御道誘拐
書くことが無くなってきた。
「走るぞ!黒橋!」
俺は黒橋の腕を引き道を塞ぐ魂喰らいを袈裟に切り裂いた。魂喰らいは呻きながら地面に倒れる。脆い。いつも相手している個体よりもよっぽど鈍く、弱い。だが数が多い。軽く20はいる。俺一人だったならすべて相手してもいいが今は黒橋がいる。そもそも空も飛べない俺が魔術師と互角以上に渡り合えるのか?くそ、こんなことなら誰か叩き起こしておくんだった。しかも何だよあいつ・・・初対面のはずなのに俺たちを自分の子供扱いしたぞ。魔術師って奴は常人とは何か違う感覚を持ち合わせていけないといけないのか?ああくそ、落ち着け、落ち着くんだ。こんなことで焦る俺じゃ無いだろ。ひとまず黒橋を連れて幼稚園まで戻る。今はそれで行こう。
俺は黒橋と走り続ける。後ろは振り向くまでもない。あの魔術師の女の奇妙な高笑いと魂喰らいの吠える声しか聞こえない。途中何度も魂喰らいが道を塞いでいた。俺は突破しやすいようになるべく数が少ない道を選び逃げていたが、ついにそれが仇となってしまった。考えてみればそうだ。魔術師の女は何故自ら手を出さないのか、何故魂喰らいを不自然に配置したか、それは俺たちを誘導するための罠だった。しかし完全に黒橋を逃がすことしか考えていなかった俺にはその事はまるで毛頭になかった。角を曲がれば当然のように行き止まり。誰だよこんな所に高い塀を作ったのは。
「引き返すぞ。」
「うん、ってうわああ!?」引き返そうとした黒橋の左足に黒い鎖が巻き付き、黒橋が転ぶ。
「大丈夫か?」
「怪我はしてないけど、御道君これ外せそう?」
「外せるかどうかよりも外す時間が無いな。」
前を見ると既に十数の魂喰らいが袋小路の出口を塞いでいる。
「外すのは・・・あいつらを倒してからだ!」俺は刀を片手に魂喰らいの群れに突っ込んで行く。手始めに手前から切り倒す。一旦刀を鞘に納め、引き抜くと同時に魔法を詠唱する。
「抜刀魔力付与!風!」
抜き払った刀から鎌鼬が吹き荒れ、魂喰らいを切り刻んでいく。十数体いた魂喰らいは全て細切れになり、地面に小さな肉片の山を作った。
「解除」
初めて風の力を使ってみたがやはり調整がうまくいかない。だが今は自分の未熟さを嘆く時間は無い。急いで黒橋の所に駆け寄る。
「黒橋じっとしてろよ。動くとお前の足を切ることになっちまうからな。」
刀を鎖に叩きつける。金属が接触する音は聞こえるが傷一つつかない。疑問に思い鎖に手を触れてみると、多大な魔力を感じる。どうやらこの鎖は魔力のみで構成されているようだ。
「嘘だろ?触った感触は金属なのに。一体どんな魔法なんだ。」
「魔法では無いのよ、私のかわいいぼ・う・や」
魔術師の女が薄気味悪い笑みを浮かべながら歩いてくる。
「じゃあこれが魔術ってやつか?随分趣味が悪い使い方してるじゃねえか。」
「だってあなた達すぐ逃げるんですもの。ほら、お母さーんって言いながら私の胸に飛び込んで来てもいいのよ?」
「誰がお前なんかを母さんなんて呼ぶかよ。」
「今呼んだじゃな~い。あなた随分と素直じゃないわね。だけどそこもかわいいわ!」
「うるせえ!下らねえ上げ足取ってる場合かよ!」
俺はバネのように跳躍し、魔術師の女に刀を振り下ろす。だが持っていた杖に防がれる。
「飛び込んでくるまでは良かったけどこんな物騒なもの振り回しちゃ、めっ!よ。」
「いちいち神経逆撫でするような言い方するんじゃねえよ。」
「も~反抗期なんだから。私はいいけどあの子たちは怒ってるわよ?」
謎の威圧感に慌てて距離を取るとまたしても地面や壁から魂喰らいが現れる。
「そこまで嫌がるならちゃんと聞いてあげるわ。私の子供にならない?」
「お断りだ。」
「仕方無いわね~。じゃあチェックメイトよ。」
魔術師の女が杖を地面にコンとつくと、突如俺の足元から2本の腕が現れ俺の両足を掴む。刀で切り飛ばしたが前を見ていなかった。気が付いた時にはもう魂喰らいは目の前に迫っていて、俺は組み伏せされてしまった。
「クソッ、放しやがれ!」
俺は抵抗したが、魔術師の女に電撃を当てられ気絶させられてしまった。薄れゆく意識の中で黒橋が何かを話しているのが聞こえた。
金属がぶつかる音が聞こえる。二つの斧がぶつかる度に轟音と共に火花を散らす。その光景をアインは遠目にしか見ることは出来なかった。
「何者なんだ・・・あいつは。」
悪魔と一時的に契約したダガナルさんを圧倒している。援護しろったって下手に手を出すと邪魔になりかねないし・・・。
「お前・・・人間じゃ無いだろ?じゃなきゃ俺の一撃を止められる訳が無い。」
「そうですね。わかりやすく言うなら私は悪魔です。けどあなたは半魔といったところでしょうか。わざわざ悪魔の力を取り込んでどうするおつもりですか?」
「強いて言うなら何もない。俺はこの力を受け継ぐことで魔術師になれる。だからこの力を引き継いだ。だが、悪魔の力というのも万能ではない。新月の夜にのみ契約できる悪魔など何になる?おまけに継承の後遺症でいついかなるときでも12時間は睡眠を取らなければならないハメになった。出来損ないもいいところだろう。」
「人間。魔術師とは不憫な生き物ですね。そこまでして追い求めるものは何ですか?」
「追い求めるもの?そんなものは我々にはない。ただ親が継いできたものをそのまま子に渡す。その余生で魔術師としての力で好き勝手をする。魔術師というのはそういうものだ。そういう点ではまだ魔法使いの方が本来魔術師としての姿に近いだろう。自分の理想を魔術で叶える姿を夢想し、日々魔法の訓練を重ねる。だがきっとどこかで絶望するだろう。こんなはずでは無かったと。」
「それが今のあなたですか?失礼ですが私にはあなたが絶望しているようには見えませんが。」
「そりゃそうさ。俺も自分勝手にすると決めたからな。現にこうしてまともに張り合えそうなやつと出会えたじゃねえか。」
「戦うことを好む魔術師ですか・・・。どちらかとうとお角違いな気もしますが、私にとってはただの邪魔ものです。即刻排除します。」
「やれるもんなら。」
しかし、次の瞬間その場にいた魔術師達は異様な光景を目にする。秘書風の女性が持っていた大斧が二つに割れたのだ。まるで最初から2本であったかのように。秘書風の女性は両手にそれぞれ斧を持ち、今度はアインの方に向かって跳躍した。
そんな・・・まさか御道君が・・・負けたのかな・・・だって動かないし。そんな・・・また僕は何も出来なかった。見てるだけだった。僕はいつも重荷でこういう時には何も出来ないただの役立たず。前と何も変わっていない。ただこうして呆けているだけなんだ。
「かわいそうに。あなたは来るべくしてここに来たのではないのね。」
「御道君をどうする気ですか?」
「初めに言ったでしょ?私の子供にするって。あの子は魔法も使えるみたいだから魂喰らいにするのは勿体ないわ。私の手で立派な魔術師にしてあげる。」
「そんなこと許されることじゃない!当たり前のよう人を攫って。自分の子にするなんて。人間のすることじゃない!」
「魔術師には人間の感覚なんて要らない。そんなもの一々気にしていたら魔術師にはなれませんもの。人以上のことが出来る者に人の法が通用するとでも?目の前で人が起こす全ての出来事は魔術師にとって些細なものなのですから。」
「あなたからは特に魅力は感じないし、この子と遊んでなさい。じゃあね~。」
そう言うと魔術師の女は御道君を魂喰らいに担がせ悠々と去っていった。足元の鎖はすでに消えていたが、目の前には一体の魂喰らいが行く手を阻むんでいる。これでは追いかけることは出来ない。
「どうしよう・・・。僕は戦えないよ・・・。」
こんな時間だ。誰かが通りかかることも無いだろう。九道君たちも寝てしまっている。正真正銘これは詰みなのでは?前もこんなことあったけ。けど今は諦めたくない。御道君を連れ攫われたことを知っているのは僕だけなんだ。このことを誰かに伝えるまではまだ死ねない。考えろ、考えるんだ。今の僕に何が出来るか。次こそは僕が御道君を助けるんだ。ゆっくりと魂喰らいが近づいてくる。ふとおじいさんの声が蘇る。
「何か守りたいものが出来たらそれが君の人生の転機じゃぞ。」
そういえば、あれ以来試していなかった。もしかしたら今の僕には出来るんじゃないか?目を閉じて集中する。手に暖かい光が集まってくる。こう、手を前に翳してこの光を薄く広げる感じで・・・。手を横にスライドさせると光の跡が残る。目を開き前を見ると後が残っている。そのあとに触れてみると薄い光の壁になった。今度は何も描かずに掌を強く前に押し出す。すると光の壁が直進し、魂喰らいを袋小路から押し出した。
「う・・・うまくいったかわからないけどとりあえず逃げないと。」
僕は全速力で幼稚園まで戻った。
月が出ていない空を箒で飛ぶ一人の魔術師がいた。空高くから夜の阿原町と網目町を境で見下ろし、微笑を浮かべている。
「こっちは未熟な死霊魔術師じゃな。天木君の方は妖精魔術師、あとは悪魔契約型が1人か、小川君ももう少しまともな奴を派遣してくれんとワシが出るまでもないではないか。」
視点を死霊魔術師の方に向けると見慣れた少年が魂喰らいに運ばれているのが見える。
「おうおう、家継の奴め。さては頭に血が上ったか?あの程度の魔術師ならお前でも十分戦えたはずなんじゃが。死霊魔術師モドキは廃工場の方に向かっておるのか。おや?あの子は・・・。」
また別の視点に目を向けると今度は魂喰らいを吹き飛ばし、走っている少年の姿が見える。
「おお、ちゃんと魔術を使えておるようだな。だが使ってしまったのなら護君の道は決まったようなもんじゃな。ワシも自由に動けたらいいんじゃが天木君が厳しいからなあ・・・。」
「まあ今日はこうして眺めるだけにしておくか。そろそろ戻らんと天木君に怒られるしのう。」
魔術師はフラフラと自分の居場所に戻っていった。
13話を読んで頂きありがとうございました!これからドウナルンダロウナーワカラナイナー。御道のこれからの動きにご期待ください。それでは次回も首を長くしてお待ちください。




