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【完結】ロールプレイ・ファンタジア 〜二人の関係は、ただの“システム”なのか?〜  作者: 真星 紗夜(毎日投稿)


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10.守るという行動のジレンマ


 《学生》になったユイは、そこにいた。


 ――あまりにも自然に。

 

 さっきまでと同じ場所に、同じ姿で、同じように立っている。


「……レオン?」


 振り向いたユイが、柔らかく笑う。

 その声に、違和感はない。

 むしろ、自然だった。


「僕、《学生》を選んだけど、レオンとの関係は何も変わらないから……」


 少しだけ言葉を選びながら、それでも自然に続ける。


「……だから、安心してよ」


「……ああ」


 レオンは短く返す。

 否定は、しなかった。


 ……いる。

 

 ユイがここにいる事実は確かに変わらない。

 ユイはユイだ。

 それは間違いない。


(……ただ、少し“上手くなった”だけだ)


 これが正しいこの世界での在り方。

 それを受け入れるように、レオンは息を吐いた。


(……さっきまでと違う部分は、確かにある。

 でも、こうして隣にいて、声をかけてくるこの存在を、“別物”だって切り捨てることはできねぇ。

 ユイは……一歩前進しただけだ)


 そう思うことにした。


「……腹、減ってるだろ」


「……うん」


 素直な頷き。


「じゃあ、さっさと飯食って、今日はもう休むぞ」


「分かった」


 そのやり取りさえ、妙に噛み合っている。

 初めて会った時と比べたら、ずっと自然だ。


【ロール進行度:33%】


 視界の端で、数字がわずかに揺れた。


(……チッ)


 理由は分かっている。

 ユイを空腹から“守った”。

 それだけで……増えるようだ。


 ◇


 二人は入り組んだ路地に入った。

 すると、小さなレストランが店を構えていた。


「僕、ここで食べたいかも……」


「……なになに?

 “タチアナの美味しいポロメスチーニ屋さん”か……」


 夕方から夜に変わる時間帯。

 仕事終わりらしいプレイヤーが、ぽつぽつと席を埋めていた。

 昼間の店よりも簡素で、客も少ない。

 常連が集う、ポロメスチーニ専門店のようだ。


「なぁ、ユイ。

 結局、ポロメスチーニってなんなんだよ」


「さっきメニュー表見なかったの?

 じゃあ、入ってからのお楽しみだね!」


 ユイはそう言って笑顔を見せた。


「あら、いらっしゃ〜い!」


 中に入ると、三十代前半くらいの女性がフレンドリーに迎えてくれた。

 その女性の胸には、「店長・タチアナ」とネームプレートが付けてある。

 長い銀髪は綺麗になびいており、前髪は……オン眉というのだろうか。とにかく短くパッツンと切られている。


【ロールプレイ適用中】


 もちろん、頭上には見慣れた表示もあるが。


「二人、座れる席ありますか?」


 ユイが元気よく、タチアナに声をかける。


「二名様なら……、ここのカウンター席ど〜ぞ!」


 タチアナも元気よく接客している。

 そして、二人は案内に従って席に着いた。


「……ユイ」


「なに?」


「……無理すんなよ」


 短く言う。

 だがユイは、きょとんとした顔をした。


「……無理って?」


「……」


 言葉が詰まる。


 そうだ。

 今のユイにとっては、このくらいの会話、無理なんかじゃないのか。


「……いや、なんでもねぇ」


「……そっか」


 ユイは素直に引いた。

 その“引き方”すら、滑らかだった。


(……これが、“最適化”かよ)


 内心で舌打ちする。


 メニューを開くユイの手つき。

 注文のタイミング。

 視線の配り方。

 全部が、“正しい”。

 以前のぎこちなさは、もうない。


「見てよレオン!

 これがポロメスチーニだよ」


 ユイはメニュー表を開き、その写真を見せる。


 ポロメスチーニは、現実でいうパスタみたいなものだった。

 パスタよりもオレンジっぽい色の麺に、好きなドレッシングをかけて食べるらしい。


「なんか見た目じゃ分かんねぇな」


「じゃあこの、“店長のおすすめ”にしてみる?」


「……まぁ、そうだな」


 その返事を聞くと、ユイは手を挙げて元気よく――

 

「すみません! おすすめ、二つくださいっ」


「かっしこまりました〜!」


 やり取りが、淀みなく進む。


(……楽、なんだろうな)


 ふと、そう思う。


 考えなくていい。

 迷わなくていい。


 行動の“正解”が、用意されている。


【ロール進行度:34%】


 数字が、また増えた。


(……今のは)


 ユイの注文を、そのまま通した。

 否定せず、委ねた。

 ――“伴う者”としての振る舞い。


(……そういうことなのか)


「……クソが」


 小さく吐き捨てる。


「……レオン?」


「……なんでもねぇ」


 視線を逸らした、その時――


「おい! テメェふざけんなよ!」


 店の奥で、怒鳴り声が上がる。

 振り向くと、チンピラ風の男がタチアナに詰め寄っていた。


「こんなもんに金取る気かよ!

 俺のポロメスチーニにちぢれ毛入ってたんだぞ!!」


 男は顔を真っ赤にさせている。

 しかし、タチアナは小さな声で呟く。


「私、ちぢれ毛全部剃ってるんだけどなぁ……」


 バンッ!!


 男はテーブルを乱暴に叩いた。


「ヒィッ! 申し訳ございません!

 すぐに作り直しますので――」


「いらねぇよ! 金返せ!」


 周囲の客が、ちらりと見る。

 だが、すぐに視線を逸らす。


 関わらない。それが“普通”。


 空気が、少しだけ張り詰める。

 ユイの肩が、わずかに揺れた。


「……ユイ、心配すんな」


「……うん」


 小さく返事。

 その瞬間、レオンは立っていた。


(……は?)


 自分で自分の動きに一瞬反応が遅れる。

 気づいた時には、もう足が前に出ていた。


「……その辺にしとけ」


 低く、声を落とすと、男が振り向く。


「……あ?」


「店長さんも謝ってる。引き際だろ」


 淡々とした言葉。

 威圧でも、怒鳴りでもない。

 ただ、“収めるための声”。


「……なんだテメェ」


 男が一歩近づく。

 だがレオンは、動かない。

 ただ、タチアナの前に立つ。


【ロール進行度:36%】


(……またかよ)


 分かっている。

 人を庇った。

 それだけで、増える。


「……ここはレストランだ。騒ぐ場所じゃねぇ」


「チッ……」


 男は舌打ちし、しばらく睨みつけた後、


「……つまんねぇ店だな。

 大して美味くもなかったしよ」


 そう吐き捨てて、出ていった。


 しばらく静寂が流れ、タチアナが頭を下げる。


「……あっ、ありがとうございます!」


「……別に」


 短く返す。


 席に戻ると、ユイがこちらを見ていた。


「……すごいね、レオン」


「……は?」


「ちゃんと、追い返したじゃん!

 街のヒーローだよ!」


 素直な言葉。

 その目は、少しだけ尊敬を含んでいる。


「……別に、普通だろ」


「ううん」


 ゆっくりと、首を振る。


「……ああいうの、普通は関わらないよ」


「……」


 言い返せない。


【ロール進行度:41%】


 そして、数字が静かに増えた。


(……褒められても、増えるのかよ)


 苛立ちが滲むと同時に――


(……でも、ユイが無事だった。

 それだけで――)


「……店長さんも厨房戻ったし、ポロメスチーニ、そろそろ来るかもな」


 思考を切る。

 それ以上、考えないように。


 ◇


 夜の空気は冷たかった。


「お兄さんたち、さっきはホントにありがとね!

 良かったら二人でまた来てよ!

 サービスするわよ〜?」


「……あぁ、またそのうちな。

 ポロメスチーニ、美味かったぜ」


「僕……、何もしてないんだけどなぁ……」


 二人は見送られて店を出た。


 タチアナはその二つの背中を、いつまでも瞳をときめかせて眺めていた。


「……今日の宿、探すか」


「……うん」


 並んで歩く。

 レオンの大きな歩幅が、少しだけユイに合っていた。

 それもまた、“自然”だった。


(……慣れてきてる)


 この世界に。

 この役に。


 それを、止める術はない。


「……ここでいいか」


 小さな宿屋の前で止まる。

 木造の、簡素な建物。


「うん」


 ユイは迷わず頷いた。


 ◇


 部屋は、一つ。

 ベッドは、二つ。


 最低限の設備。

 簡単な洗面と、奥にシャワー室。


「レオン。先、使ってもいいよ」


 ユイが言う。


「……いや、お前からでいい」


「……そう? じゃあ、先に使わせてもらうね」


 ユイは素直に受け取る。

 タオルを持って、シャワー室へ消えた。


 バタンッ。


 扉が閉まる音。

 少しして、水音が響き始める。


(……あいつ、無防備すぎるだろ。

 ……俺がちゃんとついててやらねぇと)


 静かな部屋で、レオンは壁にもたれた。

 今日の出来事が、頭の中で反芻される。


 ユイの笑顔。

 滑らかな会話。

 そして、“楽だ”という言葉。


(……アイツは、ロールプレイをすることで、楽になった。

 でも俺は……縛られている)


 守るたびに。

 動くたびに。


 システムに侵される。


 それでも――


 ――キィ、と音がして扉が開く。


「……あ」


 ユイは少し驚いたように立ち止まる。

 その姿は、白い布を一枚、腰に巻いているだけだった。

 初めて会ったあの時と同じだが、レオンの目には全く違って映った。


 普段はもっさりとしている髪も、濡れることで艶めかしく見える。

 その髪の毛から滴る水滴が、首筋に残っている。

 華奢な身体も相まって、まるで女の子のようだった。


 視線が、一瞬だけ絡む。


「……ごめん、着替え持って行くの忘れちゃって」


 ユイが言う。


「……ああ」


 短く返す。


 すれ違う距離が、やけに近い。


 無意識に、少しだけ身体をどかす。


 ――ぶつからないように。

 でも、本心はぶつかってしまいたいと思っているのかもしれない。

 

 ◇


 二人がベッドに入り、しばらくした頃。

 ユイの規則正しい寝息が聞こえ始める。


「……寝ちまったか」


 小さく呟く。


 レオンは、眠れない身体を起こした。

 そして、窓際へ行き、外を眺める。


 静かな世界。

 街の灯りが、遠くに揺れる。


(……守る)


 その言葉が、浮かぶ。

 違和感はない。


(……守らなきゃいけねぇ)


 もっと、はっきりする。


(……いや)


 一度、否定しかけて、止まる。


 振り返ると、ベッドの上にはユイ。

 そして、その無防備な寝顔。


 ――危うい。


(……守りたい――)


 それは、感情だったはずだ。

 なのに――


(……守らなければならない)


 いつの間にか、“義務”に変わっている。


 守るのは当たり前。

 守れない方がおかしい。


 その思考を、レオンは否定しなかった。


【ロール進行度:49%

 次段階移行まで残り1%】


 数字が跳ね上がる。


「……っ」


 止められるはずだった。

 止めるべきだったのに――


(……守るしかねぇだろ)


 今度は、迷わない。


 ――キィン。


 音が鳴る。


【ロール進行度:50%

 規定値に到達しました】


 静かに、目を閉じる。

 そして、開く。


(……来たか)


 拒絶はなかった。

 むしろ今は、どこかでそれを待っていた。


『ロール選択を開始します』


 表示が現れる。

 それを見つめながら、レオンはわずかに口の端を歪めた。


(……選んでやるよ)


 誰かに決められるんじゃない。

 自分で決める。

 そう思って、このゲームを始めたはずだ。


 ――だから。


(……来い!)


 その選択を。

 “自分で選ぶ”この瞬間を。

 自分自身が望んでいることを、自覚していた。

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※作者は特級の声優ヲタです。キャラクターの脳内再生CVなど、お気軽に自由なコメント待ってます!

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