魔術師だって人の子
遅れてすまねえ!!!!!!!
冷たい空気を肌に感じて目が覚める。飛び起きて周りを見ると見慣れない場所の実験台の上で寝かされていた。ここ何処だ?しかし、よくよく周りを見渡してみると怪しい薬品棚や、本棚などが目に入る。徐々に記憶を辿っていくと確か自分は黒橋を庇い、魔術師の不意打ちを喰らって意識を失ったのだ。
「そうか、俺は誘拐されたのか。」
誘拐された事実よりも本棚に並ぶ本に気がいく。一つ手に取り捲る。ほう、これはまだ読んだことの無い魔導書だ。読み始めると止まらなくなり気が付くと一冊を読み終えてしまった。本を本棚に戻し、また実験台に寝転がる。さっき読んだ魔導書を読んだ内容が胸に刺さる。
「くそぉ・・・空飛ぶ魔法って杖無いと使えないのかよぉ!」
刀を振り回して戦うスタイルを今まで続けてきたが、そろそろ魔法使いらしく杖を使うのも悪くない。けどなんかこう・・・刀って握ってると気が引き締まるというか、戦う覚悟が出来るというか。けど実際は俺が刀を使ってるんじゃなくて俺が刀に使われている感じは否めない。最近は魔法を使う機会が増えてきたし、帰宅部を作ってからあいつら勝手に突っ込んでいくから俺が刀振り回す必然性が少なくなってきたんだよな。それだったらあいつらと行動しているとき位は杖を使ってもいいんじゃにだろうか。そういえば黒橋は無事なんだろうか。
「って俺今攫われてんじゃん!早くここから脱出して黒橋が無事か確認しねえと。」
扉を開けて外に出る。どうやらどこかの地下らしく、そこら中に配管が剥き出しになっている。恐らくはどこかの廃工場なのだろう。
「廃工場なら、この間の廃工場かもしれないな。」
数か月前、鈴女に勝負(?)を挑まれた廃工場。それなら、阿原町内にあるから家に帰ることが出来るが、見らぬ遠い地に攫われてしまったのなら、仮に脱出できても家には帰れないだろう。
「いいや、場所なんて脱出してから考えよう。」
俺は薄暗い地下迷宮に足を踏み出した。
「マーシーさん!助けてください!とても二人では勝てる相手じゃ無いです!」
アインが私の脳内に直接語りかけてくる。走りながらだろうか。息遣いが非常に荒く、声が大きい。
「そんなこと言われても・・・あなた達は二人で勝てるって言ったじゃない。それにダガナルはどうしたのよ。」
「もうすでに・・・僕を庇って相手に殺られてしまいました。悪魔契約中のダガナルさんを一方的に殺してしまうなんて、あいつこそが悪魔ですよ!」
、その通り。と女性の声が微かに聞こえた後、アインが悲鳴を上げる前にドスッと何か斧の様な物が何度も刺さる音が聞こえた。斧は一本だけではないみたいだ。暫くすると音が止み、また女性の声が聞こえる。
「仲間がいたようですね。すぐに見つけ出すので覚悟をしておいてください。」
ここで通信は途切れてしまった。見つけるとはどういうことだろうか。私の姿を視認していないはずなのに、ハッキリ「見つける」言われてしまった。もしくは以前に見られていたのかもしれない。下手に動くのはまずいが、この廃工場も直にバレてしまうだろう。2人とも死んでしまったようだ。オガワから依頼されたミドウの殺害は未遂に終わる。それどころか私にも死が近づいてくる。
思えば魔術師としても大した人生では無かった。ただの女の子で、魔法なんてありもしないと思ってい過ごした日々。旦那が魔術師と聞き、交際を経て婚約。けど彼は人として大きく欠けていた。人として持っているはずの感情のほとんどが死んでいた。悲しいときに泣き、嬉しいときに笑う。そんなことが出来ない彼との生活は人というよりは人形を相手にしているような気分だった。笑うというより嘲笑っていた。きっとあの目は私を対等に見ていてくれていなかったのだろう。最後に彼は崩壊した。狂い叫び回り、私にナイフを向けて襲い掛かってきた。抵抗し、気が付いた時には彼は冷たく動かなくなっていた。私だって普通の人間だったから常識はある。この現代社会において人を殺すという罪がどれほど重いか。しかし、魔術師という旦那を持った私にはもはや常識的な思考ほぼ抜け落ちており、初めに思いついたことが旦那を魔術で生き返らせることだった。ひたすら死霊魔術が載っている魔導書を読み、魔術を行使した後に感じた身の異変で旦那が言っていたことを思い出す。
「魔術を行使するときには、魔力はほぼ必要ない。魔力は着火剤程度のもので、一番必要なのは『自分の中で最も重要なもの』だよ。けどね、魔術師は常に五体満足でなくてはならない。だから魔術師は使っても底が尽きにくい精神エネルギー、つまり『感情』を魔術の触媒にするのさ。」
結果的に彼は生き返らなかった。どうやら肉体から魂がすでに剥がれてしまい、死水晶に移す作業が出来なかった。多くの感情を犠牲に作ったこの死水晶も今では名前も覚えていない人たちを縛り付けるただの檻と化している。主要な感情以外はほぼ死に、生きているのに死んでいるような感覚。感情が死んだことによって大きな感動は得にくくなり、過ごす日々が薄く記憶に残らない。私も魂喰らいとなんら変わりないのね。私は一体何を残せるのかしら。
「そろそろあの子、上がってこないかしら。」
自分が攫ってきた子が目を覚まし自分の元にやってくることを期待する。今の私に豊かな感情があれば、物憂げな少女の顔をしているのかもしれない。
何とか刀が見つかってホッとする。この間も1本折ったばかりだからまた姉ちゃんに怒られるところだった。数か月に1本日本刀を使い物にならなくする訳にはいかない。上に続く階段も見つけたし、さっさと帰ろう。けど、ここまでで不審な点が1つ。死霊魔術師のはずが、1体も警備役の魂喰らいを配置していない。俺を捕まえて置く気があるのか?増援が来る可能性を考えて俺はそそくさと階段をかけ上がる。上がってすぐに出口がある。間違いない、ここは阿原町にある廃工場だ。出口に向かおうとしたその瞬間声が聞こえる。
「何処に行くの?私の可愛い子供。」
後ろを振り返ると積まれた木材の上に魔術師が座っていた。束縛が目的というよりかは、単純にこの場を離れて欲しくないようだ。柄に手を添えたまま聞く。
「何処って、俺の家に帰るんだよ。皆待たせてるし、何ならもう一回戦うか?」
もう先ほどの様な不意打ちは喰らわない。戦力を温存しているかは不明だが、油断しなければ勝てる自身はある。
「嫌よ。ねえ、せっかくだしお話しない?だまし討ちをする気なんてこれっぽっちも無いわ。」
反抗する気が無いという意思を見せるためか両手を前に突き出し掌を見せてくる。言動に悪意を感じない。さすがに無抵抗の人間を攻撃することまでは教えられていない。そしてなるべく対等な位置に持っていくために、俺はその場で刀を地面に置いた。
魔術師の隣に座る。
「案外素直なのね、感心したわ。」
「あんたこそ、てっきり騙してまた捕まえ直そうとしてるのかと思ってた。」
「その必要は無いわ。ただ、私は話を聞いて欲しいだけなの。けどいつも皆逃げようとして、結局私に魂喰らいにされる。」
「あんたはずっと魔術師だったのか?」
「いいえ、旦那が魔術師だった。最初は穏やかで気さくな人だったけど、時間が経つにつれて豹変していったわ。最後には壊れちゃった。」
「あんたが壊したのか?」
「そんな訳ないわ。魔術を行使しすぎて精神が崩壊しちゃったのよ。」
「・・・魔術って危険なものなのか。その旦那とかいうやつは魔術の行使に失敗したのか?」
「違うわ。魔術っていうのはね、自分の最も大事なものを、魔術師は主に『感情』犠牲にする。その代わりにちょっとした奇跡を起こすことが出来るの。けどね、その『ちょっとした』が魔術師を侵食していく。一度奇跡を起こした魔術師はさらなる奇跡に触れるために魔術を行使する。結果として身の崩壊を招くのは仕方のないこと。当の本人たちは自分勝手でやってるだなんて言うけど巻き込まれる側にもなれって話よね。」
「感情が無くなるってどういう気分なんだ?」
「そうね、私はまだ泣いたり笑ったりは出来るけど、微妙な感情の変化は大抵触媒に使ったわ。知識としてあるし、見たこともあるはずなのに自分では出来ない。辛い感情から先に触媒にしたせいもあるけど、辛い気持ちを感じなくなったせいで喜び方がわからなくなってしまったの。笑いたいのに笑えない。自分にとって都合のよい感情だけを残して生活できると思ったら大間違い。全ての感情は必要ないと思うけれど、全て無いとあっという間に均衡が崩れてしまう。人間って脆いのよ。」
「・・・俺魔術師になるのやめようかな。最悪他の道も無いわけでは無いし。」
「そういえばあなた魔法使いだったかしら、その割には魔力付与しか使って無かったけど。」
「それ以外の魔法がまだうまく扱えないんだよな。そういえば、あの手に雷撃を集中させてたのってどうやるんだ?」
「あれはイメージの問題よ。あなたきっと雷撃は上から落とすものだと思ってるでしょ?魔法はイメージ次第でどこまでも変わるんだから。イメージとしては静電気を魔力で起こす感じよ。」
試しに手に魔力を集中させる。パチッと小さな音が聞こえたが雷は現れない。
「中々難しいな。」
「筋はいい方よ。それに、簡単に出来てしまったら誰でも魔法使いになれるわ。」
「それもそうだな。」
それから30分の練習の末に、手の平に雷撃を纏わせることに成功した。
「おし!ありがとうな、こんなことに付き合わせちまって。」
「お礼を言うのは私の方よ。まるで本当の息子が出来たみたいだった。私にも子供がいたらこんな風に魔法を教えていたのかしら。」
魔術師は至福に満ちた笑顔で俺に笑いかける。俺もつられて笑う。しかし、笑い合ってすぐに魔術師の表情が固まる。何か異変を感じ取ったようだ。
「おい、どうしたんだよ?」
「あなたは早くここから離れなさい。そして今後一切は私の事を忘れて頂戴。可愛い息子ならその位出来るわよね?」
「何かよくわからんが、俺もそろそろ帰った方がいいかもしれん。人を待たせているしな。」
俺が出口に向かって走っている最中に魔術師に呼び止められた振り向くと一本の棒が飛んでくる。慌ててキャッチすると、それは魔術師が使っていたであろう杖だった。
「杖が無いならそれを使いなさい!あるのと無いのでは次元が一つ違うわよ!」
「ありがとう!別れの前に一言だけ、俺もあんたみたいな母さんが欲しかった。」
俺はま振り返ることなく廃工場を後にした。
「来たのね。」
廃工場の上からすごい勢いで人が降ってきた。屋根の一部に穴を開け、そこから夕陽が差し込んでいる。かなり高い位置から落ちてきたはずなのに傷一つない。服についた土ぼこりを払いながら秘書風の女性は話しだす。
「必ず見つけるといったでしょう。それに、詠斎様はお怒りでした。普通に手を出したのだから、生かす価値は無いと仰っていました。」
「一般人を巻き込んだ件かしら?エイサイの名が出るってことはあなたはミドウの回し者?」
「答える義務はありません。冥土への土産などあっても大概没収ですよ。」
「まだ死ぬと決まった訳じゃ無い!」
手に持った死水晶を強く握ると地面から大量の魂喰らいが出現する。今まで封じ込めてきた100近い魂喰らいを放出した。もしこの状態を生き延びてもきっと魔術師としてもやっていけないだろう。
「数だけ増やされてもこちらの処理が増えるだけいうのに・・・。」
女はどこからともなく一本の大斧を取り出し目前の魂喰らいを叩き潰した。グチャという音とともに魂喰らいが肉片に変わる。一応元人なのよ?あんなに躊躇なく倒してしまうのね。このまま一体ずつ倒されるかと思いきや予想外のことが起こった。女が後ろに下がり自分が持っていた大斧を蹴り上げると数百個に分裂した。手斧ほどの大きさになった斧を一つ掴み、こちらに向かって投擲するとそれに倣って他数百もこちらに飛んでくる。嵐のようだった。ただ切り裂き、砕き、壊すだけ。斧が巻き起こした旋風は私を含めたすべての人型を切り裂いた。薄れゆく意識の中で彼女はこう言った。
「人は本当に脆いですね。」
今ならわかる彼女は悪魔なんだと。
続く
まほきた15話を読んで頂きありがとうございました!なんと御道は戦わずして戻って来たんですねえ。戦うだけではなくただ話をして終わる回が欲しいと思ったのでこのような形になりました。次回のことも考えて置かねえと・・・。それでは次回お会いしましょう!




