表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】ロールプレイ・ファンタジア 〜二人の関係は、ただの“システム”なのか?〜  作者: 真星 紗夜(毎日投稿)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/23

04.自分のロールはなんだろう


 ユイは今日も《ロールプレイ・ファンタジア》をプレイしていた。


 昨日働いたパン屋の前で立ち止まりながら、ユイは小さく息を吐く。


「……どうしようかな」


 この世界では、“役”を選ぶ。


 昨日はパン屋の手伝い。

 その前は、ただの通行人。


 まだ、自分の役は決まっていなかった。


 だからこそ――


「今日は、別の仕事してみようかな……」


 独り言を呟くと、背後から大きな人影が現れた。


「……今日はパン屋じゃないのか?」


 声の主はレオンだった。


「あ、レオン!」


「お前、同じことを繰り返すタイプかと思ってたぜ」


「それ、どういう意味?」


 少しだけ頬を膨らませる。


「いや、悪い意味じゃねぇよ。

 安定してるっていうか……」


「ふぅん……」


 ちょっと返答に困ったけど、前よりずっと自然体でいられた。


 沈黙が怖くない。

 言葉って、“正解”を選び過ぎなくても、いい気がする。


(……あれ)


 ふと、思う。


 “正しく話そう”って、昨日までは考えてたっけ。

 だけど、今日は少しだけ、それが薄れている。


「で、何やるんだよ。仕事」


「えっと……」


 視線を巡らせると、通りの先に小さな掲示板が見えた。

 依頼書がいくつも貼られているみたいだ。


「……あれ、やってみたいかも」


「依頼か」


 レオンが歩き出す。


「まあ、無難だな」


 二人で掲示板の前に立って、紙を一枚一枚見ていく。


 荷物運び。素材集め。宮殿の警備員。


「……あ」


 その中の一枚に目が止まる。


 花屋の配達。


「これ、やってみたいかも」


「花屋?」


「うん。なんか、落ち着きそう」


「……まあ、お前っぽいかもな」


「どういう意味?

 さっきからレオン、ちょっとイジワルだよ?」


「……別に、そのまんまの意味だよ」


 少しだけ、笑った気がした。


 ◇


 花屋は、街の端にあった。

 小さな店で、色とりどりの花が並んでいる。


「いらっしゃいませヨ〜」


 チャイナドレスを着た店主の女性が微笑む。

 彼女はNPCのようだ。


 ユイは少しだけ姿勢を正す。


「えっと……配達の手伝いをしたくて」


「まあ、助かるネ!」


 すぐに話が通る。

 これも、この世界の“優しさ”なのかもしれない。


「じゃあ、この花束を届けてきてネ〜?」


「は、はい!」


 張り切った返事をして、花を受け取る。

 ほんのりと香る花の匂い。


(……すごい)


 現実と変わらない。

 いや、少しだけ綺麗に整えられた現実。


「レオンも、一緒に来る?」


「……まあ、暇だしな」


 本当にそれだけの理由なのかは、もう聞かない。


 ◇


 配達は、思ったよりも簡単だった。


 指定された家に行き、花を渡す。

 それだけ。


 でも――


「ありがとうございます!」


 受け取ったプレイヤーが、笑顔で感謝してくれる。

 それだけで、胸が温かくなる。


「……花屋、どうだ?」


 帰り道、レオンが聞く。


「うん……なんか、いいかも」


「楽しいか?」


「……うん」


 少し考えてから、頷く。


「でもね」


「……ん?」


「僕、現実だと……バイト、全然続かないんだよね」


「……」


「すぐ怖くなっちゃって。

 ちゃんとできなかったらどうしようって」


 足元を見る。


「迷惑かけるのが嫌で……結局、辞めちゃう」


 少しだけ、空気が静かになる。


「……別にいいだろ」


 レオンが言う。


「え?」


「……別に、合わねぇもん無理して続ける必要ねぇだろ。

 ……俺も、生活のためだけに、合わねぇ仕事ずっと続けちまってるしな。

 続けてるから正しいとか、偉いってわけでもねぇよ」


 視線を前に向けたまま。


「この世界で、色々と試してみりゃいい」


「……」


 ユイは一瞬、言葉を失う。

 レオンの何気ない言葉が心に響いた。


 その時だった。


【対人補正:最適応答誘導】


 視界の端に、一瞬だけ表示が浮かぶ。


(……また)


 ユイは、ほんの少しだけ眉を寄せる。


 今のレオンの言葉。

 すごく、嬉しかった。


 でも――


(……これも、“そうなるように”選ばれてるの?)


 一瞬だけ、不安がよぎる。

 けれど――


「……ありがとう、レオン」


 それでも、言う。

 今の気持ちは、本物だと思ったから。


「……別に」


 レオンはそっけなく返す。

 でも、その声は少しだけ柔らかかった。


 ◇


 気づけば、空は夕焼けに染まっていた。


 花屋の仕事も終わり、二人は中央広場に戻ってきていた。


「今日も……楽しかったね」


 ユイが言う。

 自然に出た言葉だった。


「……ああ」


 レオンも短く頷く。


 少しだけ間が空く。

 でも、それはもう“気まずい沈黙”じゃない。


「レオン。また明日も……」


 言いかけて、止まる。

 言っていいのか、少しだけ迷っている。


 でも――


「……また明日も、何か一緒にやる?」


 ちゃんと、自分で選んで言う。


「……ああ、いい暇つぶしだ」


 レオンがそっけなく答える。

 その反応が、逆に安心する。


「じゃあ――」


 ユイはメニューを開く。


「また明日ね」


 いつも通り、ログアウトボタンに指を近づける。


 タップ。


 ……しかし、反応がない。


「……あれ?」


 もう一度押す。


 しかし、何も起きない。

 ウィンドウが、閉じない。


「……え?」


 もう一度。

 今度は、少し強く。


 それでも、何も起きない。


 代わりに、画面の端に小さな文字が浮かぶ。


【エラー:処理に失敗しました】


「……え」


 もう一度押す。

 何も起きない。


「……なんで」


 指先が、冷たくなる。

 

 ログアウトできない――それはただの一時的なエラーなのかもしれない。

 しかし、“一生ここから出られない”という感覚だけが、先に来た。


 息がうまく吸えない。

 指先が、少し震える。


「……ん? どうした」


 レオンが気づく。


「ログアウト……できないみたい」


「……は?」


 レオンも自分のメニューを開き、同じように操作する。

 そして、止まる。


「……マジかよ」


 周囲を見る。


 ざわつきは……ない。


 他のプレイヤーは、誰も気にしていない。


 いつも通り、歩いている。

 いつも通り、笑っている。

 いつも通り、働いている。


 同じような声、同じような調子で。

 まるで、“正しい振る舞い”をなぞるように。


「……みんな、気づいてないのかな」


 ユイが呟く。

 異常なのは、明らかだ。


「……そんなわけねぇだろ?」


 そして、街行くプレイヤーの頭上には――


【ロールプレイ適用中】


 その文字が、浮かんでいる。

 

「……っ」


 息が詰まる。


「……ねえ、レオン。

 なんか……みんな変じゃない?」


「……ああ」


 短い肯定。


「でも、俺たちだけは異常に気づいてるよな」


「……うん」


 その理由は、わからない。

 でも、ひとつだけ仮説が浮かぶ。


(……僕たち、まだ“何者でもない”?)


 パン屋でも、花屋でもない。

 どの役にも、まだ“染まりきっていない”。


「……ねえ、レオン」


「なんだ」


「これ……放っておいていいのかな」


「……よくはねぇだろうな」


 そして、少しだけ間を置いて。


「でも、“自由”に動けるのは……たぶん、初心者の俺たちくらいだ」


「……」


 ユイは、その言葉を噛みしめる。


 怖い。


 でも――


「……じゃあ」


 小さく、息を吸う。


「……怖いけど、レオンといれば……大丈夫な気がする」


「……は?」


「だから、一緒に調べない? この現象」


「……ああ、それしかなさそうだな」


 短く、力強い返答。

 その瞬間。また、あの文字が浮かぶ。


【対人補正:関係深化】


(……やっぱり今の言葉も、そう言うように“誘導された”のかな。

 でも、僕はただ、この関係をずっと――)


 この時、レオンも同じ文字を見ていた。


(……ユイの提案、俺を焚きつけるために“誘導された”のか……?

 いや、そんな事どうだっていい。

 俺はただ、コイツと一緒に――)


 この世界は、ただのゲームじゃない。

 ここで交わされる言葉は、本当に“自分のもの”なのか。

 答えの出ない問いだけを残して、夜は静かに深まっていく。

「面白かった!」「続きが気になる!」と思ったら、  下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から、作品への応援をお願いいたします!(つまらなかった星一つで大丈夫です。)  


どんどん投稿しますので、ブックマークも是非ご利用ください!  


※作者は特級の声優ヲタです。キャラクターの脳内再生CVなど、お気軽に自由なコメント待ってます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ