決戦前夜
クラウディアと戦った日から三週間程が過ぎた。
三週間の間にグリフォン狩りに行ったり、【切り札】を完成させたり、アインズたちの訓練が容赦なくなってきたり…
伝説の《七煌》様の支援と俺たちの素人には過分すぎる才能が相乗された結果、高難易度のクエストを次々とこなし(ほぼ強制だったけどな!)ランクはCにまで上がっていた。
一日に適正ランクより一つ上の任務を二つ片づけることもあったし、割と本気で死にかけた場面もあった。
だがスパルタな毎日を過ごすうちに冒険者が板についたことも確かだ。
そして、ついに明日に魔物たちの進軍を冒険者たちで食い止める大イベント、【大侵攻】が迫っていた――。
「それでだが、【大侵攻】が終わったら次はピスティス法国に向かうことにする。目的はカナタと私の高度な魔法技術の習得だ。…異論は?」
「異議なし」
「俺もありません」
「私はすぐにほかの仕事がありますので。ここでお別れデス」
ということで俺たちの臨時パーティー《鮮血の死神》は【大侵攻】の基本的な立ち回り、そして【大侵攻】後のおおまかな行動方針を夕食を食べながら決めていた。
とは言っても俺は奴隷の身分。ご主人様の言葉に「そうですね」「賛成です」「問題ないです」とかしか言えないんだが…
「先に帝都に行ってもよいのだが…また獣人たち…ラストール王国とエスレア帝国がことを構えるらしいからな。巻き込まれないためにもどこか安全なところへ行った方がいいだろう」
「安全とか言ってるところに限ってトラブルがあるんだけだな!アッハッハ!」
イヴさんはエールをすでにジョッキ三杯程空けていて上機嫌だ。いや、笑うたびにバシバシと俺の背中とか肩とかを叩いてくるのはちょい迷惑なんだけどね?
「いいデスねぇ…自由にあちこちへ行けて。私なんかまた戦争のお守りデスよ…勝手にやってりゃいいのに…」
クラウディアもこの三週間でこのパーティーに馴染んできたようだ。頻繁にグチを言うようになった。
「そうなんだよなぁ…俺も傭兵扱いされて戦場に放り込まれた時があったがそう何回も経験したいもんじゃねぇなぁ…」
「ん!まぁ雑談はさておき、【大侵攻】の大幅な動き方をまとめるぞ」
そこからアイゼスが滔々と作戦を話していく。作戦なんて上等なものじゃあないかもしれないが…
まぁまとめるとこういうことだ。
・カナタとクラウディアをはじめとする有力魔術師が開幕範囲攻撃で敵にダメージ
・S~Bランクの冒険者たちとともに指揮官クラスをつぶしていく。それ以外は雑魚たちの掃討
・相手の総指揮官を討伐
実にシンプルである。アイゼスが説明するとなぜか小難しくなるが…
まぁ範囲攻撃なぞ一つも知らないので例によってアモンに習うことになったのだが。
「カナタ、広範囲魔法の習得の方はどうなっているんだ?」
そらきた。
「ああ、つい昨日実戦レベルまでには自由に扱えるようになりました。まぁ【ジャベリン】の応用なんですけど…」
「それって【デスレイン】デスよね?というかつい一週間前は『広範囲魔法なんか使えない』って言ってたじゃないデスか。どうやって魔法を習得してるんデス?」
「出てこい、アモン」
論より証拠、ということでアモンを呼び出す。そういえばクラウディアには言ってなかったもんな…
「なんだ主様よ…お望みの魔法ならもう教え…ん?こちらの御人は?」
「クラウディアって名前で《七煌》の一人だ。まだ紹介してなかったと思って…」
「待って下さいカナタ。それは悪魔…デスよね?」
「?そうだけど…」
なにかまずったか?
「カナタは魔族だったのですか!?」
「え?そうですけど…どういうことですか?」
「あー…使い魔って種族ごとに違ってくるんだよ。魔族なら悪魔、普人族、獣人族なら精霊ってな感じで。ちなみに神族は使い魔を持たない」
「なるほど…じゃああまりアモンを出さないほうが…?」
「魔族の冒険者なぞ珍しくもなんともないさ。堂々としていればいい」
「少々びっくりしましたが…なるほど。こんなに特徴のない魔族もいるものなのですね…」
聞くところによると魔族には翼があったり、角があったり、皮膚の色が青白かったり緑色だったりという特徴があるらしい。…生えてこないだろうな…
「じゃあその悪魔から魔法を習っているのデスね。あまり聞かない魔法の習得方法ですが…さすがカナタデス」
「あはは…どうも…」
クラウディアはどうも俺を持ち上げるクセがあるようだ。なんでも初めて会った《七煌》級に強い人なんだとか…褒められるたびに体がむずかゆくなるので勘弁してほしい…
「よし、じゃあ明日は頑張ろうじゃないか。カナタも全力を出していいぞ。どうせ敵は腐るほどにいるんだからな」
その言葉を合図にその日はお開きになった。
クラウディアは教会へと帰り(あんなに酒臭くて怒られないんだろうか…)アイゼスたちも自分の部屋へ帰って行った。
俺も自室へと戻ったのだが…
「久しぶりじゃのう。邪魔しておるぞ」
…なぜか先客がいた。
「どうした。そんな阿呆みたいに口をぽかんと開けおってからに。妾も今日はここに泊まるのじゃ。別に良いであろう?」
「…なんの用ですか?」
「いやー…実はの。妾としたことが話に夢中になって『種まき』するのを忘れていたんじゃよ」
「…種まき…?」
「なんじゃ。覚えとらんのか。まぁそこに座れ」
と、体に奇妙な力が加わった。無理やり、体を動かされる。
「ッ!【ディスペル】!」
とっさに魔法を振りほどこうとするが…
「無駄じゃ」
抵抗むなしく、ベッドの上に座らされてしまった。そのまま、彼女、ヘルに押し倒される。
「何をするつもりだ!」
「こらこら。声を荒げるな。がっつく奴は女性から好かれぬぞ?」
体はまるで自分のものでないかのように動かない。
どうすれば抜け出せるのかと考えを巡らせていたのだが…
ヘルがどこからか手にしたナイフによって、その思考も中断させられた。
「だから何をするつもりと…!」
「まぁ慌てるな。ほれ、右手を出せ」
と、無理やり手を差し出される。
そして…
「少し痛いかもしれんが我慢するのじゃぞ?」
ニタァ、と邪悪な笑みを浮かべながら刃を俺の二の腕あたりに滑らせた。
肩から、二の腕の中間あたりまでに赤い筋が浮かぶ。
痛みはなかった…。まだ。
「このナイフは【飢餓】と言っての…まぁどうなるのかは明日のお楽しみ、じゃな」
「何だ…うぐ…あぁぁぁぁぁ!」
突然、切り口から痛みが襲ってきた。いや、痛いというよりは熱いと言ったほうが正しいだろうか?なんにせよ、耐え難い感覚が俺を蝕む。
「ああ、この部屋には防音結界を張っておるからの。いくら愉快なわめき声をあげてくれったってよいのだぞ?」
「お前…!」
ふざけるなよ、と続けようとしたところで意識が朦朧としてきた。
「まぁ記憶はいじらせてもらう故安心するがいい。あと腕に新しい傷が入ればこの呪いは解けてしまうのでな。くれぐれも怪我をするんじゃないぞ?まぁこの言葉も忘れてしまうのじゃがな」
朦朧とした頭にヘルの言葉が入ってくる。
だが、結局何も言い返せずに、意識は暗転した。
「おやすみじゃな、カナタ」
あれ?話進まなくね?と思ったのでそろそろザナウェルでの話を終わらせていこうと思います。クラウディア加入後から【大侵攻】手前までの間の話はあとで短編集的な感じで書こうかな、と。
というこで次回からようやく主人公最強回です。




