11.究極の選択、そして代償
『ロール選択を開始します』
無機質な声が、頭の奥に直接響く。
次の瞬間、世界が切り替わった。
視界には、三つの選択肢が並んでいる。
――――――――
【ロール選択】
①《王国騎士》
国民を守護する役割を担います。
防御・護衛行動が最適化されます。
②《治安維持官》
街の秩序を保つ執行者です。
判断力・制圧能力が強化されます。
③《兵団指揮官》
集団を導く統率ロールです。
状況判断・指示能力が補助されます。
※カウントダウン:60
――――――――
「……はは」
思わず、乾いた笑いが漏れた。
(……どれも同じじゃねぇか)
名前が違うだけだ。
やることは、一つしかない。
守る。秩序を保つ。導く。
(……全部、“上に立つ側”だ)
視線を細める。
どれを選んでも、俺は“そういう存在”になる。
(……いや、もうなりかけてる)
胸の奥には、そういう感覚があった。
ふと意識を戻すと、規則正しい寝息が聞こえてくる。
ユイはもう、完全に眠っている。
ユイを見た時、自然と“守りたい”という思考が巡る。
あれはもう、ただの感情じゃない。
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カウントが、静かに減っていく。
視線を逸らすことはできなかった。
だが、手も動かなかった。
(……選べば、“自分”が分からなくなる)
確信があった。
ユイは《学生》を選んだ。
それで、どうなったか。
そう、ユイは“楽になった”。
それはつまり、“自分”を手放したということだ。
(……アイツは、それでいいのかもしれねぇ)
アイツはこの世界で、“ちゃんと生きられる”。
そもそも、そういう目的でこのゲームを始めたんだ。
(……でも、俺は違う)
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三つの選択肢を見つめる。
どれも魅力的に見える。
どれも“正しい”。
だからこそ、分かる。
(……これが罠だ)
正しさを押し付けてくる。
迷わせないように、導いてくる。
その先にあるのは――
(……俺じゃねぇ何かだ)
カウントは止まらない。
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ふと、もう一度後ろを見る。
ベッドの上で眠るユイ。
無防備な寝顔。
安心しきった、その姿。
(……守る)
自然に浮かぶ。
(……守らなきゃいけねぇ)
さらに強くなる。
(……いや)
一度、否定する。
これは、自分の意思か?
それとも、システムに植え付けられたものか?
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レオンは、ゆっくりと息を吐いた。
(……どっちでもいい)
守ること自体は間違っていない。
(……だが、それを“役”にされたくねぇ)
守るなら、自分の意思でやる。
決められるんじゃなくて、自分で決める。
それだけは、譲れなかった。
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9
8
指は動かない。
役は選ばない。
選ばないと、決めた。
5
4
3
選択肢は、静かにそこにある。
優しく、逃げ道のように。
――だが。
(……俺はそんな“ロール”要らねぇ)
2
1
0
……。
……何も起きない。
ユイの時は、確かにあった。
あの“キィン”という音。
だが、今は違う。
静かすぎる。
表示も動かないし、音も鳴らない。
(……なんだよこれ……、バグか?)
いや、違う。
ゆっくりと、画面が歪む。
文字が、滲む。
書き換わる。
【ロール:逸――】
一瞬だけ、何かが表示されて。
すぐに、消えた。
「……っ」
目を凝らす。
だが、もう何もない。
いつもの視界。
いつもの世界。
ただ一つ、説明できない違和感だけが残っていた。
◇
朝。
柔らかな光が、瞼を通して差し込んでくる。
「……ん」
ユイはゆっくりと目を開けた。
頭は、すっきりしている。
昨日までの重さが、嘘みたいにない。
(……あ、そっか)
思い出す。
僕は昨日、《学生》を選んだ。
だから――
(……ちゃんと、できる)
起き上がって、隣のベッドを見る。
レオンは、もう起きていた。
「……おはよう。レオン」
「……ああ」
短い返事。
それだけなのに。
(……あれ?)
ほんの少しだけ、違和感があった。
具体的に何が、とは言えない。
声?
間?
視線?
どれも普通な気がするのに。
(……気のせい、かな)
すぐに思考が流れる。
「僕、今日から学校行くんだよね?」
「……ああ」
「レオンも、一緒に行こ?」
「……問題ねぇ」
その言い方が、少しだけ引っかかった。
でも――
「ありがと」
ユイは笑った。
自然に。
何の違和感もなく。
◇
朝の街は、活気に満ちていた。
人々が行き交い、店が開き始める。
その流れに、ユイは自然と溶け込んでいく。
「ねぇレオン。
あれ、僕が通うアルカディア学園じゃない?」
指さした先には、石造りの大きな建物。
塔のような構造と、広い中庭。
どこか荘厳で、でも温かみのある空間。
「……でけぇな」
「ふふ、楽しみだなぁ」
ユイは素直にそう言った。
胸の奥に、不安はない。
それよりも――
(……この世界でなら、ちゃんとやれる)
その確信の方が強かった。
◇
校内は、さらに賑やかだった。
魔導書を抱えた生徒。
模擬戦の話をするグループ。
その全てに、ユイは違和感なく馴染めた。
「君、初めて? どこのクラス?」
「えっと――」
自然に会話が続く。
言葉に詰まらない。
視線も逸らさない。
(……すごい)
自分で、自分に驚く。
(……こんなに、簡単なんだ)
今までできなかったことが、できる。
それが嬉しくて、自信が湧く。
でも、ほんの少しだけ――
(……軽い?)
そんな感覚もあった。
◇
学内に入ると、食堂の方から、ふわりと香りが漂ってきた。
(……いい匂い)
思わず、ユイは足を止める。
茹で上がった麺と、ほんのり甘いソースの香り。
どこかで嗅いだことのある匂いだった。
「……レオン、あっち」
自然と、そちらへ歩き出す。
理由なんて考えなかった。
ただ、“そうするのが普通”みたいに。
人目につきにくい搬入口らしき場所に出ると、数人のスタッフが木箱を運び込んでいた。
その中に、見覚えのある綺麗な銀髪があった。
「あれ……」
台車に積まれた大きな鍋。
蓋の隙間から、湯気と一緒に香りが立ち上っている。
「……あら?」
ひょい、と顔を上げたその人が、こちらに気づいた。
「昨日のお客さんじゃない」
タチアナだった。
「あ、ポロメスチーニのお店の店長さん!」
ユイは、迷いなく駆け寄る。
「こんなところで何してるんですか?」
「納品よ、納品。
私のお店ね、週に一回、アルカディア学園の学食を作ってるのよ〜」
タチアナは自慢げにしている。
「今日がその日だから、朝から大忙し」
「へぇ……すごい」
素直に感心する。
言葉も、表情も、自然に出てくる。
――自分でも驚くくらいに。
「そっちは? もう学生気分って感じ?」
「はい、今日から通うことになって――」
会話が、途切れない。
以前なら考えられなかったやり取りが、当たり前みたいに続いていく。
その様子を、隣でレオンが見ていた。
(……ユイ、《学生》に馴染みすぎだろ)
レオンは内心でそう思った、その時だった。
「……」
タチアナの視線が、ふとレオンに向けられる。
ユイと話していた時の、軽い調子のまま。
――のはずだった。
ほんの一瞬。
測るように、覗き込むように。
タチアナの綺麗な瞳は、レオンを捉えた。
空気が、わずかに変わる。
「……でっかいあんたは、“役に染まってない”のね……」
タチアナがぽつんと呟く。
それを聞いたレオンは眉をひそめる。
だが、その一瞬だけで。
「ふふ、なんでもな〜い!」
タチアナはすぐに笑って、手をひらひらと振った。
「気のせい気のせい。
ほら、仕事戻らないと怒られちゃうから、またね」
くるりと背を向けて、台車の方へ戻っていく。
「お店でも待ってるからね〜!
また“二人”で来なね!」
(……あの子たち、面白いことになってるわね〜)
最後だけ、少し含みのある声。
それを残して、タチアナは作業に戻った。
湯気が立ち上る。
人の声が交差する。
さっきまでと何も変わらない光景。
なのに――
(……今の)
ユイは、ほんの少しだけ胸に引っかかるものを感じていた。
言葉にはならない。
けれど確かに、“何か”があった。
「……レオン?」
「……なんだ」
振り向いたその顔は、いつも通りだった。
声も、表情も、何も変わらない。
なのに。
(……違う。
みんなから感じる“視線”と、レオンのそれは違う。
レオンの目は、役として僕を見る目じゃない。
……もっと、近い……何か特別な……)
その違和感だけが、静かに残り続けていた。
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