十六話 魔女との対談
「妙だ!」
と帰り道にイヴが騒ぎ始めた。あの鎧を着たオーガを倒してからウンウンとうなってはいたが何か腑に落ちないところがあるようだ。
「普通の《ナイトオーガ》と言えば精々Cランク程度の強さのはずなのにあいつはBに片足を突っ込んでいた…そりゃあスキルがあれば強くはなるがあんな捨て駒としか思えないような魔物まで戦闘スキルを持っているのも変だし…」
「…つまりはどういうことなのだ」
アイゼスが痺れを切らして言うと
「わかりやすくまとめると、雑魚が微妙に強い、手こずる、《大侵攻》がチョイと長引くって感じだな。俺的にはオールオッケーなんだがなんせ対応できる人数が少なくなるのはまずい…」
なるほど。つまりは今回の《大侵攻》はちょいとやばめな可能性がある…と。
「こりゃあ確実に《七煌》が出張ってくるだろうな…あー…あいつ敵を片っ端から消していくから嫌いなんだよな…なぜかうちの《七煌》火魔法ばっかぶっ放してくるし」
まぁそういうことらしい。まぁうじゃうじゃいる敵をばっさばっさなぎ倒していくイメージでいいのかな?《大侵攻》っていうのは。やばい、ちょっとわくわくしてきた…
「質問なんですが…敵の数ってどれぐらいなんですか?」
「そうだなぁ…前回は三千ぐらいだったかな…《七煌》もSランクも全然でしゃばらなくて俺だけで三分の一片づけちゃってさ…功労者なのにギルマスに怒られたんだぜ…」
…イヴもイヴで大変らしい。
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まぁなんてことを話しながら俺たちは街に帰ってきた。イヴは
「報酬の受け取りは頼んだぜ!俺は魔術ギルドで新しい殲滅系魔法探してくるから!」
というとシュタッと走り去ってしまった。横暴すぎる…
アイゼスもさすがに頭に来たようで少しの間うつむいてプルプルしていたが
「行くぞ!」
とサッサと歩きだしてしまった。性格が合わないと大変だよなぁ…
俺?やだなぁ…この前イヴとも仮契約が済んで晴れて二人の共有財産ですよ。ええ。
なんだろう…ハーレムっちゃハーレムなのかな?これ…
冒険者ギルドは街の入り口にほど近いところにあるので、案外早く着いた。
アイゼスはまだイライラがおさまらないらしく、ずかずかと中へ入っていく。
しっかしここの人たちのアイゼスへの反応は面白い。
見惚れる、背を向ける、俺に気の毒そうな視線を向ける、という三パターンだが。
って、最後は俺への反応か…
と思いつつアイゼスの後にすごすごと付いていく。
なんかあれだよね。そう、犬のポジショニングが最近わかり始めた気がする。こっちで犬見たことないけど。
「カナタ」
と名前を呼びつつカウンターをコツコツしている。受付嬢は毎度お馴染みアリアさんだ。
わけがわからずに首をかしげると
「…証明部位を出せと言っているんだ」
とドスの利いた声で言われた。怖っ!アリアさんも笑顔がぎこちない感じだ…
命令通りにアイテムボックス…アモンが言うには《ナイトストレージ》なんて名前らしいが…から証明部位をだした。マジで便利だな、これ。
「っ!そ、それでは確認させていただきます…」
…思いっきりびっくりされたんだけど…収納魔法って割とポピュラーなんじゃなかったのか?
気になってアイゼスに後で尋ねると少なくとも普通の指輪にかけれる代物じゃない、と言われた。
だめじゃん!目立つじゃん!
まぁそれはそれとして
「はい。たしかに《ハイオーガ》一体、《オーガ》十体の討伐を確認しました。素材やその他諸々は隣の買い取りカウンターでお売りください。お疲れさまでした」
と貨幣が入った袋を差し出してきた。
それを俺が受取り、アイテムボックスへとしまう。続いて隣の買い取りカウンターで売却を済ませ、ギルドをでる。すると
「カナタ!ちょっと来てくれ!あ、アイゼスは別にいいぞ」
と、魔術ギルドへ行ったはずのイヴに腕を掴まれ、連行されていく。
「ちょ!なんなんですか!」
「いいから黙って着いて来いって!」
これはどうしようもなさそうだ。恐る恐るアイゼスの方を見るとなにやら口を動かしていた。
実は元の世界ではひきこもっていたことが一年ほどあり、その時に色々とよくわからない技能を習得していたりする。そのうちの一つが読唇術だ。まぁ俺自慢の読唇術によると…
「あとでおしおきだな」
ということらしい。どうやら腕が鈍っているようだな…見なかったことにしよう…
…まぁ念のために覚悟はしておこう…まぁそのアイゼスもすぐに人込みに紛れてしまったのだが…
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「すまんな、カナタ。どーしてもお前に会わせたい奴が魔術ギルドにいてな…というか向こうが会いたがってるんだけどよ!ったく…なにが噂の《鮮血姫》の奴隷君が見たいな、だよ…」
「はぁ…」
ということで連れてこられたのは魔術ギルドだ。傍若無人なイヴが頼みを聞くということはSランクかそれ以上…
というか俺って今何ランクなんだ?ギルドカードに書いてあるんだっけかな…
後で見ておこう。
イヴは魔術ギルドの建物に入るとずいずいと奥へはいって行った。
「一応この中にいるんだが…まぁ頑張れよ。同情はしてやる」
と、ある扉の前で立ち止まり俺にそう言った。というか…
「一つ確認なんですけど…イヴさんも一緒に入りますよね?」
「いんや、ここか表か宿で待ってるぜ」
「えー…」
ていうか宿って何なんだよ、宿って…少なくとも待つではないような…
「なんだ?どんなに嫌そうな顔をして。そんなに命令されたいのか?」
…ぐぅ…俺に選択肢はないのか…だができるだけ、というかかなりこの状況から逃げ出したいんだが…
というのもさっきから《スクルドの眼》が熱いのだ。焼けるように熱くはないが、やはり違和感を感じる程度には熱い。
ということはこれから起こることは危険、もしくはこの異世界生活の人生に関わってくることなのだろう。
「本気で命令されたいのか…そうかそうか…」
とイヴの苛立った声で我にかえる。
…今さら後には引けないよなぁ…
そしてドアノブに手をかける。
一応ノックして、
「入ります」
といって部屋の中へ踏み入れた。
するとそこには…
「よく来たな、カナタ・ツジウラ。妾の名前は…そうだな、ヘルである。お主の事は殊更に聞き及んでいるぞ。私の使い魔からな」
…黒い少女がいた。
美しい黒髪に深い夜かのような瞳。自分よりは一回り小さな体格にやけに風格の漂うローブをまとっている。
「…綺麗、ですね…」
って何口走ってんの俺!
まずいまずい。絶対変な人だと…
「ん?あっはっは!挨拶もせずに容姿をほめてきた奴は初めてであるぞ!なかなかに面白いやつじゃあないか」
「はぁ…ありがとうございます…」
よ、よかった…笑ってくれて…引かれていたらどうしようかと…
え?どうしようか、と?
まぁとりあえずは…
「【ディスペル】!」
ディスペルは相手からかけられたなんらかのバッドステータスを解呪する魔法だ。
というのもアモンから
「一目ぼれだと思ったら【チャーム】を疑え。体に力がうまく入らないなら【ポイズン】を疑うのだ。魔術戦とは同時に精神戦でもあるのだよ」
と手ほどきを受けていたし、俺自身飼い主でもない人間に尻尾を振るほど人がよくない。
さらに言えば最悪の事態を迎えるくらいならば悪手を打つ方がまし、という俺のポリシーも絡んでくるのだが…
それに俺が一目ぼれする、ということはまぁあり得ない事なのだ。
トラウマと言うか、元の世界の確執のせいで。
それを見越してかどうかは知らないが、アモンの助言は無事に役に立ったということになる。
「…ほう、ずぶの素人というわけでもないのだな…まぁ触媒を使ってないとはいえ、私の攻撃を防げたことはほめてやろう」
「はぁ…それはどうも…まぁ、こちらとしてはそんなことより理由を訊きたいですかね」
「理由、か…なぁに、この均等がとれていた世界に唐突に放り込まれたイレギュラー。ぜひとも我が味方にしたいと思うてな」
まぁ所有物の方が適切か、と訂正される。
まぁようするに俺が欲しいというわけだ。だとしたら彼女は根本的に間違っている。
俺が欲しいならアイゼスとイヴ、またはアイゼスのみを説得するべきだろう。
「…そうですか…全くの無駄だと思いますけど…」
「いいや、無駄ではないさ。妾は目がきくほうでな。お前の能力と枷ぐらいは予想できた。あとは種まきだ」
「種まき…」
「まぁ呪い…のようなものかな?お前は近々殺人衝動に見舞われるだろう」
「は?」
殺人衝動?なんでそんなものが?
「タダで力を得ようというのは無理な話だ。お前は力を得てしまった以上、代償を払わなければいけないということだな」
「…魔物じゃあダメなんですか?」
「だめだな。」
「…その衝動を抑えることは?」
「無理じゃな。妾には出来んこともないぞ?妾の物にはならぬか?」
「お断りします」
だってぼろが出だしたもん!絶対ロリババアだよコイツ!
「…まぁより強いものを殺せば衝動のスパンは短くなる。あとは性交渉でも衝動を緩和できるぞ?」
「ありがたい情報をどうも…」
というよりこいつはなんなんだ?少なくとも凡人ではないだろう。
「ふむ…まずは枷を外さなければどうにもならんようだの…勧誘はまた今度じゃ。くれぐれも妾が回収するまで壊れてくれるなよ?」
「はぁ…」
「行ってよいぞ。イヴには今度一つ殲滅魔法を教える、と伝えておいてくれ」
まぁ、そんなこんなでロリババアことヘルとの最初の出会いは終わった。
ここで彼女を殺さなかったことがある視点から見れば失敗であった。
そう、現状維持という視点からみるならば。
投稿がウルトラ遅れました。ものすごく申し訳ないです。




