4-44 帰路の異変
「終了しました。そちらはいかがでしょうか」
地下での死体処理が終わると四人は地上階に戻り、能徒はそこで最終工程の作業をしている作業員に状況を問いかけた。
「はい、こちらでモノの確認をし丁度混ぜたところです。ご安心ください。今回も何も残りません」
「ありがとうございます。今回は多かったので大変かと思いますが引き続きよろしくお願いします。あと、近々また出てくると思います。具体的には最低四つほどかと。増える可能性もありますし、今回のように一時的に保管しておいていただく可能性もありますので、その際はご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」
「はい、承知しました。気にしないでください。これが我々の仕事ですし、前線の皆さんは生き死にを賭けた大変なことをしてらっしゃるのですから、それに比べたら大したことありません。我々は我々に出来ることをやらせていただきます」
「ありがとうございます」
作業員はこんな世にも恐ろしいことをしているとは思えないほど穏やかな顔をしていた。すると別の作業員がやってくると、全ての工程が無事に終了したと報告した。
「あとはこれを工事業者にお送りします。もうこれで完璧に消滅しましたので心配ありません」
「はい。そういえば、さっき星見様が問われていたことを今一度お聞きします。現在必要なものや不備はありますか?」
「ちょうどさっきの作業で機械の洗浄液と潤滑油が無くなりそうになりまして、それの補充くらいでしょうかね」
「分かりました。では明日中にお送りいたします。他はございますか? 何でも構いません」
「そういえば、大したことじゃないんですがね、先日社長が見に来られましてその隣にスーツ姿の誰かがいました。あれはどなただったのでしょうか」
社長。狩人のことである。
「……お仕事関係の方ではないでしょうか。ここに直接お客様を呼ばれるということはそうだと思います。視察されたのは上階だけでしょう?」
「はい。ここを一通り見られて談笑をしたのちにお帰りになりました」
「さようですか。ご報告ありがとうございます。お気になさらずで大丈夫だと思います。詳細は後ほど金錠様に確認します」
その会話を他の三人は神妙に聞いていた。というのも、ここでやっていることがやっていることであるため外部に情報が洩れるのはあってはならないことだからだ。
すると静也が月乃に視線を向けると、月乃は意図を察したのか静かに頷いた。
「それでは私達はこれで失礼します。もしまた何かお困り事がございましたら遠慮なくおっしゃってください。では本日もありがとうございました」
そうして一行は工場を出た。
そこから少し歩いた人気のないところに行きと同じ車が停車して待っていた。それを発見するやいなや、再び席順のじゃんけんをしたのだった。
「どうして私は学ばないんだろう……」
帰りもやはり月乃は不遇だった。対して能徒と愛枷は
「神は……私達を……見放さな…かった…」
「はい。まさに神に感謝です」
月乃が助手席、他三人は静也を中央にした後部座席だ。
後ろの声も何をしているのかも前の運転手や月乃には一切見えないし聞こえない。完全に隔たれた空間で女子三人が一喜一憂した。
「鬼のいぬ間に……」
車が帰り道を走る。その間だけはバレずに好きなことが出来る。もちろん時間は限られている。
すると愛枷が早速行動を開始し、静也の方に体を寄せて密着させた。
「俺が後ろだと狭いよな。ごめんな」
「ううん……平気…」
本当はもっと密着したい。手を握りたい。すりすりしたい。愛枷はそう思っている。もちろんそんなことを察している能徒も負けじと行動に移した。
「あ、すいません」
車が曲がったのを利用して静也に接近し抱き付いたのだ。いかにもわざと。誰が見てもそう思える所業だが、静也のそういう鈍さを知っている能徒は自然的にふるまいながらもこれは通じると判断したのだ。
ふわりと揺れた青い髪と形の良い胸が静也に当たり、柔らかな感触を与えることに成功した能徒は達成感を得た。
「大丈夫か?」
「はい。帰りの運転は多少荒いようです。私が静也様のシートベルトになります」
「……ん?」
「ご安心ください。何があろうと絶対に車外に飛び出すようなことはさせません」
ということで能徒は静也の身の安全を保障するという名のホールドを決め込んだ。するとそれを見た愛枷が
「ん?」
「片側…だけだと……不安定……こっちは……私が…支える……これで安心」
同じく静也を支えるという体で抱き着くと華奢な体を密着させた。当然その長い前髪の奥ではにんまりと微笑み、満足そうにしていた。途中で愛枷と能徒の目が合うと確かに頷き合った。
ということで完全に密着された静也は、両側から香るそれぞれの匂いと柔らかな体に動揺しつつももうこうなった以上は離れてもらうのも悪いし、自分の安全を守ってくれているならとそのままにしておくことにしたのだった。
無論、なんか女を侍らせている陽キャみたいで変な気分だなと思ったりもしていた。
「今のうち……今のうち……」
「着いたら何も出来ない」
「何か言ったか?」
「いえ」
「うん……なにも……」
「そうか」
そのまま車が進んでいった。
対して月乃はというと、後ろの状況とは正反対にあることに悩まされていた。それに気が付いた運転手は
「到着までもう少しだけお待ちください」
と言って道を急いだ。そんな月乃の身に何が起きていたかというと
「頭が……痛い……」
鈍い痛みが継続的に発生し両手で覆うようにして頭を抱えていた。
月乃はこの痛みの正体を知っていた。だからどうにかしてスマホを取り出すとある人に電話をかけた。
「星見か。ちょうど電話をかけようと思っていた。お前からかけてきたということはそういうことだな?」
学校に残った狩人だ。
「うん……頭が痛い。多分そっちに持ってる人がいる…… だから気を付けて。私達はもうすぐ着くから」
「分かった。実はもう場所を特定している。今は小牧が対応中だ。姉ヶ崎も向かっている」
「そう。でも無理はしないで。無理なら…撤退だよ」
「分かった。だが星見、眼鏡と帽子は持っているのか?」
「……ない」
「ならお前は家に帰れ。他三人と僕達で対処する」
「でも……」
「大丈夫だ。無波もいる。悔しいがあいつはそう簡単に負ける奴じゃない。任せろ」
「……分かった。ありがとう」
そうして通話が終了した。
「運転手さん、三人は学校。私は家にお願い」
「分かりました。急ぎます」
またここで車のスピードが上がり、カーブもどこか荒々しく曲がった。車内はいつもよりも慌ただしい雰囲気に包まれ、時間と学校に近づくにつれて月乃の頭痛も増していった。
「どうしてこんな時に……」
月乃は学校に残った三人を心配に思い、一刻も早く到着してほしいと、無事でいてほしいと願ったのだった。




