無責任な魔術師
「何、御道が攫われた!?」
九道が声を張り上げて驚く。お泊り会を抜ける訳にはいかなかったので一応報告しに戻ってきたが当然の反応だった。
「相手は魔術師だったみたい。魂喰らいを操ってたみたいだけど数がかなり多かった。」
実際昨日の一晩だけで数週間分の魂喰らいを見た。そもそも一人であの数の魂喰らいを同時に使役できるのだろうか。他にも共犯がいる可能性があるのか。
「ひとまず、御道が帰ってこないってことを多賀谷に報告しておいた方がいいだろう。」
九道は多賀谷を探しに歩き出した。
程なくして多賀谷が白鳥姉妹を連れて戻ってきた。
「話は聞いたわ。あなた達は朝で帰ることにしたから、とりあえず、ご両親に報告しないとね。」
「あの、非常に申し上げにくいのですが・・・。」
黒橋が多賀谷から目を逸らし、何かを言いにくそうにしている。
「どうしたの?これ以上のことで驚かないから、何でも言ってみなさい。」
多賀谷がそう言うと、黒橋は俯きながら言った。
「この帰宅部の部員は御道君の家を、誰も知らないんです。」
多賀谷は処理しきれなくなり硬直してしまった。
結局僕たちが園児に別れを告げ、御道君の家を調べる終わった時にはもうすでに夕暮れ時だった。まさか市役所でも御道君の家の住所がわからないとは。結局、狭間山麓にある公民館のような場所で、御道君の家を知っている人に出会えたのだ。家の場所を教えてほしいと伝えると、謎の通路に通され、その奥には車が入るくらいの大きなエレベーターがあった。
「こちらのエレベーターからです。安全のため私が同伴しますがよろしいですか?」
白髪で整った身なり、皺一つないスーツを着こなし、落ち着いた雰囲気を醸し出すジェントルマンといった風貌の男性が御道君の家を知っているという。年はわからないが、30後半といったところだろうか。ひげなどは生えておらずハリのある白い肌が印象的だ。グオーンと大きな音を立てながらエレベーターが上昇する。
「皆様は家継様とどういった御関係なのでしょうか?」
沈黙に耐えかねてか、はたまた純粋な疑問なのか男は聞いてきた。
「帰宅部の大事な仲間です。ただ当の本人が一晩経っても帰ってこなかったので御道君の両親に報告しようとここまで来ました。」
相手がどういう人物がわからないので当たらずも遠からずな言い方で濁した。僕は何故御道君が戻ってこないかの理由を知っているのに。
「失礼を承知で申し上げますが、家継様にはお母さまがいません。」
しまった、まずいことを言ったかもしれない。もしかして御道君は父子家庭だったのか。
「奥様は今どこにいるかわからないのです・・・。最後に連絡があったのは3週間前で、ブラジルにいると仰っていました。」
白髪の男はハンカチを取り出しオイオイと泣いている。もっと厳かな人かと思っていたがいきなり泣き出されるとこちらも返答に困る。
「あの、あなたはどういった方なのでしょうか、見た感じだと執事さんですか?」
「申し遅れました。私はマルドーと申します。高次様に仕えているのですが、家の方では莉子様や、香奈枝様が高次様のお世話をしておられるので、私はこうして御道家に来る方として相応しい人物かを見極める門番をしています。」
「その莉子さんや香奈枝さんはどういった方ですか?」
「家継様のご姉妹です。以外かもしれませんが家継様は末っ子なのです。」
知らなかった。御道君が末っ子な上に3人兄弟だなんて。聞けば聞くほどに僕が知っている御道君から遠くなっていく。出会って数か月だったけど僕は御道君のことは大して知りもしない癖に友達だ何だと言っていたのか。体が重い。これから御道君のお父さんに、どう御道君の事を伝えればいいのか。僕が俯いていると後ろから予想以上の勢いで背中を叩かれる。全くの無警戒だった僕は倒れこむ。後ろを振り向くと九道君が険しい表情で腕を組み仁王立ちしている。
「黒橋よ。まさか自分に友達の資格が無いとか思って無いよな?御道の事を知らないから?自分だけ逃げてるように思えるから?自分は守られる立場だからか?俺だって御道のことは全く知らん!あいつの名前くらいとたまに垣間見える薄情さと異様にお人好ってことぐらいしかな。自分が守られているのが嫌だだなど、なんと羨ましい悩みだ!お前は御道に守られて御道はお前を守るために戦う。これはもう一つの立派な友情では無いか。知らないから友達ではない訳では無い。会って一言交わせばもう友達だろう?そこから真の友になれるかどうかは自分次第。今まではそうでなくてもこれからなればいいではないか。」
涙が溢れ出す。どうして九道君の言葉はここまで心に響くのだろうか。そうだ、今までじゃないんだ、これからなんだ。高校生活だってこれからなんだ。今諦めてこれからどうするんだ。僕は立ち上がる。それを見た九道君は仁王立ちのままうんうんと頷いた。その光景を白鳥姉妹とマルドーさんが雑談しながら見ていた。
エレベーターを降りるとそこは花畑だった。色とりどりの花が植えられており、中には季節外れの花がいくつも咲いていた。いや、逆だ。季節の花以外の方が多い。7月だというのに桜は咲き乱れ、楓は紅葉している。薔薇、椿、水仙、ヒガンバナ、マリーゴールド、本で見た物から、名前も知らない花まで、皆一様にたった一つしかない電燈にほのかに照らされている。まさに幻想。花好きでもそうでない人でもここを理想郷と呼ぶだろう。少し先にある屋敷には灯がともっている。2階建ての大きな洋館は花畑も相まってここは日本では無いと錯覚させるほど立派なものだった。僕たちはエレベーターを降りてからただの一言も交わすことなく只々この幻想的な風景を見つめていた。
「あちらが御道邸となっていおります。では、行きましょう。」
マルドーさんの声でやっと僕たちは我に返った。本来の目的を忘れかけていた。
「見事なものでしょう?この庭は香奈枝様がお作りになられた物です。おっと散らさないように気をつけて。香奈枝様は自分の庭を荒らされるのがお嫌いなので、下手したら死を覚悟することになります。実際に何人もの客人がこの庭の養分となりました・・・。」
後片付けはしたこと無いのですが、とマルドーさんは付け足す。
大事な客人を殺す?しかもこんな日本でそんな事をしてしまったら絶対誰かが異変に気が付くはず。もしかして御道君のお姉さんはすごく怖い人なのかもしれない。
「ご心配なく。庭を荒らさない限り、香奈枝様は寛大に接してくれます。それに、誰も異変に気が付かないほどの世捨て人ぐらいしかここを訪れる方がいないのです。ここではあなた達の方が特殊なお客様です。」
玄関の前に来るとマルドーさんがコンコンと二回ノックする。すると奥からはーいと女性の声が聞こえてきた。扉が開く。そこにはエプロンを付けたポニーテールの女性が立っていた。
「あら、マルドー。こんな時間にお客さんなの?」
「はい、家継様のご友人ということで通させて頂きました。何やらお話があると。」
「そうなの?ごめんね。今家継出かけてて。もう帰ってきてる時間帯なんだけど。何かあったのかしら。」
「あの、その件に関して御道君のお父さんにお話が・・・。」
「わかった。じゃあ父さん呼んでくるから。マルドーは応接室に案内してあげて。」
「かしこまりました。」
中は広いが単純な作りで迷いそうには無かった。玄関の大きなホールが特徴的でここに客人を招いてダンスパーティでも出来そうな程だった。応接室でしばらく待っていると御道君のお父さんが出てきた。第一印象は怠惰。Tシャツに半ズボン。髪はぼさぼさでほとんど手入れされていないだろうと見て取れる。明らかにこの屋敷の主人とは思えないくらいの身なりだった。本当にこの人が御道君のお父さんなんだろうか。
「要件を聞こう。」
見た目とは裏腹に声のトーンを落として聞いてきた。御道君が攫われた事をどう説明すればいいか僕は迷っていた。
「御道が、いや家継が攫われました。」
九道君があっさり答えた。
「ほう。」
とだけ言うと御道君のお父さんはソファにもたれかかった。
「え、それだけの事を言いにここまで来たの?随分と物好きな子たちだね~。」
なんだこの人は。実の息子が誘拐されているというのに、「そんな事」でまとめてしまった。
「ちょっと!それどういう意味よ!実の息子が攫われてんのに繭一つ動かさないって、親としてどうなの!?あんた本当に御道の親なの?」
鈴女ちゃんが言いたいことを全て代弁してくれた。
「何を隠そう俺が家継の父高次だ。って名乗ればいいのかね?逆に聞きたいんだけど家継が攫われましたって俺に言ってどうしたかったわけ?じゃあ『何!?今すぐ助けに行くぞ!』とでも言えば良かったのかな?残念だがそれは筋違いだ。あいつのミスであいつが攫われたんなら自力で帰ってくるぐらいしないと到底魔術師にはなれんな。」御道君のミスの内に僕がいたことが含まれていることもあって、僕の胸にお父さんの言葉が突き刺さる。
「御道の親父さんよ。それはちょっと無責任すぎないですかい?実の息子を谷底に突き落とす獅子と形容するにはいささか難しい。真っ暗で底なしの谷に突き落としといてじゃあ頑張れでは帰ってくるもんも帰ってこないでしょう。」
「突き落としたという解釈は間違いだ。あいつは自分から底なしの谷に降りていったんだ。それを親である俺が助けなきゃいけないってのは話が違うぜ、坊主。」
「それに心配しなくてもあいつは帰ってくる。お前たちが思っているよりもあいつは強いんだよ。」
「確かに御道君は強いです。魂喰らい相手にひるむことなく立ち向かい、そして倒す。けど、今回は話が違います。お父様も魔術師なら魔術師を相手にすることの難しさを知っているのではないでしょうか?」
麗虎ちゃんのいうことは最もだった。今回は相手が違う。そんな麗虎ちゃんの言葉を聞き、御道君のお父さんは頭を掻きながら言う。
「言いたいことはわかるが、そうだなあいつが強いのは単なる実力だけじゃなくて・・・。あー!説明面倒くせえ!家継の友達って聞いたからもっと物わかりのいいやつだと思ってたが俺の見込み違いか?」
「もー!こんなんじゃ埒が明かない!もう私たちだけで探しにいきましょう?」
鈴女ちゃんが怒って応接室の扉を開けようとしていたところだった。鈴女ちゃんが扉を開けるよりも先に扉が開き中に一人の男の子が入ってきた。そう、それは紛れもなく御道君だった。
「ただいま。あれ?黒橋たちも来てたのか。」
何食わぬ顔で僕たちを歓迎する御道君に僕たちは混乱するしか無かった。
つづく
14話を読んで頂きありがとうございました!あれ?御道帰ってくるの?思われた方は次回をお楽しみください。それでは次回会いましょう!




