獄炎の聖女
とても穏やかな気分だ…なんだかんだいってこっちに来てからはまともに休んでいなかった気がする。疲れてるんだろう…
ふと、後頭部に柔らかい感触を感じる。それがなんなのかが気になって、億劫ながらも目を開けると…
アイゼスと目があった。急速に頭が冴えていく。このままではまずいだろうと思ってこの体勢から脱出しようとしたのだが…
「まぁまぁ。もう少しゆっくりしてもいいんだぞ?」
と笑顔で頭を押さえられ、脱出できなかった。たしかに役得なんだけど!役得なんだけど…!
「…もしかしてアイゼスさんって性格悪いですか?」
「どうだろうか?まぁカナタには少々意地悪かもな。なんたって私の奴隷だしな」
「奴隷、ですか…」
「そうだ。奴隷だ。ところで体の調子はどうだ?いわゆる魔力切れというやつになってぶっ倒れたんだが」
そういうとアイゼスは俺をやっと解放してくれた。すぐに起き上がって、立ってみる。そのまま体に異常がないかざっと調べたが…
「いえ。なんともないですね」
「そうか。それはよかった。まぁ魔法の使い過ぎは本来あのような結果を招くということだ。魔法を行使する前には必ずカナタの使い魔を召還しておくように」
「はい。了解しました」
さて…といいながらアイゼスも立ち上がる。残念というべきか、危なかったというべきかアイゼスはズボン姿だった。
「そういえば…何時間ぐらい経っていますか?」
するとアイゼスは外を指さす。
…すっかり暗くなっているようだ。
「さぁ、お前の膝枕をしていたらすっかりおなかがすいてしまったんだ。夕飯を食べに行くぞ」
そういうとアイゼスはそそくさと部屋の外へ出て行ってしまった。
そして俺は見てしまったのだ。あの鉄皮面のアイゼスがニヤニヤとした笑いを浮かべているところを…
…膝枕をするのがそんなに気に入ったのかな?
とまぁ少々場違いなことを考えつつ、アイゼスの後に続いた。
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ところで皆さんは俺が不幸だということを覚えているだろうか?いや、覚えてなどいまい。なんせこの頃は絶好調…そう。ほとんど何事もなかったからだ。
しかしそのなけなしの幸運は早くも尽きてしまったらしい。
異変が起きたのは俺の料理がちょうど運ばれてきた時だ。奴隷にとっては破格のご主人様と同じ、暖かい料理。それを食べようとしたところで…
バァン!と、ドアが乱暴に開かれた。
続いて、白い修道服に身を包んだ小さな少女が入ってくる。
そう。小さな少女。どう考えてもその身には合わない業物っぽい剣を背負っているのと服にこれでもかというほど十字架がかけられているということを除けば、普通の少女といえるだろう。
身長は150cmほど。背負っている剣は真っ白な鞘に柄にはめ込まれている大きな赤い石が目立っている。
少女自体は金髪碧眼の美少女。ただし今に限っては周囲にガンを飛ばしまくっているので怖いという感情しか持ちえなかった。
背中をタラー、と冷や汗が伝う。なんとなーく、嫌な予感が…
アイゼスとイヴをはじめとする無神経な客たちは食べる手を休めようともしていなかった。度胸座りすぎだろ…
少女がきょろきょろと誰がを探すように眼を動かす。
そしてもちろん…
「…あ」
「…えー…」
俺のところで目が留まった。そのままカツカツと音を立てながらこちらに歩いてくる。これまたもちろん俺たちのテーブルまで来て止まり、俺の顔をしげしげと見つめ始めた。
「…この街にはたった今到着したのデスが…驚きましたね。《七煌》級の素質がある人材がいるとは…」
「…失礼ですが、お名前を聞いてもよろしいですか?」
初対面だというのに自己紹介もせずに話し始めるとは…案外大物なのかもしれない。
「ああ、私は《七煌》が一柱、クラウディア・フェレスという者デス。以後お見知りおきを。ところでこちらから提案があるのデスが…」
そう名乗った瞬間、周りの空気がピシッと凍りついた。
そりゃそうだろう。冗談抜きで世界最強の人があろうことか普通の宿の酒場に現れたのだから…いうなれば日本の居酒屋にハリウッドスターが現れた感じ?
自分の奴隷が絡まれているのにも関わらず自分の食事を食べていた両名もさすがに動きが止まってしまったようだ。
「…その《七煌》が私の奴隷に何の用かな?」
しかしアイゼスはごく短い時間で復活するとそのシスターにそう返した。
すると…なぜか今度はシスターの方が固まってしまう。
「…はぁ?これだけ強大な力を持っていながら奴隷という立場なのデスか?冗談ではなく?」
「あぁ。彼、ツジウラカナタは私の所有物だ。何か問題でも?」
「ほほぉ…あなたがこの人の…ツジウラカナタデスか?のマスターデスなのですね。問題は…ないとは思いますよ。まぁ提案というのは他でもない…」
そこでシスターは言葉をためた。不穏な雰囲気しか感じないんですが…
ちなみにイヴさんは早速この状況に飽きてきたらしく、もくもくとパンにかじりついていた。さすがSランク…!
「私をパーティーに入れてくださいませんか?私、そっちの彼に興味が出てしまったもので…もちろん《大侵攻》までの間ですが」
…いや、たしかにいきなり決闘とか問答無用で斬るとかよりはマシと思いますよ?でもこの世界で最強と謳われる殿上人が素人×2がいるパーティーに入るっていうのもかなり問題だと思うんだ…
「じゃあ勝負」
「「「え…?」」」
…そして最低の横やりが入ってきた。
「ん?入りたいんだろ?じゃあそこのカナタと勝負しろよ。勝ったらうちのパーティーに喜んで入れてやるぜ」
「ちょっと待って下さいイヴさん…どうして俺なんですか…」
「え?せっかくの奴隷だし?使ってみようと思って」
…殴りたい…そう思わせるほど爽やかな笑顔で言われてしまった…
ちなみにアイゼスは仏頂面になって黙り込んでしまっていた。
「…まぁ、わかりました。それでは明日の昼ごろ、ギルドの訓練所を空けてもらいましょう。そこで勝負デス。ルールは…」
「あぁ死なない程度で」
「ちょ…」
「わかりました。では、楽しみにしていますね」
ということで何が何だかわかりませんが世界最強の人と戦うことになりました。まる。
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しっかしあの少年はなんだったのだろうと私、クラウディアは考える。
私のスキルの一つに【強者看破】というのがある。これは本来私が戦場などに出た時に力あるものを優先的に破っていくということなどに使うスキルなのだが…
あまりにも、ポテンシャルが高すぎた。あの少年は。
【強者看破】はパッシブではない。アクティブスキルだ。それは強者が醸し出すオーラというものを可視化するためである。オーラの色はその人が最も得意な魔法属性の色。そしてオーラの外にさらに薄い膜のようなものが広がっていることがある。それがいわゆる潜在能力…可能性のオーラだ。
私は新しい街に来たとき、必ずこの能力を使うことにしている。
その街の大まかな戦力を見るためだ。
だがこの街はそれを使った瞬間…
明かりが消えた。
いや、消えたのではない。何者かのオーラに塗りつぶされてしまったのだ。
それも潜在能力の方のオーラで。
街一つを覆う。はっきり言ってそんなのは《七煌》や《大罪》、《美徳》以外にできるものはいない。
だから私は最初、もうすでに誰かが来ているのかと思った。
噂に聞く闇の《七煌》ならオーラには確かに説明がつく。だが…
広がっているのは薄いオーラだ。つまりはウルトラルーキーがこの街にはいるということ…
それで水源をたどっていくといたのがあのカナタとかいう少年だ。
しかも聞くところによると彼は奴隷らしい。
「ククク…」
と、つい押し殺した笑いが出てしまった。
楽しみだ。あぁ、本当に楽しみだ…
普段よりは軽い足取りで、寝床となる教会へと向かう…。
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「…イヴ。また勝手に話を進めてくれたな…まぁ対人戦闘はいくらこなしておいても損になることはないからいいんだけどな…喜べカナタ。《七煌》と戦えることなんて滅多にないことだぞ」
「いやいや、実力差がありすぎて…」
「まぁまぁ!固いことは言うなって!向こうも手加減してくれるはずさ!…多分」
「多分て…」
ということで優しい優しいご主人様二人に背中を叩かれて(無理やり押されてともいう)しぶしぶながらも訓練場にやってきた。
昨日の魔力切れ教訓を生かし、どこかの誰かさんのように突然切りかかられてもいいよう、すでにアモンを肩に止まらせている。
邪魔にはならない程度の大きさまで小さくなってもらっているので(悪魔って便利だよね)戦闘の邪魔になることもない…
訓練場に入ってみると…案の定人だかりができていた。しかも俺の姿を認めると「おお!チャレンジャーのお出ましだ!」とか勝手なことを言いつつ道を空けてくれる。さながら海を割ったモーゼのような気分がしないでもない。
…胃がキリキリと痛くなってきた。苦虫を一気にかみつぶしたような顔をして人垣の前に出る。
そこには昨日のシスター…クラウディアが待っていた。
「…武器を出すのデス。早速始めましょう」
クラウディアは昨日も持っていた剣を手にしていた。白いのは鞘だけかと思いきや刀身も白い輝きを放っている。ていうかちょっと怒ってるっぽくて怖い。
俺は無言で【ブラッドウィスパー】を取り出した。あと【ホーミング】を改造した【アーツ】を無詠唱で召還する。【アーツ】はホーミングのように爆発したりはしない。紐のないヨーヨーといった感じだろうか?まだまだ拙い俺の戦闘を補助する魔法だ。切り札は…まだ発動させない。
「…いきます」
まずは相手の元まで駆け寄り、そのまま鎌をスイング。そのまま相手の剣と激突する。さすが《七煌》というべきか、涼しい顔をして大質量の攻撃を上に受け流しきってしまった。
振り切った勢いを利用していったん距離を空け、眼帯を取り払う。出し惜しみができる状況じゃなさそうだ・・・。
もう一度相手の懐へ飛び込み、下から鎌をふるう。それと同時に【アーツ】で足を払おうとするのだが…
よけられた。というかバックスウェーからの後転で逃げられてしまった。なんて身軽なやつ…
「こちらからもいかせてもらいますデス」
そういって一気に距離を詰めてきて、ツキを放ってくる軌道は読めているので鎌をぐるりと回してそれをはじき、重量がないことをいいことにそのまま連撃に入る。
いくら《七煌》といえども人間!大質量の攻撃を受け続けていればいつかは…
「ククク…楽しいデスねぇ…いいデスねぇ…【エクスプロージョン】!」
「っ!まず!」
とっさに後ろへ飛び退く。その瞬間、クラウディアの半径2mほどが爆炎に包まれた。観客たちもポカーンとしている。
…あの魔法と俺が【ナイトメア】のブーツで後方に2.5mほど跳んだことのどちらにかはわからないが。
と、そこで左肩に疼きを覚える。これは予知の…!とっさに伏せると、さっきまで左肩があったらへんを高速で何かが飛んで行った。あれは…
「十字架…?」
ハッと気が付いて、あたりを見回す。よく見ると俺とクラウディアを大きく囲うように十字架のようなものが地面に刺さっていた。
まずい。おそらくは結界系の魔法だろう。
そしてよく耳を澄ますと、クラウディアがブツブツと何かを唱えていることがわかる。
「アモン!【夜闇招来】の呪文!」
「無詠唱化は済ませてある。ただ鎌を空に突き出してから【夜闇招来】と言わないとと発動しないようにキーをかけた」
とっさに鎌を空へと突き出す。
煙は晴れ、クラウディアも俺と同じことをしているのが見えた。
「【夜闇招来】!」
「【獄炎の聖域】」
途端…
あたりを炎が吹き荒れた。
「すまないデスねカナタ!私の勝ちのようデス!」
「くっ!」
どうやら、間に合わなかったらしい。
「【リアライズ・レーヴァテイン】」
そうクラウディアが唱えると持っていた剣が青い炎に包まれた。剣自体もまるで生き物が早送りで成長するように、中から本当の姿を出し始めた。
もはや神々しい雰囲気などない。あるのは禍々しさだけだ。
剣の表面は鰐の鱗のようなものに覆われ、全体的に赤黒い。そのくせ刃は金属的な輝きを放っており、離れたここからでも切れ味のよさがわかろうというものだった。赤い宝石は赤い爬虫類のように細い瞳孔をもつ赤い眼へと変わっている。
炎が吹き荒れる中禍々しい剣を持っている様子はさながら神話の中のようだ。
「さすがにこの状態で戦って死なせない自信はないのデスが…降参しますか?」
「はい…降参させてもらいます」
「ヤー」
クラウディアがバッと手をふると、たちまち剣の禍々しい姿とあたりに吹き荒れていた炎は掻き消えた。
クラウディアはドヤ顔で剣を閉まってる。
「あーこほん。主様よ」
「…なんだアモン」
すると親にものを壊した子供が罪を自己申告するような声でアモンが話しかけてきた。
「…いや、実は呪文を間違えていてな…本当は【闇よ、来たれ】だ。すまん」
「…はぁ?」
なんて言ったこいつ…
「ニュクス様から賜った魔法があんなちゃちな魔法に負けるわけがないだろう!もし詠唱が遅くても結界を塗り替えているはずだったのだ」
「…まぁ後で話をきくよ。アインズさんに使い魔のしつけ方を教えてもらってからね」
「待て!待つのだ主様よ!」
「【強制帰還】」
…ようはあのバカ鳥のせいで負けた、と…
なんだろう、このやるせない気持ち…
「どうデス?カナタ。我が最強の魔法は!」
「すごいですねー。とても参考になる戦い方でした」
そうだろう、そうだろう!といいながらペラペラとアドバイスを喋りだす。やれ振りが遅いだのやれ使い魔に魔力を頼りすぎだだのやれ十字架ぐらい気づかなければだめだだの…
俺はさっきの脱力気分のままでずっとうわの空だったのだが…
不幸さんがこれを見逃すはずもなく…
「そうだ!お前を私の弟子にしてやるのデス!いいデスよね?」
「はい…」
「では明日もここに…いや、カナタほどの実力があるならば大丈夫でしょう。明朝からグリフォン狩りに行きますよ!」
「なるほど…」
などという話も聞き逃しており、訓練所の壁によりかかっていたアイゼスから蹴りをもらった後、叱られる運びとなった。
一方クラウディアはなぜかとてもうれしそうにしており、年相応の笑顔で「また明日会いましょう!」と言われたのでこちらも笑顔で手を挙げると今度はイヴから蹴りをもらった。
ちなみにその後の説教で今度他人のモノになるような真似をしたら首輪と鎖をつけてやろうとアイゼスに言われた…ワンワンプレイは勘弁なので以後気を付けよう…
ということで三人目のハーレムメンバーです。
あと魔力切れですけど最初の盗賊掃討の時はベルダンティがいたので魔力切れにはならなかったという設定です。ご了承ください。




