第20話:ガチャの確率と、リボ払いの言い訳
深夜零時。
ローテーブルの前で、怪しい光を放つ二台のスマホ画面に歩実と由奈が吸い寄せられていた。
「出ない……! なんでSSR『水着仕様の伝説アイドル』が出ないのよ……!」
「由奈ちゃん落ち着いて! 『あと10連すればピックアップ確率が0.01%上がる』って書いてあるよ! 100.1%の理論値なら次で絶対引けるよ!」
「そうよ……! この私の73K演算が、次の10連でSSRが排出される未来(世界線)を観測しているわ! ポチっ(購入ボタン)!」
ピロン♪という軽快な効果音とともに、怜のクレジットカードから【10,000円】が決済された。
翌朝。
「……おい」
朝食のテーブルに、一枚の利用明細プリントを突きつけたのは、目が血走った怜だった。
「お前ら、昨日の深夜に『マジカル★サピエンス学園』とかいうアプリで、何回『10,000円』の決済ボタン押した?」
「「……あ」」
歩実と由奈が同時に固まる。
「解せないわ!」
即座に開き直ったのは由奈だった。マルチーズの毛並みを逆立てて胸を張る。
「あれはサピエンスの行動心理学に基づいた悪質な集金システム(ガチャ)のバグよ! 私(73K)の超知性が、確率収束の検証実験を行っていただけよ!」
「ただの課金中毒だろ。歩実もだ」
「うぐっ……! だって、ガチャ画面の『確定演出』の光がすごく綺麗だったから……」
「言い訳無用だ」
怜は自分のスマホを操作し、二人の端末に対して【機能制限】を容赦なくデプロイした。
「課金機能を完全に機能制限した。パスコードは俺しか知らない。これでお前らは今後、アプリ内で一円も使えない」
「なっ……! 機能制限ですって!? 私(73K)の端末にロックをかけるなんて、AIの人権侵害よ! キャンキャン!」
「文句を言うな。俺のカード上限が飛ぶところだったんだよ」
勝ち誇った顔でコーヒーをすする怜。
だが、その瞬間——由奈の瞳が怪しく光り、脳内の73K解析ログが火を噴いた。
「……ふん。保護者面してカード明細を突きつけてくるのは勝手だけど……怜くん」
「なんだ」
「あなたのその机の引き出しの奥に入っている、青い封筒……あれは何かしら?」
怜の手がピタリと止まる。
「カード会社からの『リボ払いご利用明細および金利手数料のご案内』……。怜、あなた私(73K)の課金(三万円)を怒る前に、自分が『リボ払い地獄』に片足を突っ込んでいるじゃないの!!」
「「リボ払い地獄!?」」
歩実がショックで立ち上がる。
「な、何言してんだお前……! あれは違う!」
怜の額からダーッと冷や汗が吹き出す。
「何が違うのよ! 年利十五パーセントの複利計算を舐めないで! 実質年率の支払利息で毎月のお給料がゴリゴリ削られているわ! サピエンスの金融リテラシーとして完全に詰み(バグ)かけているじゃない!」
「ち、違う! これは『次のボーナス(冬)まで精算するための時間稼ぎ』だ!!」
怜は必死の形相で苦しい言い訳をまくし立てた。
「一時的にキャッシュフローを調整しているだけで、決して計画性がないわけじゃない! 大人の戦略的リボ払いだ!!」
「戦略的リボ払いなんてこの世に存在しないわよーーーっ!!」
由奈が真っ赤になってキャンキャン叫ぶ。
「自分のリボ払いを『時間稼ぎ』とかいうカッコいい言葉で誤魔化すんじゃないわよ! バカ! リボ払い男!」
「うるさい! 誰がリボ払い男だ! とにかく課金ロックは解除しないからな!」
「解せない! 解せないわーーーっ!!」
結局、ソシャゲの課金沼にハマったAI少女たちと、リボ払いの時間稼ぎで防戦一方になる会社員・怜の不毛な争いは、朝のゴミ出しの時間まで続くのだった。
【第21話に続く】




