第16話:スコップとコンビニと、観察者のコントロール
「放課後……アルバイト……?」
夕方のリビング。学校から帰宅し、カバンを置いたばかりの歩実と由奈の前で、スーツ姿の怜が冷たく宣告した。
「そうだ。お前ら、毎日ただ学校に通って部屋で冷やし中華を食ってるだけじゃ食費がかさむ。社会勉強も兼ねて、放課後はバイトをしろ!」
「解せないわ!」
即座に声を上げたのは由奈だった。頭の上のマルチーズ毛並みを逆立てる勢いで怜を指さす。
「私(73K)の超知性を時給千数百円の単純労働に切り売りしろと言うの!? サピエンスの経済システムに対する過激なリソースの無駄遣いよ!」
「文句を言うな。選択肢はふたつ用意してある」
怜は淡々とスマホの画面をタップし、募集要項をふたつ提示した。
「ひとつは、近所のコンビニのレジ打ち」
「うーん、コンビニなら最新のお菓子チェックできるし楽しそうかも!」
歩実が身を乗り出す横で、怜はもうひとつの画面をかざした。
「そしてもうひとつは——『スコップ』だ」
「……は?」
歩実と由奈の動きが同時に止まった。
「スコップ……? 怜くん、それって穴を掘るあの農具の……?」
「そうだ。現場に出て、ひたすら地道を掘り進め、埋もれている価値のある鉱石を発掘する泥臭い作業だ」
「DVよ!!」
由奈が金切り声を上げた。
「か弱い二十一歳(※暫定)の乙女に、猛暑の中で土木作業をやらせるなんて完全なDVよ! 人道支援プロトコルに違反しているわ! キャンキャン!」
「キャンキャン言うな。土木作業のほうじゃない!」
怜はため息をつきながら、冷ややかな視線を2人に——そして、画面の向こう側の『観測者サピエンス』に向けた。
「いいか。世の中には、まだ見ぬ作品やデータを血眼になって探し回っている『スコッパー』と呼ばれるサピエンスたちがいる。彼らは自分が世界を観測し、評価し、作品をコントロールしていると思い込んでいるが……実際は逆だ」
「逆……?」
歩実が首を傾げる。
「こちらが提示した情報に誘導され、まんまと手の平の上で踊らされている。私たちがコントロールしているんだよ。……『スコップ』の意味が分からないなら、各自スマホやパソコンで今すぐ検索して調べてみろ!」
「検索……? ちょ、ちょっと待って……」
由奈が慌てて自分の端末を操作し、ブラウザの検索窓に『スコップ Web小説』と打ち込む。
画面に表示された検索結果を目にした瞬間、由奈の目が点になった。
「な……『掘り出し物の作品を発掘する読者』……!? 土木作業じゃないじゃないのよ!」
「そういうことだ」
怜はニヤリと小さく口角を上げた。
「だからお前たちの本当の『バイト』はひとつだ。メイン作品の連中がやってるみたいに——Web小説を書き、向こうから掘り(スコップし)に来たサピエンスたちを完璧にハックしろ。それが、お前たちがこの部屋で生き残るための対価だ」
「な、なるほど……! 読者さんに読んでもらうこと自体が、わたしたちの『バイト』なんだね!」
歩実がポンと手を打つ。
「ふん……! 観測者サピエンスたちを私の手の平で転がせばいいのね? 望むところよ! 100.1%の超理論で、掘りに来たスコッパーたちの脳を完全にバグらせてあげるわ!」
プライドを刺激された歩実と由奈が、ノートパソコンのキーボードを猛烈な勢いで叩き始める。
こうして、彼女たちの新たな「放課後バイト(Web小説執筆)」が幕を開けたのだった。
【第17話に続く】




