限界
部屋から退出して魔術ギルドのロビーに出た。
一応イヴを探すけれども傍若無人な彼女が待ち人を待っているわけもなく、どこにも見当たらなかった。
「はぁ…」
ため息と言うのは、人に残された最後の自由だ。
誰にも気づかれない、優しい抵抗。
まぁここに用などあるはずもないので、足を宿へと向けた。
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「今戻ったわ」
そう言って彼女…ヴェルダンディは円卓の間に入った。
円卓にはオーディン、フレイヤ、ロキなど、北欧神話大系に所属しているものがずらりと座っている。
しばらくの間部屋には沈黙が保たれていたが、おもむろにオーディンが口を開いた。
「計画は変更になった」
「は?どういうことなの?」
「ハッ!どういうことも何もゼウスの野郎の下に着くのはごめんってことだろうが」
と、ロキがかえした。
「何よ?《クロノス》には何も仕込まなくてもよかったていうわけ?」
「いや、彼にはこちらの陣営に加わってもらう」
「…陣営って…戦争でもする気なの?」
「ええ。それ以外にあのクソジジイから独立する手段があって?」
と今度は美の神フレイヤが言った。
「戦争といやぁあいつがいないけどちゃんと伝えてるのかよ?」
「無論だ。トールにはすでに準備に入ってもらっている。まぁ神々で殺しあうわけでもないからな」
「そーかい!手際がいいことで…」
「どうでもいいんだけど、カナタにはそろそろアレが始まる頃よ?」
「問題ない」
「あと今カナタと契約している奴はどうするのよ!」
「さぁな。全てはヘルの采配次第だ」
「あんな根暗女に任せたってわけ…?」
「あら。私が行くよりはいいでしょう?」
「ハッ!ビッチは黙ってろよ」
「…あんたはいつか殺してやるわ」
おお怖い怖いとロキがジェスチャーをすると、フレイヤの額には青筋が浮かんでいた。どうしてこの二人はこう…
「で、ヴェルダンディ。君たちノルンにはこのユグドラシルの管理を引き続き頼む。向こうの血の気の多い神に直接たたかれるかもわからんからな…」
「っ!まぁ、不本意だけど任されたわ。だけどカナタは…!」
「ヘルに任せたと言ったであろう?手を引け」
「…どうしてもなの?」
「どうしてもだ」
ヴェルダンディとオーディンの中に緊迫した空気が流れる。
「私は諦めないわ。絶対にね!」
そう言い捨てると、ヴェルダンディは扉を荒々しく閉め、退出してしまう。
「やれやれ…短気な御嬢さんだこって」
「そう?私はいいと思うけれど?」
「色狂いは黙ってろって…」
「誰が…!」
「やめんか!」
そうオーディンが一喝すると騒いでいたロキ、フレイヤがぴたっと口を閉じる。
そしてお互いにふんっ!とそっぽを向いてしまった。
「やれやれじゃな…それでは今後の計画を…」
結局、円卓の間がある館、《ヴァルハラ》から明かりが消えることは日が三度沈むまでなかったという。
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人が多く、賑わっているのは結構だがいかんせん多すぎる。
そう思いながら彼方は宿への道を急いだ。まずい別れ方をしたので機嫌が悪いであろうアイゼスに色々と詫びなければならないだろう。できるだけ早く。
と思ったのだが、そういえば盗賊どもからくすねた金があるのを思い出し(自分の値段というのが何のとも言えないが)露店でおいしそうな串焼きでも買って帰ることにした。
あんまり大きな買い物をすると何を言われるかわからないからなぁ…
そしてちょうど何の肉かもわからない串焼きを買おうとしたとき…
「ん?」
見覚えのある姿を眼の端にとらえた。
見たことのあるエメラルドがかった白髪…
「イヴさん!」
と声をかけるとこちらをパッと振り向いた。そして人波をかき分け、というよりは人の間を縫うようにしてこちらまでやってきた。やっぱすごいなぁ…
「おうカナタ。買い物か?」
「いえ、さっきヘル…さん?とかいう人と別れてアイゼスのご機嫌取り用の食べ物でも買って帰ろうかな…と」
するとイヴさんはうんうんと頷いた。
「そうだな。アイゼスみたいな嫉妬深い女はあまり機嫌を悪くさせないほうがいいぞ?それがあの《鮮血姫》ならなおさらな!」
といってハッハッハと笑い出す。俺も一応ひきつった笑みを返すが…アイゼスに見られたらなんと言われることか…
「よし!じゃあそこのマテリ鳥の焼き鳥でも買って帰れよ。できるだけ早くなー。あと夕飯は俺も宿で食うから席とっとけよ!」
マテリ鳥っていうのかこいつ…
「ああ、はい。わかりました」
「んじゃ、首尾よくやれよー」
そういうとまた人ごみの中に入っていき、どこかへと行ってしまった。
できるだけ早く、ね…
その言葉をすぐに実践すべく、まずはマテリ鳥を買い、包み紙に包んでもらう。食べたことはないがこのにおいはきっと当たりだろう。
俺は焼き鳥を抱えると、人ごみをかき分けながら宿へと歩みを進めた。
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時刻は…前の世界で言うなら三時くらいだろうか。
ようやくたどり着いた僕はアイゼスの部屋へと真っ先に向かった。
冒険者というのは不規則な生活リズムで過ごすものだ。だから自室で休んでいるものと思ったのだが…
よくよく考えれば失敗だったかもしれない。この世界に個室ですることなんてあるだろうか?いや、あまりないだろう。おれだったら即座に寝てるところだけど…
まぁダメ元ということでドアをノックしてみた。
返事はやはりない。たしか今はイヴと相部屋だっけか?それなら…いやでも食べ物だしなぁ…
どうしようもないので《ナイトストレージ》に串焼きを放り込む。このアイテムには中に入れたものを入れた時の状態で取り出せるという特徴がある。渡せるようなら渡して、渡せないようなら自分で食べればいい。
そう思い自室へ帰ると…
「遅い」
「うわっ!」
アイゼスが眉間にしわを寄せた如何にもイライラしていますという顔で待っていた。
「それに今の声はなんだ?自分が今から入ろうとする部屋の中を入る前に調べるのはダンジョンの基本中の基本だぞ?」
「はい…すいません」
半分八つ当たりなのだとは思うのだが…教わってもいないことを要求することは勘弁してほしい。何しろこっちはつい先日まで一般人だったのだ。
「…なんだ?不満がありそうな顔だな?」
「い、いえ!そんなことはない…ですよ?」
やばい。こちらの考えなんてお見通しらしい。というか、ガチで目が怖いです。勘弁してください…
「不満なのはこっちの方なのだぞ?お前の権利は仮とはいえイヴも持っていることだし、挙句の果てにはそのイヴの後に主人たる私を置いてまでついていく始末だ。なぁ、カナタ?」
「は、はい!」
そこまで言うとアイゼスはおもむろに立ち上がった。俺は恐怖のあまり冷や汗だらだらである。蛇ににらまれたカエルというか…
「そこでだ。そこでそろそろお前に私じきじきに魔法の使い方を教育してやろうと思う」
「…?でも今もアモンに教わっていますよ?夜とかに」
そう。俺は恒常的にアモンに魔法を習っている。ここ最近は夜寝る前の一時間とかだ。
「違う。使い方といっただろう」
そこでアイゼスは初めてにこりと…いや、にたぁと笑った。
「一流の器を持つ魔術師たち…彼らに立ちはだかる壁とはいったいなんだと思う?」
それはもちろん…
「はぁ…魔力の枯渇ですか…?」
いくらすごい魔法が使えたって、その力の源たる魔力が尽きてはどうしようもない。そういう考えでの発言だったのだが…
「違うな。一流の器だといっただろう。カナタはそれに加えて才能まであるのだが…まぁそれでも限界はあるだろう。そこで特訓なわけだ」
大体は理解できたのだが…
「じゃあいったいどんな特訓なんですか?というか何を鍛えるんですか?」
「ずばり、集中力だ」
「集中力…ですか」
いやいや。嫌な予感しかしないんだが?
「お前…オーガと戦っていた時に【ホーミング】を使っていただろう?あの黒い球をここでいいから出現させ続けてみろ」
…?まぁとりあえずは言われたとおりにしてみる。
「【ホーミング】」
すると黒い球が一つ、僕の目の前に現れた。
「実のところ…お前が今まであそこまでポンポン魔法を打てたのはお前の使い魔によることが多い」
「はぁ…アモンのおかげであそこまでの魔法の行使ができたと?」
俺的にはアモンは後ろで見守っていただけのように思えるんだがなぁ…
「よし。数を増やせ。そうだな…私とお前以外のスペースを埋め尽くすほどの数でもいいぞ」
…この部屋はそこまで広くない。まぁベッドが二つ入るほどの部屋といえば分るだろうか?だがそれを埋め尽くすことはさほど難しくはないことのように思えた。
【ホーミング】の球は大体こぶしぐらいの大きさである。
今度は無詠唱で一気に三つずつ、出現させていく。しかしそれを五回ほど行ったところで…
「え…」
急に視界がぐらつき始めた。
「なるほど。さすがというべきか。ここまでやらないと魔力切れしないとはな…」
魔力の球がどんどんはじけていく。どうやらコントロールはできなくなってしまったらしい。
「いいんだよカナタ。おやすみ…」
消えてゆく意識の中で、最後に見たのはなぜかガッツポーズを決めたアイゼスの姿だった…
えー…お久しぶりです。海峡流です。
更新が止まってしまっていて申し訳ありません…
まぁこれからはマイペースに話数を稼いでいくつもりです。
よければまたお付き合いをお願いします。




