第24話:HAYNSRの曲と、ヤクート企業のモール
「ねえねえ怜くん! 今度の休み、ヤクート系の巨大ショッピングモールに行こうよ!」
放課後。リビングで『ソルティ・カザフ』の塩チョコを口に放り込みながら、歩実が目を輝かせて提案してきた。
「ヤクートのモール? なんでまた急に」
「だって! メイン作品の応援も兼ねてヤクートの企業リサーチができるし、何より——わたしの大好きなバーチャルアーティスト『HAYNSR』の最新アルバムが発売されるんだよ!」
歩実がスマホの画面を突き出してくる。画面には、洗練されたサイバーパンク風のジャケット写真。
「知ってる? 『HAYNSR』の最初の『HA』って、『穂波歩実(Honami Ayumi)』の頭文字なんだよ! 実質わたしの冠ユニットみたいなものなんだから!」
「へえ、そうなのか。お前の名前が入ってるとは奇遇だな」
怜が感心したように頷こうとした、その時——
「解せないわ!」
冷やし麦茶を飲んでいた由奈が、フンと鼻を鳴らして割り込んできた。頭の上の毛並みを揺らしながら、冷酷な真実を言い放つ。
「バカ歩実、変な勘違い(自惚れ)をしないでちょうだい。『HAYNSR』のユニット名は、開発チームが主要メンバーのイニシャルを適当に組み合わせてシャッフルした結果、『一番響きが良くて検索性の高かった文字列』が採用されただけよ」
「えっ……!? わたしの『HA』を狙って作られたわけじゃないの……!?」
ショックで固まる歩実。
「当たり前でしょ。たまたまあなたのイニシャルが先頭に来ただけの確率論(偶然)よ。私(73K)の絶対的情報サルベージに狂いはないわ」
「うう……ショック……でもアルバムは欲しいもん! モール行こうよ〜!」
「……まあ、いいだろう」
怜は上着を羽織りながら立ち上がった。
「モールに行けば、ヤクートの最上流アパレルブランド『VALKANOR』の直営店や、巨大企業『YARENDEZ』の最新プロダクトも直接リサーチできるからな。メイン作品(ガチの戦い)の背景データを拾うには好都合だ」
「やったー! じゃあ決まりね! HAYNSRのCD買って、YARENDEZのお菓子もいっぱい買うぞ〜!」
「ちょっと待ちなさい怜! YARENDEZのモールの駐車場代と、HAYNSRの初回限定盤CDの代金は誰が払うのよ! またカードの『戦略的リボ払い』を発動させる気!?」
「今回はHAYNSRのCD代くらい歩実のバイト代から出させる! 俺のカードは守る!」
「ええっ!? わたしのバイト代から出すの〜!?」
こうして、ユニット名の由来にショックを受けつつもノリノリな歩実と、企業の経済支配を警戒する由奈、そして自分の財布死守に全力を注ぐ会社員・怜の、賑やかなモールリサーチ(お買い物)がスタートするのだった。
【第25話に続く】




