13.正しさと自由
午後の授業は、実戦形式の訓練だった。
「今日は二人一組で戦うスポーツ、エクバリオンを行う」
教師の声が、広い石畳のフィールドに響く。
生徒たちは整然と並んでいた。
「ルールは簡単だ。
相手のプレイヤーにインク魔法を当てて、全身を染めたら撃破。
撃破されたプレイヤーは、自陣に戻って洗浄魔法でインクを落として再出撃だ。
チームで合計二人が撃破されたら敗北だ」
ユイは自然にルールを噛み砕く。
(……合計二人?
……あっ、なるほど!
同じプレイヤーが二回撃破されても負けって事か。
逆に、同時に敵チーム二人を撃破したら、その時点で勝ちか……)
ユイはルールを理解した。
「相方の動きをよく見ろ。無理な行動はするな。
勝利へ向かって、全力で戦え!」
「「はいっ!」」
教師の言葉に、誰も迷わない。
返事も、頷きも、立ち位置も、自然に揃っている。
まるで最初から決まっているみたいに。
「ユイ君、だよね?
俺、マーキスって言うんだけど、よかったら相方にならない?」
「うん、よろしく!」
声をかけてきた男子に、ユイはすぐに笑顔で応じた。
距離が近い。
言葉も、表情も、流れるように出てくる。
(……すごい)
自分でも、そう思う。
(……考えなくても、できてる)
他の人の動きが分かる。
次に何をするかも、自然に読める。
考える前に、体が理解している。
「それでは、試合開始っ!」
教師が大きな声で宣言した。
と同時に、マーキスは一気に前に走る。
「ユイ君、後ろから援護射撃をお願い!
俺は接近戦で一気に仕留めるよ!」
「了解!」
ユイは言われた通り、後方からインク魔法を撃つ。
マーキスの動きから目を離せない敵に、面白いように当たる。
敵は二人ともいい感じにインクに染まった。
「ナイス! ユイ君、合わせやすいよ!」
しかし、直後――
「うわぁ! やられた!」
マーキスは白いインクでぐっしょりになった。
「ユイ君、一旦インク落としてくるから、しばらく一人で耐えてて!」
「了解! 早く戻ってきてね、マーキス君!」
マーキスは了解のハンドサインを送り、素早く自陣に帰っていった。
(……すごい、考えなくても感覚で遊べてる)
マーキスが戻ってくる頃には、ユイも一発インク魔法を浴びていた。
「ねぇ、マーキス君。
敵チームどっちも、あと一発当たれば撃破だよね?
一緒に前に出て戦おう!」
「いい作戦だよ! ユイ君。
それじゃ、行くぞ!」
◇
一方、フィールドの外。
レオンは壁際に寄り、腕を組んでいる。
教師から、「見学者は邪魔にならない位置にいろ」とだけ言われていた。
参加する理由も、権利もない。
(……まぁ、そうだろうな)
興味なさげに視線を流す――はずだった。
「そっち行ってる! 気をつけて!」
「了解! 任せて!」
ユイの声が耳に入り、反射的にそちらを見る。
ペアを組んだ男子と自然に連携をとっている。
だが……、二人の距離が、妙に近い。
(……なんだよ)
胸の奥が、わずかにざわつく。
(……そんな距離で話す必要あるのかよ……?)
ユイは白いインク魔法をかけられて笑っている。
普通に遊んでいる。
自分には向けない顔で。
(……ユイ、そんな顔もするのか?)
思考が止まらない。
別におかしくないはずだ。
ユイは学生で、ああいう関係を作るのは当然で。
(……俺には関係ねぇ)
小さく息を吐く。
それでも、視線は外れなかった。
インク魔法が飛び交い、学生が走り回る。
だが、レオンが目で追うのは、ユイとその隣の男子。
「今だ! 撃って!」
「うん!」
声が重なる。
攻撃と回避。
動きが噛み合っている。
(……チッ)
舌打ちが漏れそうになる。
(……なんで、あんな簡単に合わせてんだよ)
昨日までのユイとは、別人みたいだった。
まるで、迷いがない。
(……楽なんだろうな)
ふと、そんな言葉が浮かぶ。
その時だった。
別のフィールドの魔法が、わずかに制御を外れた。
飛んできたのは、上級生が放った魔弾だ。
(……あれは、インク魔法じゃねぇ!)
そう、魔弾はインク魔法とは違い、実際にプレイヤーにダメージを与えるものだ。
「……あっ」
誰かの声。
そして、次の瞬間。
それは軌道を逸らした。
――ユイに向かって。
(……当たる)
そう認識した瞬間、時間が引き延ばされた。
ユイの隣の男子が、一歩前に出る。
守ろうとする正しい動き。
だが、遅い。
(……俺が止めねぇと)
レオンは、すでに動いていた。
地面を蹴る。
最短距離。
その行動に迷いはない。
(……ユイは、俺が守る)
内心でそう思いながら、ユイの前に立つ。
「下がってろ」
低い声。
ユイの肩を押しのける。
そのまま手を伸ばし、暴れた魔弾を真正面から捉えた。
バチッ!
魔弾と手が触れると、レオンが装着していた指輪が、一瞬だけ輝いた。
そして、鈍い音と共に魔弾が散った。
衝撃が空気を震わせている。
……静寂。
周囲は呆然としていた。
しかし、ただ一つ。
ユイの手が、レオンの腕を掴んでいた。
強く……、離さないように。
「……レオン」
ユイが小さく声を漏らす。
息がかかるほどに、距離が近い。
「……無事か」
短い言葉。
それだけなのに。
お互い、触れている場所から、じわりと熱が広がる。
(……近い)
鼓動がわずかに速くなる。
視線が絡む。
レオンの目は真っ直ぐユイを見ている。
もちろん、ユイも同じだ。
逸らさない。
ただ、見ている。
「……う、うん」
ユイは遅れて返事をする。
そして、ユイは手を離した。
ほんの一瞬だけ、名残を残すように。
「おいおい、あの人、誰だよ?」
学生たちのざわめきが広がる。
レオンに視線が集まる。
すると、教師が前に出る。
「君、何のロールだ?」
空気が張り詰める。
「……知らねぇ」
その一言で、止まった。
「……まあいい、規定外の行動は控えなさい」
教師は淡々と告げる。
評価も、称賛もない。
ただ処理するように。
助けたはずなのに。
正しいはずなのに。
レオンは何も言わず、元の位置へ戻った。
(……なんなんだよ)
内心で舌打ちする。
一方で、ユイはその一部始終を見ていた。
(……レオンが助けてくれた)
胸の奥が、熱い。
でも――
(……なんで、あんな空気になるの?)
理解できない。
周りの反応が。
視線が、レオンへ向く。
変わらない顔。
変わらない声。
なのに、はっきりと分かる。
(レオンだけ、世界に“合わせてない”)
その事実が、胸に引っかかった。
授業は何事もなかったかのように、そのまま続いた。
でも、ユイの中では違っていた。
◇
授業後。
人の流れの中で、自然とレオンを探す。
しかし、すぐに見つかる。
フィールドの端の方。
誰とも話さず、ただ立っている。
(……やっぱり、周りと噛み合っていない)
「レオン……」
「……ああ」
短いやり取り。
それだけで、少し安心する。
でも――
(……なんでだろう)
その安心に、別の感情が混じる。
◇
太陽がすっかり傾いた帰り道。
二人で並んで歩いている。
「……なぁ」
レオンが口を開く。
「学校、どうだった」
「……楽しかったよ」
素直に答える。
「……そっか」
それ以上は続かない。
……沈黙。
でも、嫌じゃない。
(……変わってない)
レオンは変わっていない。
それはきっと事実だ。
なのに――
(……この世界と、合ってない)
今日、はっきり分かった。
でも――
(……それは……悪い事じゃない)
むしろ、他の誰よりも。
世界に順応して動く人たちよりも。
“自分らしく”生きている。
ただ一つ、引っかかる点があった。
(……なんでレオンは、僕だけをあんな目で見るんだろう)
レオンに見つめられた、あの“眼差し”を思い出す。
胸の奥が、わずかに熱を帯びた。
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※作者は特級の声優ヲタです。キャラクターの脳内再生CVなど、お気軽に自由なコメント待ってます!




