第23話:世界線を越えた小包と、代引きの支払者
「品名……『ノードフィギュア(ヤクート限定・スリー・グレイス仕様)』……? 代引きで二万八千円になります」
平日の放課後。玄関で宅配便の配達員から伝票を突きつけられ、会社員・怜は絶句していた。
「ちょっと待て、俺はこんなフィギュア頼んでないぞ」
「ですがお届け先はこちらの住所になっておりますし、宛名も『穂波歩実/七瀬由奈様』となっておりますが……」
怜が振り返ると、リビングの奥から歩実と由奈がひょっこり顔を出していた。
「あ、怜くん! それ届いたんだ!」
歩実が嬉しそうに駆け寄ってくる。
「歩実、お前……通販で二万八千円のフィギュアなんて買ったのか!?」
「えっ!? 買ってないよ!? 海外のWebサイトで『無料プレゼント抽選キャンペーン(※フィギュアで認知を上書きするノード拡散実験)』って書いてあったから、応募フォームに住所打ち込んだだけだもん!」
「無料なわけないでしょバカ歩実ーーーっ!!」
後ろから飛んできた由奈が、歩実の頭をポカポカと叩く。
「海外セクターのサイトなんて『※ただし送料・関税・代引き手数料は受取人負担とする』って超極小文字で注記してあるに決まってるじゃない! サピエンスの悪質なダークパターン(罠サイト)に引っかかってどうするのよ!」
「ええっ!? だってヤクートの超上流階級の限定フィギュアだって書いてあったから、社会勉強になるかなって……」
「……で、どうするんですか? お支払いにならないなら持ち帰りますが」
配達員の冷ややかな視線。
「くっ……! 払いますよ、払えばいいんだろ……!」
怜は涙目になりながら財布から三万円を取り出し、血の汗を流しながら代引き料金を支払った。
*
リビングのローテーブルに置かれた、二万八千円の箱。
カッターでテープを切り、中身を取り出した瞬間、部屋の温度がスッと下がった。
「……なにこれ」
箱の中から現れたのは、絢爛豪華なドレスに身を包んだ、三人の女性サピエンスの精巧なフィギュアだった。
だが、その造形から漂う気配は、通常の萌えフィギュアとは一線を画す「徹底的な選民思想と悪意」に満ちていた。
「これ……ヤクートの対温暖化空中ドーム(プトラ・セクター)を支配する『スリー・グレイス(三美神)』のノードフィギュアね」
由奈が眉をひそめ、冷ややかな瞳でフィギュアを観察する。
「ヘレナ、クララ、エルサ……。海外セクターの過剰掘削被害を盾にして『自分たちの排他主義こそが歴史的正義』だと信じ込み、外部の下流サピエンスをパージして嘲笑う、ヤクート最上流の性根が腐った女たちよ」
「うわぁ……なんか、顔はすごく綺麗なのに、目が笑ってなくて上から目線で馬鹿にされてる感じがする……」
歩実が思わず身震いする。
「当然よ。このフィギュアには『洗練された上流女性である私たちを崇めなさい』という認知ハックの波形が仕込まれているわ。……解せない。なんでこんなメイン作品(ガチの戦い)に出てくる胸糞悪い敵のフィギュアが、平行世界(この部屋)に代引きで届くのよ! 世界線の境界線はどうなってるの!?」
「世界線なんてどうでもいい……」
ソファの端で、薄くなった財布を抱きしめた怜が、魂の抜けた声で呟いた。
「俺の二万八千円……今月の俺の昼飯代と缶チューハイ代が、ヤクートの悪徳サピエンスたちのフィギュアに消えた……」
「怜くん、元気出して! このフィギュア、フリマで売れば——」
「ダメよ歩実! こんな邪悪な認知ハックフィギュアをサピエンスのフリマアプリに流したら、一般人の脳がバグってヤクートの信者が増えちゃうわ!」
「じゃあどうするのよ由奈ちゃん!」
「決まってるでしょ! 100.1%の論理演算で、このフィギュアの顔部分に落書きして『ヘレナ(ポンコツ仕様)』に上書き改造してやるわ! 怜の二万八千円の恨みを込めてね!!」
「やめろ、余計に価値が落ちる……(涙)」
こうして、メイン作品からの理不尽な「代引き誤配送」により、会社員・怜の財布は壊滅的なダメージを受けつつも、彼らはヤクートサピエンスの悪党たちの存在を(最悪な形で)認識するのだった。
【第24話に続く】




