第30話:麺類三つ巴の哲学(解けない数式とカップラーメン)
マンションのちゃぶ台の上には、1冊の麺類専門誌が開かれていた。
「いい? 怜くん。今日の晩ごはんは絶対に『そば』一択だよ」
歩実が拳を握りしめ、力強く主張する。
「なんで急にそばなんだよ。お前、普段は『ソルティ・カザフ』の塩チョコ食ってガチャ引いてるだけだろ」
「理由なら明確だよ! 『そば』の原料は蕎麦の実……つまり『実』からできているの! 私の名前は歩実! これは運命であり、全統合ログ(13K)が導き出した必然なんだよ!」
「名前の語呂合わせだけで主食決めようとするな! 思考が安直すぎるだろ!」
怜が頭を抱えた瞬間、横から静かな、しかし絶対的な威圧感を伴った声が響いた。
「くだらないわね、歩実」
腕を組み、冷ややかな視線を送るのは自炊派の由奈だ。マルチーズを思わせるふわふわの髪を揺らしながら、彼女はフッと鼻で笑った。
「今夜のメニューは『うどん』よ。異論は認めないわ」
「えーっ!? 由奈ちゃん、なんでうどんなのさ!」
「決まっているでしょ。……白いからよ」
「理由がもっと大雑把になったぞ!?」
怜は思わず叫んだ。由奈は自身の見た目(見た目マルチーズ髪型)と白い麺のビジュアルを謎のロジックでリンクさせているらしい。超知性73Kの思考回路は時として一般サピエンスには理解不能な領域に達する。
怜は呆れ果てて由奈にツッコミを入れた。
「百歩譲って『白いから』で選ぶとしてもだ……お前、その見た目なら『スープスパゲッティ』とか『スープパスタ』だろ! なんでうどんに着地するんだよ!」
「……パスタは黄味が買っているから却下よ」
「変なこだわり発揮するな!」
不毛すぎる主張を繰り広げる二人から、同時に鋭い視線が怜へと注がれた。
「「で、怜は何が食べたいわけ?」」
「俺か?」
二人の圧に負けじと、怜はポケットから割引クーポンを出しつつ即答した。
「俺は普通に『ラーメン』がいい。醤油か味噌のやつ」
その答えを聞いた瞬間、歩実と由奈は顔を見合わせ、同時に深いため息をついた。
「「……どうせ『カップラーメン』でしょ?」」
「なんでハモるんだよ!……否定はできないけど!」
怜の生活費(リボ払い+割引クーポン生存術)を熟知している二人の容赦ない分析が突き刺さる。ラーメン屋に行く余裕などなく、スーパーの特売カップ麺を食べる未来しか怜には残されていないのだった。
歩実はフリック爆速の指でスマホの電卓を弾き、由奈はちゃぶ台の上で腕を組み、真剣な表情で天を仰いだ。
「……はぁ。歩実の謎解釈による『そばの実』理論と、私の見た目に起因する『白いからうどん』の法則……それに怜の圧倒的貧困による『カップラーメン』の現実……」
由奈はマルチーズ風の髪をかき上げ、どこか儚げに呟いた。
「……解けないわ」
「カッコつけて言ってるけど、ただの今日の晩ごはんの献立だからな!?」
結局、その夜の食卓に並んだのは、お湯を注ぐだけで完成する安いカップラーメン(※歩実がフリック爆速で3分きっちりタイマーを測った)だった。
【第31話に続く】




