょ、何で姉さんは私の恥ずかしいことばかり言うのよ!」
麗虎は顔を赤らめ、鈴女の事をポカポカと叩く。
「相変わらず賑やかだな。」
「あんたがいなくても充分やっていけたわよ!夜にしか顔出さないようなこんな部には要らないわ!」
「うっ・・・俺やっぱいらない奴だったか・・・。すまん、今すぐ出ていく。」
意気消沈した御道はトボトボと帰ろうとする。
「ああ待って!今のは言葉の綾というか何というか・・・。ごめん御道やっぱり帰らないで!この部にはあんたが必要なの。」
「だよなー最初からそういえばいいのに。可愛げのない奴だ。」
「うるさいわね!やっぱあんた相手だと調子狂うわ。」
「つねに狂ったようにワンワンいってるじゃねえか。スズメじゃなくてワン子だな。」
「あらいいじゃないですか、ワン子。姉さんはスズメって感じじゃないですからね。」
「ちょっと~麗虎ちゃんまで~・・・。」
こういった会話をするのは一週間ぶりだ。那賀島との話も良かったが、こっちの方の気の置けない感じも良い。
「お、御道じゃないか。那賀島の件は終わったのか?」
「ああ、だからこうして戻ってきた。つーか九道は知ってたのかよ。」
「盗み聞き程度にな。事情は俺から話したし。」
「そうだったのか、色々気を使わせてしまってすまなかったな。」
「そう水臭いことを言うな。お帰り御道。」
九道は手を差し出し握手を求めた。御道もそれに応じる。
「おう、ただいま。」
そんな光景を見て、
「またしても青春の一場面です。」
「黒橋写真撮っといて!」
「まだカメラは部に無いよ。カメラも購入検討だね。」
「堂々と見せつけてくれちゃって~このこの~」
「なんだよ。見世物じゃないんだぞ。」
「さて、皆揃ったことだし。夏休みの予定をちゃんと決めようか。」
「「「「わー」」」」
「海には行くんだっけ?」「あーこの日俺いないわ。」「マジ?じゃあ日程ずらすかー。」「私たちもこの日いないです。」「というかこれいつ宿題するの?」「そりゃ各自夜か・・・夜は無理だな。じゃあ朝方で。」「寝る時間無いかもね。」
楽しく夏の予定を相談し終えたころにはすでに日は完全に暮れていた。夜道を照らす街灯の下に一つの人影があるのを御道は見つける。すらっと高身長で夏の熱帯夜の最中にしっかりとスーツを着こなすし、汗一つかかない異質な男だった。妖しい気配を感じ自転車でさっさと通り過ぎようとした時だった。
「御道、家継君だね?」
「俺の名前知ってるの?」
「身内に知り合いがいてね。高次君や詠斎さんは元気かな?」
「あんたは誰だ?名前を聞くときは・・・って俺の名前は知ってるのか。」
「小川姜次郎という者でね。そうだな、君のお家に案内してくれないかな?君のお父さんに会いたいんだ。」
「嫌と言ったら?名前知ってるくらいなんだから、その可能性も考慮してるんだろ?」
「何、確認を取ったまでだよ。それに、嫌と言っても直接乗り込めばいいだけだから。君の帰る場所が残っている保証は無いがね。」
「わかったよ。人の家で暴れるんじゃないぞ。」
「僕がそんな風に見えるかね。」
「案外こういう大人しいタイプが実は獰猛だったりするんだよ。」
「ハッハッハよくわかっているね。君は長生きしそうだ。」
「初対面の奴に言われても嬉しくねーよ。じゃあ案内するから黙ってついて来いよ。」
「嫌だ。色々言いながら付いて行く。」
「まじでやめろよ・・・。」
続く
まほきた19話を読んで頂きありがとうございました!春ですねー花見しようと思ってたんですけど気が付いてたら桜散っちゃってたんですよね。また来年花見します・・・。それではまた次回お会いしましょう!




