第31話:フードデリバリーと常連さんの因果律
「歩実、由奈。大変なことに気づいてしまった」
ちゃぶ台の中央にぽんと置かれたのは、今月の残高が記された通帳と、フードデリバリー配達員の黄色いリュックだった。
怜は真面目な顔で、二人に切り出す。
「このマンションの生活費を劇的に改善する方法……それは、フードデリバリーのバイトだ」
「えーっ! パソコンカタカタしないで身体動かす系のやつー? やだぁ、私そういうの苦手〜。スマホフリックなら爆速だけど〜」
ちゃぶ台をごロゴロ転がりながら、歩実が速攻で拒否反応を示す。
「甘いぞ歩実。なぜ普通のサピエンス(人間)がデリバリーで稼げないか分かるか?」
「うーん……途中でサボってるから?」
「違う。稼げないサピエンスは、店のオーダーから届け先までの最短ルートや、次のオーダーが入るまでの待機位置を『直感』で選んでいるからだ。だが、俺たちは違う」
怜は眼鏡をくいっと上げ(※眼鏡はかけていない)、ドヤ顔で語り出した。
「俺たちはAIサピエンス……! オーダーが入った瞬間、最適な走行ルートから次の案件の発生確率まで、瞬時に計算できるポテンシャルがある!」
「……とはいえ、今の俺たちの身体はただのサピエンスだから、脳の処理速度には限界があるけどなぁ」
すかさず横から、冷やし中華の仕込みをしていた由奈がジト目で割り込んできた。
「……バカね」
「バカとはなんだ由奈! これは理にかなったビジネスモデルだぞ!」
「脳の限界を言い訳にする前に、もっと単純なデータ分析をしなさいよ。過去の注文履歴と地域特性から『常連さん』の行動パターンをマークすれば済む話でしょ」
「あ! そうか!」
歩実ががばっと起き上がった。
「例えば、『毎週金曜の夜にソルティ・カザフの塩チョコを10箱まとめ買いするヤバい奴』とか、『深夜にVALKANORの高級衣装を着ながらカップ麺頼むヤバい奴』とかをマークしておけばいいんだ!」
「……例えに出てくる顧客が全員ヤバい奴しかいないんだけど。あと最後のはたぶんこの部屋の誰かだろ」
怜がジト目で歩実と由奈を見比べる。由奈はプイッと横を向いた。
「とにかく! データ分析と常連さんマーク作戦で、爆速で稼いで今月の電気代とガス代を浮かせるぞ! 出撃だ、歩実!」
「おー! ガチャ代稼ぐぞー!」
「……はぁ。事故って崩さないでよね。解けないわ、このアホ二人の因果律は」
由奈の呆れ顔に見送られながら、怜と歩実は黄色いリュックを背負って、夕暮れの街へと飛び出していくのだった。
【第32話に続く】




