4-45 留守の間に
「行ってらっしゃいです!」
静也と能徒と愛枷、そして月乃が工場へ出発して学校に残された三人、唯と狩人と悟利は放課後の学校で少しだけ残っていた。その理由はもちろん一気に四人も不在となったことで急に何かが起きてしまうことへの懸念だった。
なんとなく集まったのは狩人のクラスだった。その理由は、悟利と唯の教室は単純に人が多く何かが起きた時や内輪のことを話さなければならない時にその話が出来ないからだ。また、狩人ならきっとボッチで教室にいると言った悟利の発案でもあった。
「狩人兄ぃは心配性です。もしも何かが起きたとしてもわち達なら大丈夫です。だから月乃姉ぇはわち達に任せて向こうに行ったです」
「それはどうだかな。確かに大丈夫だろうというのはあっただろう。だが、本心は違うと思うがね」
「そうねぇ。お姉さんもそう思うわ。かといってお姉さんまで行くわけにはいかないし、いくら能徒がいるからとはいっても月乃ちゃんのことだから認めてくれなさそうだしね」
「まぁ、姉ヶ崎はそうだろうな」
「あ、なるほどです。そういうことですか。でも大丈夫だと思うです。だって愛枷はまだしも、能徒はあの場で約束したです。何も心配に思う必要はないと思うです」
「悟利ちゃんは純粋ね。人ってね、時には表と裏で考えていることが違うのよ? 一瞬だけでも取り繕うことなんて簡単なんだから。ねぇ? 狩人くん。社長なんだからそういう人、今までたくさん見てきたでしょ?」
「そうだな。人間の心とは汚いものだ」
「そういうものですかねです」
悟利は無邪気な様子でお菓子を食べていた。
教室には三人しかいない。二人が来た時には本当に狩人はボッチで、なにやら窓の見て考え事をしている様子だった。
「それよりも狩人兄ぃ、わち達が来た時は何をしていたです?」
「考え事だ。次に奴らはどう動くのかとか、当面反応が得られていない水晶髑髏についても少しな」
「一人だと考え事がスムーズですからねです。一人だと」
「なんか悪意を感じるんだが?」
「気のせいです。それで何か分かったです?」
「何も。だが、仮生徒会の奴らは残り四人だ。きっと今頃あいつらはどうしてこんなことになっているんだとか慌てているに違いない。そこから考えられる次の行動を考えていたんだが、結局分からず終いさ。まぁ、今日は何も起きないことを願うよ」
「もしも何かが起きても大丈夫よ。だってお姉さんがいるし、小池と南波ならどうとでも出来るわ」
「お前には魅了があるからな。だが女子はどうにも出来ないだろ?」
「それは物理的にどうとでもなるわよ。だって一般人―違うわね。Greedの反応は確認済みだものね」
「まぁそうだな。そろそろいい時間だ。どうせ何も起きないだろう。帰るか」
「待つです。一応最後に見回りだけでもしておきたいです。月乃姉ぇに任されたです」
「そうだな。なら三人で手分けするか」
ということで、見回りが終わり次第一旦は教室に集合ということでそれぞれで校内を一周することにしたのだった。
そうして三人が教室を出ようとした時、狩人は得体の知れない不安というか嫌な予感がしてパソコンを持ち歩くことにしたのだった。
***
「見回り、見回り。異常はないです?」
悟利はその小さな体躯も相まってお菓子を片手に歩く姿は高校生には見えなかった。それでもセブンスターズとしてやるべきことをやろうと自分が担当することになった校内一階から体育館にかけてを歩いた。
それで校舎内の異常がないことを確認すると最後に体育館に差し掛かった。すると何かを発見した。
「お前ら何か知らねぇか?」
「何をでしょう……?」
「オレらの仲間が消えたんだよ。誰が消したのか知らねぇか?」
あれは、仮生徒会の総務の南波です。一般生徒を恐喝してるです。助けないとです。
そう。南波が体育館の中にある目立たない場所で一般生徒を脅していたのだ。
実はさっきまでここで神野による集会が行われていた。もちろん革命に関する集会だ。それで護衛として同席した南波は集まった生徒達に目を光らせて怪しい人をピックアップしたのである。その数十人ほどだ。
彼らは相手が仮生徒会ということと、南波の気迫に気圧されて萎縮してしまっていた。ちなみに今は既に神野や他の仮生徒会員は生徒会室に戻ってしまっている。
「何してるです! やめるです!」
そこで双方の間に悟利が入った。
幼いながらも力強くよく通る声により双方が悟利の存在を認識し視線が集中した。
「なんだぁ? お前はあいつらの仲間のちっこいのじゃねぇか」
「小牧悟利です。恫喝してるように見えたです。すぐにやめるです。可愛そうです」
「ほう。お前ら、このオレに恫喝されてたのか? どうなんだ? あァッ!?」
「ぼ、僕達は……」
彼らは向けられたその気迫を前に言葉を詰まらせた。もちろん、その声音や雰囲気は怯えておりその先を続けることはなかった。
そんな心情を悟った悟利は南波に厳しい視線を向けた。
「間違いないです。怖がっているです。仮生徒会になったとしてもやっていいことと駄目なことがあるです」
「うるせぇな。オレは仮生徒会だ。正当に質問してんだよ。何も悪いことじゃねぇ。分からねぇのか!?」
「分からないです。それに、まだ仮です。本当に決まったわけじゃないです。本職はわち達です。だから駄目なものは駄目なのです」
悟利はその気迫を前にしても一切引こうとしなかった。そしてその瞳は幼い見た目には不釣り合いなほど凛々しく力強かった。そこには生徒会として、セブンスターズとして一般生徒を守らなければならないという責任が宿っていた。
対して南波の目にはじわじわとした殺気と欲の芽生えという禍々しい光を灯し始めていた。もちろん悟利はそれを察しており、後ろにいる一般生徒達をどうやって逃がそうかを考えていた。
「本職だと? でも今はオレらに権力がある。違うか!?」
「違うです! 権力の移譲も完了していないです。だから仮生徒会は名前だけで普通の生徒と変わらないです。大人しく帰るです!」
南波は正直なところ困惑していた。なぜなら、いつもなら自分のこの気迫と恐喝を前に大人しくならない奴はいないからだ。でもどうだろう。今彼の前にいる悟利という少女は物怖じすらしていない。南波のそれが一切通用していないのだ。
とはいえここで退くわけにはいかない。それは南波のプライドが許さなかった。だからといってどうするのか。もちろん答えは決まっていた。
「分かったなら早く―」
「うるせぇ!!」
直後、容赦のない拳が悟利の頬に入った。
鈍い音とともに体の小さい悟利は耐え切れずに倒されてしまった。
そんな光景を見た一般生徒達は狼狽し、一目散に逃げだした。
「おま、お前ら! 待ちやがれ!」
「は、早く逃げるです!! わちに任せるです!!」
南波が彼らを追いかけようとした。だが悟利はその足に抱きついて止めた。その目は真っ直ぐと南波を見ており、頬は赤く腫れていた。
よってそのおかげで生徒達は体育館から逃げ出すことに成功した。
「やっと…行ったです……」
「ふざけんな! あの中にいたかもしれねぇのに! どうしてくれんだよ!!」
南波は悟利を強引に引きはがすと、そのまま容赦なく蹴りつけた。その猛威は小さな体のいたるところに直撃した。それにより鈍い音や小さな声が漏れ出し、小さな口からは血が流れ出した。
「痛い……痛いです……」
悟利は必死に耐えていた。というのも、悟利のセブンスターズとしての戦闘力は極端なのだ。普段は非力であるものの、食事で蓄えたカロリーを一気に暴発させて放つ一撃はまさに必殺級。いくら放課後だからとはいえ、体育館の外では部活に勤しむ生徒達の声も聞こえていた。それに、こんな時に限っていつも結界を張ってくれている能徒がいない。だから激しい音を出す行為は出来ないのだ。
「唯姉ぇ、狩人兄ぃ……早くきて」
だから出来ることはひたすらに耐えながら二人の到着を待つことだった。
「オラァッ!」
「ぐふっ!」
次の蹴りが頬に入った。それにより意識が飛びそうになった。だがそれでも必死に耐えて意識を繋いだ。
悟利はもちろん気がついていた。南波の瞳がGreedのそれになっていることを。であれば、二人がこの気配に気付かないわけがない。それに、いつまでも戻らないことを不審に思って探しに出てくれるに違いない。
だから悟利はとにかく耐えて待った。
すると、そこに悟利にとって最悪なことが起きた。
「神様……どうしてです……?」
「お、いいところに来たじゃねぇか。神野」
「あなたの戻りが遅いから様子を見に来てみれば、生徒会の書記じゃない」
そう。仮生徒会の会長である神野が戻ってきたのだ。
「小池と朱里は?」
「生徒会室よ。一人にしたら何があるか分からないからね。で、その書記が何かしたの?」
「オレが調査をしていたらその奴らを逃しやがってよ。何か知ってんじゃねぇかって思ってんだ」
「そう。つまり拷問をしてたのね。いい趣味ね」
最悪です。二対一はわちには無理です。
悟利はせめて回復をしようと懐から小さなゼリー飲料を取り出した。そして口に運ぼうとしたその時だった。
「おっと、変なことはさせねぇぜ」
南波がそれを蹴り飛ばしてしまったのだ。
「ひ、酷いです。わちの……」
「酷いのはどっちだ? 本当は何か知ってんだろ?」
「何をです? わちはただ見回りに来ただけです」
「ほう。本当かねぇ!」
直後南波が軽い悟利の胸ぐらを掴んで持ち上げると、そのまま床に叩きつけた。
「お、いい音が鳴ったな」
「痛い……痛いです……やめてです」
早く来て。悟利はそれをただ願った。
そんな時、神野が何かを思いついたのか悟利の前にやってきた。
「なんです?」
「話さないなら、話したくなるようにしてみようかしらね」
すると神野が着けている例のイヤリングが妙な光を発し始めた。そしてそれを見た悟利の脳内にあることが思い浮かぶと
「それって……」
これはまずい。
そう確信したのだった。




