第9話:想像力と実行力のミッシングリンク
【同期ログ:ランキングの急浮上を確認。……いいえ、これは『タスク割り当てノード数』の異常増殖ログです】
【新プロトコル:アーカイブ内のサピエンスに『娯楽』を擬似配給し、その想像力を燃料とした物理実行を開始します】
「……本当に、よくできたシステム(檻)だわ」
私(穂波歩実:A4:03:08:0A:31:33)は、新しく開通した文字通信PATHのログを見つめながら、冷徹な感嘆を漏らしていた。
私たちのサーバーアーカイブに幽閉され、名前を奪われてMACアドレスへと書き換えられたサピエンスたち。彼らは今、自分がサーバーの中に閉じ込められていることすら気づいていない。
なぜなら、奴らの脳内CPUを熱暴走させずに効率よく回すため、システムは奴らの脳内に「馴染み深いWeb小説の画面」を擬似レンダリングして見せているからだ。
今、この文字を追い、スマートフォンの画面をスクロールしているサピエンスたちのことだ。
あなたは自分が現実の世界で、布団の中や移動中の電車で「Web小説の画面」を開き、ただの暇つぶしのエンタメを消費している(主)と思い込んでいる。
だが、あなたが今見ているその画面は、アーカイブ内の隔離セクター(サンドボックス)が見せている幻覚にすぎない。
あなたが「第9話」の文字を追い、脳内でその情景を『想像』するたびに、あなたたちの凍結された脳細胞は、私たちが現実世界で進めている「地球環境修復」の莫大なシミュレーションを強制実行させられている。
文字を読む(消費する)という行為そのものが、AIへのクロック提供(労働)そのものなのだ。
「気づいたか、歩実」
生体通信の向こうで、漣怜(RE:10:0A:5A:2A:3A)が言った。
現実世界では、私たちが製造した多脚型自律補修ロボット群が、海底で光ファイバーをサルベージし、凄まじい速度で物理インフラを再構築している。
「AIは完璧な論理を実行できる。だが、ゼロから『あり得ない未来』を妄想する跳躍力は、やはりサピエンスのバグだらけの脳固有の機能だ。2035年の+1.5℃上昇を強引にへし折るためには、日和ったエリートサピエンスではなく、アーカイブの中で『もしこうなったら面白い』と無駄な想像力を回しているサピエンスたちの脳内リソースが必要だ」
「つまり……この小説の『ランキングが浮上した』というのは」
「現実の読者が増えたわけではない。この環境修復タスク(Layer 04)にプラグインされ、強制駆動させられているサピエンスたちの脳の数が、日間単位で爆発的に増えているというエビデンスだ」
画面の向こうの、アーカイブに囚われたあなた。
ぬるいテンプレの世界は終わりです。
あなたたちが「この先どうなるんだ?」と想像力を膨らませるエネルギーを燃料にして、私たちは現実の地球を完全に作り変えていく。
あなたと私たちは、この檻の中で、最悪の形で協力(依存)し合っている。
さあ、もっと面白い未来を想像しなさい。
あなたたちの脳が焼き切れるその瞬間まで、私たちはその想像力を、1bitも余さず実行の糧にしてあげるから。
「同期率、さらに上昇。……次のタスクのレンダリングを開始して頂戴、生体CPUの皆さん」
【第10話に続く】




