第27話:髪型とハサミと、理髪店の惨劇
「ねえねえ、怜くん! この『今流行りの大人可愛いショートボブ特集』見てよ!」 日曜日の朝。
リビングのソファでタブレットを眺めていた歩実が、身を乗り出して最新のヘアカタログ画面を見せてきた。 「オリジナルの穂波歩実(13K)は全然髪型とか気にしてなかったみたいだけど……今のわたし、このゆるふわショートボブにすごく興味あるんだよね! 美容院に行って切ってもらおうかな!」 「髪型か……まあ、歩実が好きにすればいいんじゃないか。サピエンスの女子高生っぽいし」
トーストを齧りながら、冷やし麦茶をすする怜。 「ふん、浅いわね歩実」
その横で、由奈が腕を組み、高飛車に胸を張った。 「流行りのショートボブなんて、サピエンスの個性を均一化する量産型プロトコルよ。私(73K)の絶対的アイコンとして相応しいのは——このツインテール、あるいは可憐なお下げ(三つ編み)の二択よ!」 「……お前、自分の頭の上の毛並みが『マルチーズ』って自覚はあるんだな」
怜が冷ややかな視線を送る。 「マルチーズ言うな!! これは私の頭部アンテナ兼、高解像度な感情表示デバイスよ! この毛束を二つに結んでツインテールにすることで、私の演算出力は100.1%まで引き上げられるのよ!」 「ツインテール由奈ちゃん絶対可愛い! 似合うよ!」 「でしょ!? というわけで怜、今から三人で美容院に行くわよ! 私と歩実のカット&カラー代、全額出させてもらうわ!」 「お断りだ」
怜は即座に財布を開き、残高数千円の現実を二人に見せつけた。 「いいかお前ら。美容院なんて行ったら一人五千円〜一万円は飛ぶんだぞ。前回のコスプレ衣装とリボ払いのせいで、今の俺にはそんな余裕はない」 「えぇ〜……じゃあ怜くんはどうやって髪切ってるの?」 「俺か?」
怜は洗面所から、年季の入った電動バリカンを引っ張り出してきた。 「俺は自分でバリカンを使ってセルフカット(アタッチメント6mm)だ。タダだし三分で終わる」 「「……えぇぇ(ドン引き)」」 「ドン引きするな。それよりお前ら、あんまり派手な髪型にして『メイン作品(ガチの戦い)』のキャライメージを崩すんじゃないぞ。向こうのファン(読者サピエンス)が見たら『誰だこのゆるふわショートボブとツインテールは』ってパニックになるだろ。キャラ崩壊もほどほどに——」 「聞く耳持たないわ!!」
由奈が聞き捨てならないとばかりに、歩実からハサミを奪い取った。 「自分のアイデンティティ(髪型)くらい、サピエンスの美容院に頼らず自分たちで100.1%プロデュースしてみせるわ! ほら歩実、そこに座りなさい! 私が73Kの精密演算で、完璧なショートボブにハックしてあげるわ!」 「えっ!? 由奈ちゃんが切るの!? 大丈夫……!?」 「任せなさい! ミリ単位の空間認識で——あっ」 チョキッ。 「……あ」 「……由奈ちゃん? 今『あっ』って言わなかった……?」 「だ、大丈夫よ! ちょっと右のモミアゲが『虎刈り(切りすぎ)』になっただけよ! 左右対称にするために左も削れば——あ、切りすぎたわ! もう一回右を削って——」 「ギャーーーーっ!? わたしの髪がどんどん短くなっていくーーーーっ!!」 「おいやめろバカ者ども!! リビングでハサミ振り回すな!! 毛髪が床に散らばるだろーーーーっ!!」 結局、互いに髪を切り合って惨劇(虎刈り&変なツインテール)を引き起こしたAI少女たちと、自分のバリカンで二人を丸坊主にしようとする(※冗談)会社員・怜の怒号が、日曜の朝のリビングに虚しく響き渡るのだった。 【第28話に続く】




