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ep1 国王の憂鬱




 国王ライニールは、上質な調度品や書籍類が置かれた執務室で、第二秘書官から報告されたアレ(息子の第三王子)のことを思い、大きな溜息を吐き出した。


 アレ(ヨハン第三王子)問題(スキャンダル)を起こした星渡り祭宴の最中に、ジャンヌと交わっていた。 しかもサカっている行為を側近候補である二人〔ヨーゼフ・ドルッセン侯爵令息とヘルマン・カーベリア伯爵令息〕に立ち会わせていた。 そして二人にジャンヌが処女(バージン)であったことを確認させたことを報告で知った。 要らない所でヨハンも用意周到なことだと、国王ライニールは呆れ返った。



 『アレ(ヨハン)が幾ら知恵(理性)足りない性少年だとしても諸問題をすっ飛ばし過ぎだ!!!』



 その報告を知るなり、国王ライニールは米噛みの血管を浮き上がらせ、そう絶叫した。



 ジャンヌに懐妊の恐れがあったため、王城内で一ヶ月の幽閉を命じ、アレ(ヨハン第三王子)は第三王子宮で謹慎と言う名の軟禁を行った。 アホな側近二人は、迂闊な事を漏らさせない為に貴族牢へと収監した。 彼ら二人の罪状なら、幾らでも国王ライニールの手に掛れば用意出来た。


 建国祭の式典を間近に控えて慌しい中、余りに阿呆なアレの王族として不可解な行動に、ふと国王ライニールは、他国のスパイにアレは誘導されたのではないか?と考え、王宮内を管轄しているデミル公爵家の者を呼び、アレの周辺調査を命じた。






 約百年前の契約によって、国王陛下の勅命がないとデミル公爵家は動けない為だ。




 ラダリア王国に置いて、主に王城内の諜報活動を担っていた。


 (約2百数年前のカナーン王国時代には、デミル公爵家がデミル=ラダリア辺境伯として、ラダリア地方を治めていた領主であった。 今のラダリア王家はデミル=ラダリア辺境伯家の分家筋にあたる。)



 しかし約120年前のフローラル王国建国時前後、デミル公爵家の一門デサン侯爵家当主が、それまで築いていた情報網を利用し、カナーン王国(現フローラル王国)の王侯貴族と組み、王位(ラダリア国王)の簒奪を企んだ。

 それをロイス(フローラル王国)・ド・フルーブ伯爵(初代国王)の働きにより未然に防いだ。


 その反省を込め、ラダリア8世とデミル公爵は、ユリウス教の枢機卿をまじえ、以降、───国王の勅命によらない動きは王城で禁ズ───と言う契約を交わした。



 この時、ロイス・ド・フルーブ(後のフローラル国王)ラダリア8世(ラダリア国王)との2国間で密約を交わしたのだが、それはまた別の話になる。








 現在、フローラル王国のフルーブ4世の思惑は兎も角として────── 


 国王ライニールは、額に掛る白髪混りの赤味を帯びた金色の髪を右の指で払って、もう一度、溜息を吐いた。



 あれから3週間。

 結局の所、ジャンヌ・マカダミアは、アレの子を懐妊していたのだった。



 アレ(ヨハン)は何故、こんな不運な当たりを引くのだろうか。



 手元の書類を見れば、ジャンヌはラウル伯爵の息女だった。母親のジョアンナは、平民で子爵家の猶子になり、ラウル伯爵の3人目の妻になっていた時の娘なのだ。

 現在は、マカダミア侯爵家の正式な養女となって居る。


 (凡庸で馬鹿だ馬鹿だと思っていたベオルフ(元マカダミア侯爵)は、本当にどうしようもない馬鹿だった。


 これまでの貴族の慣習で、血の繋がりが皆無の人間を正式な養子として、家名にいれたりはしない。常識すらないお馬鹿だったのだなあ、ベオルフは。

 まあ、それを理由にアレ(ヨハン)とジャンヌを婚姻させて田舎の領地に押し込め、公の場で二度と馬鹿な騒ぎを起こさせる気はないがな。

 序に子種を殺して、アレ(ヨハン第三王子)の側近2人〔ヘルマン・カーベリア伯爵令息、ヨーゼフ・ドルッセン侯爵令息、〕を一緒に行かせよう。領地運営の手助けくらいは出来るだろう。)



 国王ライニールは、怒りの侭アレ(ヨハン第三王子)の子種や胎児を殺すつもりでいたが、25歳の王太子夫妻がまだ未出産なこと。

 18歳の第二王子が、留学中で未婚だったことなどを思い出し、血統維持の為、アレたちの様子を見ることにした。



 マカダミア前侯爵のウィレムには、ベオルフの弟アントニーへと当主交代の手続きに入って貰っていた。 しかしアレ(ヨハン第三王子)とジャンヌとの婚姻の儀が終わるまでは、ベオルフに義父として仮の当主で居させることにした。


 王宮や広場で公布しない特別婚姻の為、王宮内の礼拝堂での婚姻の儀だけ終わらせ、安定期が来たらその侭、西にある王領へと送り出す手続きを秘書官に命じた。


 そしてホウエン公爵を呼び、アレやジャンヌ、側近2人を見張り、彼らに近付く愚者の始末を頼むことにした。




 アレを育てた乳母や侍女たちは、フローラル王国の建国前、不自然に病死し没落した貴族家の縁者の子孫だった。

 その所為かフローラル王国の初代国王が、ラダリア王国でカナーン王族の縁者を皆殺しにしていると言う噂が立ち、形を変え百年経った今も反フローラル王国感情が残り、野蛮で冷酷なフローラル人と蔑視する意識が残っている。


 カナーン王族狩りは、初代フローラル国王の頼み(密約の1つ)で、ラダリア8世が依頼し、ホウエン公爵家主導で行ったモノだった。 しかしそれは微々たる数だった。


 元々は、王弟たちと組んだデミル家一門のデサン侯爵が企てたラダリア王国の王位簒奪の謀反であり、その為の静粛である。それを全て初代フローラル国王のせいにされては、ロイス・ロワ・フルーブ国王もあの世で顔を顰めていそうだ。





 ラダリア王国の賢王ラダリア8世とフローラル王国の初代国王との密約で結ばれた同盟は、他国との婚姻同盟より確かなモノの筈だったが、現国王フルーブ4世は、建国祭式典での様子を窺うに、その密約を前王フルーブ3世から知らされて居なかったように見えた。


 「昔の約束ですよね。新たな時代を築きましょう。陛下。」


 7月のラダリア王国建国祭式典で、良い年をした爺のフルーブ4世がヘラリと笑って、国王ライニール(ラダリア13世)へと能天気に話し掛けて来た事を思い出した。



 

 阿呆なアレ(ヨハン)を封印する為、今回の懐妊は良かったのかも知れないと苦い思いを無理矢理飲み込み、秘書官から続いて渡された次の報告書を読み、国王の憂鬱な眉間の皴は、また一層深くなっていく。



──────ユストゥス王太子殿下、ジョアンナ・マカダミア侯爵夫人を寝所女官に所望した旨・・・略。──────




 「ユス(王太子)、お前もか!」



 国王ライニールの絶叫が執務室に響いた。










◇◇






※寝所女官※

 本来、夜や深夜でも国王の寝所に訪れる人が居る為、それを管理するのが寝所係(官)。それが賢王であり好色王であったラダリア8世は、男性の寝所係を女官に変えてベットインしたそうだ。

 公妾とは違い王妃の許可は不要だが、公の場に国王と帯同出来ない。寝所女官で居る間、避妊薬を飲み懐妊させて貰えない。一夜の戯れで、気に入った侍女を連れ込んで終わりと言うこともあった。運悪く懐妊してもスルーされる。下手に国王の子だと騒いだら親子ともども消滅します。扱いはあくまで侍女で王宮の女官長が管理します。

 国王が褒美を下賜すれば別ですが、夜勤手当も特別手当もでない。




※ 備忘を兼ねた設定なので読み飛ばしokです。





 カナーン王国〔現フローラル王国〕時代、デミル公爵家は、デミル=ラダリア辺境伯領の本家であった。

 現ラダリア王家は、デミル=ラダリア家の分家であるドナ=ラダリア伯爵家だった。現在のホウエン公爵家は、過去ホウエン男爵家であり、そのドナ=ラダリア伯爵家(現ラダリア王家)の分家だった。


 カナーン王国〔現フローラル王国〕から搾取されていた広大なラダリア地域。宗主国であるカナーン王国から圧政に耐えかねてドナ=ラダリア家当主たちが、独立しようと動いていた時、ラダリア辺境伯を任じられていた本家当主たちは反対した。 そしてカナーン王国から赴任していた大使たちに謀反を報せようと本家(デミオ・ラダリア家)の当主たちが動き、反乱軍を率いたドナ=ラダリア家(現ラダリア王家)の者達は城館内に彼ら(デミオ・ラダリア家)を拘束させた。


 それは、ラダリア辺境伯領の隣接した国境、北の半島の属国と北東にあるプロメシア公国が、オベリスク帝国からの独立戦を仕掛けていた時代でもあった。



 独立を果たしたことをユリウス教会から承認され、ロベリア教皇からドナ=ラダリア家当主が、ラダリア国王として宣言され、王の戴冠の儀が執り行われた。

 公に国王として承認されるのは、正統性を認められロベリア教皇から、王として戴冠の儀を行って貰わなければならないのだ。


 この時、カナーン王国からの独立に反対したデミル=ラダリア家当主と嫡男は幽閉され、残った家族や家門の者はデミル公爵家として再生させた。

そして抑止に、独立時は右腕として活躍したホウエン=ラダリア男爵家をホウエン公爵家として、初代ラダリア国王が興した。



 それ(独立戦争)から百年近くの時が過ぎ、幾つかの地域が、カナーン王国〔現フローラル王国〕から離れ、カナーン王国に崩壊の足音が聞こえる頃、カナーン王国のロイス・フルーブ(初代フローラル国王)伯爵が国外の侵攻を防ぐ為、国境周辺を暗躍した居た。そしてラダリア国王は、カナーン王国のロイス・フルーブ伯爵から急な報せを受けた。


 カナーン王国〔現フローラル王国〕と国境を接しているデミル公爵領の動きがおかしいと。


 既に邪魔なカナーン王国内の貴族をロイス・フルーブ伯一味が、次々と謀殺し始めていた為、一部の耳の良いカナーン王国の貴族たちは、アトラス大陸西方の各国へ散り始めていた。


 ロイス・フルーブ(初代フローラル国王)伯爵とラダリア8世国王は、秘密裏に会談し、驚きの情報をラダリア8世は得た。


 デミル公爵家に連なる分家のデサン侯爵たちとカナーン王国の亡命してきた王侯貴族たちが組み、本来のラダリア王家の血脈の正統性を謳って、デサン侯爵がラダリア王国の国王になる謀略を立案していると言うのだ。

 ロイス・フルーブ伯爵たちが集めた数々の証拠を見せられ、ラダリア8世は唸るしか無かった、(どうやら(フルーブ)は、ロベリア教皇の力を借りられたようだと歴代の王が記していた。)


 王宮に座していたデミル公爵本家は、全く謀反に関わって居なかったので、当主にデミル公爵家内の戒厳令を申しつけ、ロイス・フルーブ伯爵たちとホウエン公爵家の者たちとで協力し、謀反に関わった者たちの大静粛を行った。

 この時、ラダリア中南東部地域とカナーン王国北西部地域と中央地域は()()()で両国で王侯貴族が死亡し大激減。ラダリア王国では国王直轄領が大いに増大した。この謀反にラダリア8世の王弟一族が含まれていた為、妻であるカナーン王国の王女と共にひっそりと毒杯を与えた。


 秘密裏にコトを成したのだが、多くの王侯貴族たちの病死に疑念を抱く者がいて、彼是(アレコレ)要らぬ邪推を招いたが、ラダリア8世とホウエン公爵家たちは沈黙を貫いた。


 軈て、ロイス・フルーブ伯爵がカナーン王国の王族を廃し、フローラル王国を建国し、初代国王となった。その時、国王同士の密談で永年同盟と互いの国の未来の王族同士は婚姻させないことを密約した。独立戦争をした為、ラダリア王国の王や王太子はカナーン王国の王女と結婚はしていなかったが、謀反を起こそうとした王弟のようにカナーン王家との婚姻は、王族を始め、貴族同士でもそれなりに結ばれていた。


 出来たばかりのフローラル王国。

 正統性を謳いカナーン王家一族の誰かを担ぎ出すかも知れない。

 それを防ぐ為にラダリア王国で生きているカナーン王族を暗殺する事と引き換えに、フリージア諸島の領有権と子供が産めなくてアトラス大陸中央のルース王国から返品されたラダリア8世の第7子の第4王女をフローラル王国のフルーブ初代国王が正妃で娶ってくれると言う。

 フルーブ初代国王は、多くの子を成していた為、三十路終わりの今、強いて新たな子は不要だったそうだ。



 血のような緋色の目をしたロイス・ロワ・フルーブは、「内密で頼む」と囁き、自らの能力をラダリア8世に告げた。


 彼は、夢見の力と呼ぶ未来を知る夢を見るのだと話した。

 カナーン王国の王家の直系の者とフルーブ王家の直系の者との婚姻で生まれた子は、フローラル王国の災いとなると言う。その直系の者が、ラダリア王族のモノと婚姻するらしい。

 その憂いを除く為、ラダリア王家とフローラル王家との婚姻は、今後、結ばないと秘密裏に契約したと、代々国王のみ知らされる密約なのだ。


 しかし現フローラル王国のフルーブ4世は、その密約を知らぬかのように、アレ(ヨハン第三王子)とフローラル国王女との婚姻をしつこく打診してくる。

 恐らくはプロメシア王国と同様で、フリージア諸島に咲く奇跡の青薔薇を得たいのだろう。確かにフリージア諸島は、以前にカナーン王国所有の諸島であったが。

 約百年前の密約で領有権は正式にラダリア王国の物である。


 フローラル王国のフルーブ4世は、知って居るのだろうか。

 フリージア諸島の青薔薇は、教会がらみの問題であり、カナーン王国が滅んだのは、カナーン国王が教会上層部の虎の尾を踏んだからだと、密かに語り継がれていることを。


 それを利用してフローラル王国を建国したロイス・ロワ・フルーブのことを忘れてしまったのだろうか。



 


 約百年前に、そんな事があった為、中央部に力を持つデミル公爵家の持つ諜報部は、国王が直接命じたことにしか動いては為らないし、勝手に判断を下しては為らないと、ユリウス教の枢機卿立ち合いの元、制約を結んでいる。


 国王陛下の勅命がないとデミル公爵家は動けない理由を国王ライニールは、取り留めも無く思い返していた。決して現実逃避では無い。



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