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【完結】ロールプレイ・ファンタジア 〜二人の関係は、ただの“システム”なのか?〜  作者: 真星 紗夜(毎日投稿)


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21/23

21.境界線の向こう側


 朝の日差しで目が覚めた。


(……今日、僕たちはやるんだ)


【ロール進行度:51%】


 数値はすっかり下がっているが、胸の奥は不思議なくらい静かだった。

 怖くないわけじゃない。

 でも、それ以上に迷いがなかった。


 ユイは体を起こす。


 隣を見ると、いつも通りレオンは起きていた。

 壁に背を預け、腕を組んでいる。


「……寝れたか」


「うん。たぶん」


「たぶん、かよ」


 小さく笑う。

 その声で、少しだけ緊張がほどけた。


「レオンは?」


「似たようなもんだ」


 短く答える。


 数秒の沈黙。

 でも、やっぱり嫌な沈黙じゃない。

 レオンも同じく思っている。


「……じゃ、行くか」


「うん。行こう」


 ◇


 通学路。


 いつも通りの人の流れ。

 誰もが“決められた場所”へ向かっている。


 ユイは、その中でほんの少しだけ歩幅をずらしてみる。

 隣を見ると、レオンも同じようにずらしていた。


「……合わせてくれてるの?」


「……そういうんじゃねぇよ」


「そっか」


 ユイは笑う。


 ほんの少しだけ、二人の肩が触れる。

 それだけで、昨日の夜が思い出される。


(……手、繋いじゃったな)


 意識した瞬間、少しだけ距離がぎこちなくなる。

 レオンも、わずかに視線を逸らしている。


(……あれ、なんかムズムズする)


 昨日は自然だったのに。

 今は、妙に意識してしまう。


 いつもの沈黙。


 だが、その空気に耐えきれなくなって、ユイが口を開く。


「……あのさ」


「なんだ」


「今日はさ、その……」


 言葉に詰まる。

 何を言いたいのか、自分でもよく分からない。

 システムも、決めてはくれない。

 すると――


「手、繋ぐか?」


 レオンがぶっきらぼうに言った。


「……えっ!?」


「昨日やっただろ」


「いや、そうだけど……!」


 心臓がキュッとなる。


「嫌ならいい」


「い、嫌じゃないけど……!」


 レオンは少しだけ息を吐いて――


「じゃあ、ほら」


 手を差し出す。


 ユイは少しだけためらってから、優しくその手を取った。


「……っ」


 指先が触れた瞬間、また少しだけ空気が変わる。


「……なんか、緊張するね」


「昨日もやっただろ」


「昨日と今日じゃ、違うよ……」


「何がだよ」


「……分かんないけど」


 でも、手は離さない。

 むしろ、少しだけ強く握る。

 レオンも、何も言わずに握り返す。


(二人なら怖くない……!)


 それだけで、そう思えた。


 ◇


 アルカディア学園。

 校門をくぐる直前で、ユイは足を止めた。


「いよいよだね……!」


「……ああ」


 いつもと同じ景色。

 でも、意味が違う。


「分かってるだろうけど、今日は教室には行かねぇぞ」


「うん。僕たちの意思でね」


 二人はいつもと違う職員用玄関へ向かった。


 ◇


 校舎内に入ると、廊下は静かだった。


(……人が、いない)


 本来なら、教師がいて当然の時間だ。


 なのに――


「露骨すぎるな」


 レオンが小さく呟く。


「うん……」


「歓迎されているのか、それとも罠か」


「どっちだろ」


「まぁ、両方だろうな」


 即答だった。


 少しだけ怖くなる。

 ユイは無意識にレオンの手を強く握った。


「……怖いか?」


「大丈夫……!」


 即答だった。

 レオンは一瞬だけ目を丸くする。


「……そうかよ」


 小さく笑った。


「じゃ、あの階段から行こう」


 二人は階段を上がる。


 学園長室は最上階。

 今にして思うと、学園内の地図は不思議な構造をしていた。

 学園長室の真下には、何も書かれていないのだ。


 その時、物音がした。


「……っ」


 二人同時に止まる。


 コツ……コツ……コツ……。


 これは……足音。

 誰かが巡回しているようだ。

 

「……どうする?」


 ユイが小声で聞く。


「隠れるしかねぇな」


「どこに?」


「……こっちだ」


 レオンが腕を引き、近くの掃除用具入れにユイを押し込める。

 そして、ドアを静かに閉めた。


 お互いの心臓の音が伝わる距離だ。


 コツ……コツ……コツ……。


 足音が、近づいてくる。

 ユイは、息を止めていた。


「……動くな」


 耳元で低い声。


 コツ……。


 目の前で足音が止まる。


 ユイの心臓は限界寸前だ。


(……見つかる)


 無意識に、レオンの服を掴む。

 レオンは何も言わない。

 ただ、ユイの肩に手を置いて、静かに引き寄せた。


 ぴたりと体が重なる。


「……っ」


 息がかかる距離。

 でも、声は出せない。


 数秒。

 でも、永遠みたいに長い時間。


 コツ……コツ……コツ……。


 やがて、足音が離れていった。


「……はぁ……」


 ユイはようやく息を吐く。


 でも、すぐには動けない。

 距離が近すぎる。

 そして、視線が合う。


「……お前、顔赤いぞ」


「レオンもだけど……?」


「……うるせぇ」


 少しだけ照れたように顔を逸らす。

 その反応が、妙に可愛くて……。

 ユイは小さく笑った。


 ◇


 再び廊下へ。


 今度は、より慎重に進む。

 角を曲がるたびに、互いに視線を合わせる。


 言葉はいらない。

 タイミングだけで動ける。


(……合ってる)


 昨日よりも、ずっと自然に。

 そしてついに、学園長室の前に辿り着く。


「……ここだな」


「うん」


 ドアの前で、足を止める。

 手は、まだ繋いだままだ。


「……手、離すか?」


「……ううん、このままでいい」


「……そうか」


 レオンは、ドアノブに手をかける。


「開けるぞ」


「うん」


 その瞬間、ユイはほんの少しだけ力を込めた。

 レオンも、握り返す。

 合図みたいに。


 重い扉がゆっくりと開く。


 

 中は静かだった。

 整いすぎた空間、生活感がない。


(……誰も“使ってない”みたい)


「床、調べるぞ」


「うん」


 二人で調べる。

 


 やがて――


「……ここ……じゃねぇか?」


 レオンが足元を軽く叩く。

 音が違う。


 床板の一部がわずかに浮いていた。

 レオンはその隙間に指をかける。


「開けるぞ」


「……うん」


 持ち上げると、そこには暗い穴があった。

 梯子が、下へと続いている。


 空気が、違う。


(……ここから先は)


 “裏世界”。


 二人は息を吸う。


「行くぞ、ユイ」


「うん……」


 ◇


 レオンが先に梯子を降りる。

 一歩ごとに、音が響く。

 少しずつ光が遠ざかる。


 

 やがて、床に足がついた。

 ユイも続く。


 そこは、これまでの世界とは明らかに違っていた。


 無機質な白い空間。

 壁も、天井も、境界が曖昧で、どこまでも続いているように見える。

 空中には、無数のログが浮かんでいた。

 数値、関係図、波形。


「……なんだよ、これ」


 レオンが呟く。

 ユイはゆっくりとそれに近づく。

 

 その瞬間、空間が歪んだ。


『異常を検知』


 いつものシステムと同じ声がする。

 どこからでもない。

 だが、確かに“ここにいる”。


『想定外の逸脱を確認した。

 ……そうか、ここまでくる者が現れたのだな』


「……来るぞ」


 レオンが低く言う。


 そして、周囲に光の粒が現れる。

 その粒は収束し、“人型の存在”となる。


 だが、表情は読めない。

 顔はのっぺらぼうだ。


『君たちは、“選ぶことを選んだ”のだな』


 その声は、責めるでもなく、怒るでもなく。

 ただ、確認するようだった。


 レオンが一歩前に出る。


「ユイ、下がってろ」


「でも……」


「いいから!」


 強く言われる。


 “人型の存在”が、手を掲げる。


 白い光――インク魔法とは違う。

 純粋な“削除”のエネルギーが放たれた。


「……っ!」


 レオンは避ける。

 さっきまで立っていた床が抉れている。


「なんだよこれ……」


 明らかに異質な攻撃を見て、ユイは後ろに下がる。

 だが――


(……逃げてるだけじゃダメだ)


 昨日、決めた。


(……選ぶ)


 ユイは、前に出る。


「おい、ユイ!」


「僕にも、やらせて!」


 ユイはインク魔法を展開し……、撃つ。

 撃つ、撃つ、撃つ。


 しかし――


「……ちょっと待って、効いてない!?」


 当然、インク魔法ではダメージを与えられなかった。


「くそっ、無駄ってことかよ!

 ユイ! ダメージのある魔法は撃てないのかよ!」


「ダメ……。 《学生》のロールじゃ制限があるみたい」


 “人型の存在”が、ユイを見る。


『こんなにも楽で、誰もが幸せになる世界を創造したんだ。

 なのに、君たちは“自由”を選ぶのか』

 

「ユイ、危ねぇ!」


 “人型の存在”が放った光が、割り込んだレオンの左肩に当たった。

 被弾箇所が、ノイズのように歪む。


「……っ、チッ」


「レオン!」


 肩を抑え、その場にうずくまるレオン。

 明らかに酷いダメージを受けている。


 その姿に、ユイの胸が締め付けられる。


(……どうする)


 その時――


【ロール進行度:49%

 ロール《学生》を解除します】


 ユイの視界に、ログが映る。


(……はは。

 こっちの世界でも、学校辞めちゃった、僕)


 ユイの右手に、先ほどのインク魔法とは異質のエネルギーが集まる。


「……ユイ、お前」


「うん。これで終わらせる。

 どうなってもいい。それでも、僕は選ぶ」


 ユイは足に力を込める。

 “人型の存在”へ向かって、最初で最後の跳躍を――


 ――しかし、足を動かすことができなかった。

 そして、視界にログが浮かび上がる。


【対人補正:ON

 他者への攻撃を検出】


(……これのせいだ……!)


『この世界は、全てを守るために創造したのだ』


 “人型の存在”が言った。


『壊れない関係、傷つかない心、最適化された幸福。

 それは――間違っているか?』


「……っ」


 ユイは、答えられない。


 だが――


「……“正しさ”の追求が正しいわけじゃねぇだろ……」


 レオンの血を吐くような声。

 それでも、前を向いている。


 ユイは息を吸い、視界のログへ手を伸ばした。


「これさえ……消せば……!」


 指が、文字に触れる。

 だが――


「痛っ……!」


 指先に電撃が走る。


(……それでも……僕が選ぶ……!)


 全身に力を込める。

 そして――


【対人補正:OFF】


 ログを書き換えることに成功した。

 その瞬間、空気が変わった。


 “人型の存在”の動きが、わずかに鈍る。

 そして、ユイはもう一度エネルギーを溜める。


「お願いっ!」


 ユイが放ったエネルギー弾は、標的を捉えた。


「……やったぞ、ユイ!」


 ……しかし、様子がおかしい。

 セーフティが外れたエネルギーが直撃したにも拘らず、奴はびくともしていない。


「……僕の力じゃ……足りないの……?」


 その時、“人型の存在”が言葉を発した。

 もちろん口は無いが、その身体から発せられたように聞こえた。


『私は、娘に選ばせることは、しなかった。

 選ばせれば、傷つき、失敗するからだ。

 だから、すべてを整えた。

 正しい関係、正しい人生、正しい結末を』


「……でも、それって……!」


 ユイの声が震える。


「“生きてねぇ”だろ」


 レオンが言い切る。


 ユイは、目を見開く。

 そして――


(……ああ)


 理解する。


(……一人じゃ、ダメなんだ)


「レオン……!」


「分かってる」


 言葉はいらなかった。

 ユイが手を差し出し、レオンが掴む。


 その瞬間――またも視界にログが浮かび上がる。


【ロール進行度:0%

 ロール:逸脱者】


「逸脱……者……?」


「ユイ……、そのロール……。

 俺と同じだ……」


「……!?」


『……だが、結果として、私は娘を悲しませた。

 せっかく仲良くなっても、“対人補正”に疑問を持つプレイヤーは、やめてしまうからだ』


 ユイの目が揺れる。


(……タチアナさん……)


『だから私は、プレイヤーを閉じ込めた』


「それが“ログアウト不能バグ”の正体だってのかよ……。

 どこまで自分勝手なんだ! あんたは!」


 レオンは激怒した。

 そして、“人型の存在”が問う。

 

『君たちは、選ぶのか?

 壊れる可能性を受け入れて、“他者との関係”を求めるのか?

 壊れかけても、“関係”を続けるのか……?』


「うん。それが本当の関係だと思う。」


「当たり前だ。作られた関係なんて、価値がねぇ」


 二人に迷いはない。

 そして、その繋いだ手に膨大なエネルギーが宿る。


『そうか……。

 私に、人間の可能性を……見せてくれるのだな……』


「行くよ、レオン」


「ああ、任せろ」


 二人は握った手を前に突き出す。

 そして、放たれるエネルギーの槍。

 それは、“人型の存在”の胸を突き刺した。


『……それでいい。

 “補正されない自由”。それこそが、人間の――』


 最後まで言葉を発することなく、光に還った。


 ……静寂。


 ユイは、息を切らした。


「……やった……?」


「……ああ」


 レオンも、肩で息をしている。


 長い沈黙。そして――


 ゴゴゴ……。


 重たい音と共に、奥の扉が開いた。

 その中には、輝く一つのコア。

 ドクドクと脈動している。


「……あれって」


「……中枢……だな」


 ユイは、一歩踏み出す。

 ここから先が――本当の選択。


 何も言わずとも、レオンと目が合う。


「……行くぞ」


 コアを見る。

 お互いを見る。

 繋いだ手を見る。


「……うん」


 二人で、進む。

 もう、戻らない。

 その先へ――。

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※作者は特級の声優ヲタです。キャラクターの脳内再生CVなど、お気軽に自由なコメント待ってます!

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