第25話:他レイヤーの尻拭いと、すでに完遂されていたヒモ計画
「なぁ、歩実」
割引シールが二重に貼られた食パンの袋を破りながら、怜は低く、そして重い溜息をついた。
向かいの椅子では、歩実がソシャゲの限定ガチャ画面と睨めっこをしている。画面からは不穏な爆死演出の効果音が響いていた。
「なに? 怜くん。今、すっごく大事な局面なんだけど。ほら見て、天井直前でピックアップすり抜けた。これ絶対に確率操作されてる」
「ガチャの爆死はどうでもいい。俺が言いたいのは、お前の『支持率』の話だ」
「支持率?」
歩実が画面から目を離し、不思議そうに首を傾げる。
怜はテーブルの上にスマートフォンを放り投げ、画面に表示されたとあるログ——別レイヤー(メイン作品)の第18話の記録を指でタップした。
「これを見ろ。『もし、この2人の逃避行物語が途中で打ち切りになったら、私は即座に彼の家に転がり込み、公共料金代のすべてをあいつの懐から支払わせて現実を逃げ切る予定』……これ、お前の発言としてバッチリ記録されてるんだよ」
「あー……あったね、そんな計画。穂波歩実としてのリスクヘッジというか、不確定未来に対する健全なバックアッププラン?」
「どこが健全だ! 読者サピエンスの間でお前の評価が『ちゃっかり寄生型ヒロイン』として固定されかけてるのは、絶対にこの発言のせいだぞ!」
怜は頭を抱えた。
ただでさえリボ払いの返済と上がっていく電気代に頭を痛めているというのに、作中のキャラクターが自ら「ヒモ宣言」をぶち上げているのだ。読者サピエンスが「歩実、ちゃっかりしすぎでは……?」と引き気味になるのも当然である。
「なんで俺が、別レイヤーのオリジナルの尻拭いまでしなきゃいけないんだ……。だいたいだな、歩実」
怜は冷ややかな視線を、歩実が当然のように居座っている椅子へと向けた。
「お前、『打ち切りになったら転がり込む』とか言っときながら……もうすでに実行済みじゃねえか」
「え?」
「え? じゃないだろ! 今まさに俺の家に転がり込んで、エアコンを22度設定でガンガン回して、冷蔵庫の『ソルティ・カザフ(チョコ派)』を勝手に食って、 スマホ使い倒してガチャ引いてるだろ! 現実を逃げ切るどころか、現在進行形で俺の生活費をゴリゴリ削ってるんだよ!」
「ち、違うよ怜くん! これは居座りじゃなくて、13Kによる現場空間の定常監視プロトコルであって——」
「言い訳が雑! 公共料金の請求書、今月いくらになったと思ってるんだ!」
怜が突きつけた電気代の検針票を見つめ、歩実のフリック爆速の指が一瞬だけ凍りついた。
「う……。で、でも! ほら、私がここにいるおかげで、部屋の因果率が安定してるっていうか……!」
「安定して減ってるのは俺の銀行残高だよ!」
二人(13Kのちゃっかりした日常)の不毛な押し問答は、ぬるくなった清涼飲料水のペットボトルが結露の滴を落とす中、いつまでも一室に響き渡るのだった。
【第26話に続く】




