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楽園の欲祓師  作者: 翡翠ユウ
Interlude Ⅲ

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4-43 処分と気遣い

「お待たせいたしました。到着でございます」


 工場に到着した四人が車から降りると、それぞれがかつて来たその佇まいを前にした。

 そうして車が去っていくと周囲に他に誰もいないことを確認して中に入ったのだった。


「お待ちしてました。()()は下へ落としてありますのでそのままお向かいください」

「ありがとうございます。本日は私含め四人と多いですがお気になさらず」


 中で作業員が能徒を見つけるなり状況を報告した。すると月乃(つきの)が彼に問いかけた。


「仕事をするうえで何か困っていることはない? 機械とか部品とか何でもいいよ」

「そうですね…… お蔭様で今のところは特に」

「そっか。また帰る時に聞くから、その時に何かあったら言ってね」

「ありがとうございます」


 月乃の今回の目的は工場の様子の確認と作業員達に必要なものを聞くこと―ということになっている。本当のところは当初静也(せいや)に協力を求めた能徒(のと)と、同行することになった愛枷(まなか)の監視である。

 もちろんそんな目的は言わないが、静かに継続的に二人の様子を窺っていた。


「星見様、それから深見様もよろしいでしょうか?」

「うん。行こうか」

「大丈…夫……」

「静也様も」

「あぁ」

「今回も予め伝えさせていただきます。本日の処理は五人です。解体後の量も多くなるのは間違いありません。ですので途中でご気分が悪くなったりした際は遠慮せずにおっしゃってください。特に星見様。どうか無理はなさらず」

「うん、ありがとう」


 出発前にしていたような気遣いと言う名の帰還を促す言葉はこの場では完全に気遣いに変わっていた。それほどまでに五人という量は多いのだ。もちろん、これから見ることになるグロテスク極まりないものは耐性がないとかなりキツイ。いや、耐性があってもキツイ光景だ。

 だから能徒は真剣な顔つきで全員に伝えたのだった。


「では参りましょう。ご存じの通り危険な機械が多く、高所を歩くこともありますのでご注意ください」

「能徒もな」

「ありがとうございます」


 そうして一行は地下にある解体場へと向かっていった。

 道中はやはり相変わらず多くの巨大な機械と無骨な鉄の足場があったりした。もちろん注意深く進むのだが、そんな中でも静也の隣は月乃が独占していた。

 能徒は歩き慣れた道ゆえに案内を兼ねて先頭を歩くのは当然である。愛枷はどこを歩いても不自然ではないゆえに、自然的に静也の隣を歩こうと考えていた。だが、それを阻まれたことによりその後ろもしくは前を歩くしかなくなった。


「横に並ぶと狭くないか?」

「そう? 気のせいじゃない?」


 静也の問いかけにいつも通りの感じで答える月乃。それを羨ましそうに見ている愛枷と、背中で感じとっている能徒。


「少々お待ちください。今開けますので」


 そうしてかのセキュリティゲートに到着すると、能徒が開錠のために認証を開始した。こればかりは能徒もしくは狩人(かぶと)でなければ開けることが出来ない。また、ドアノブでさえも二人以外の人が触れた時には即死トラップの餌食になってしまう。

 それもこれも全てはやっていることが非合法の死体処理であることに所以し、その情報が洩れてしまうのを防ぐためだ。また、万が一にも部外者の侵入を防ぐためでもある。

 だから他の三人は大人しく待っていた。


「お待たせしました。参りましょう。扉のどこにも触れないようにお願いします。本当に死んでしまいますので」


 扉が開くとそこからさらに地下へ降りて行き、ようやく到着した。するとそこの奥には地上階から落とされた五つのキャリーケースがあった。そのそれぞれの中には仮生徒会のメンバー二人を含め、運悪く処分されてしまった三人の死体が入っている。


「お手数ですがご協力ください。私が二つ運びますので、皆様は一つずつお願いします」

「いや、俺が二つ運ぶよ。重いんだから大変だろ」

「しかし……」

「いいよ。こういう時の男手だしな」


 能徒は既に二つ持っていた。しかし静也は片方を取って二つ運んでやることにした。


「ありがとう…ございます。静也様」

「いいよ。俺、道を覚えるの苦手だからまた案内は頼むな」

「はい、お任せください」


 ということでそれぞれがキャリーケースを所定の処理場所へと運んでいった。道中、先頭を歩いている能徒はみんなにバレないように頬を赤く染めてうつむいていた。

 メイドという立場上、主人の役に立つのが務め。だからこういうふうに扱われることが極端に少ないのだ。それがあっていまだに慣れないその対応に照れてしまうのだった。


「むぅ……優しくしちゃって……」

「羨まし……」

「何か言ったか?」

「何も」

「気の…せい……」


 月乃と愛枷は羨望の眼差しで能徒を見ていたが、もちろんそれぞれの長い前髪のせいで静也が気付くことはなく、さらにはその言葉も聞こえていなかった。

 まったく。それが正直な感想の二人。


 そんなこんなでようやく目的の場所に到着すると、四人は立ち止まって予め渡されていたマスクと手袋を装着した。そしてそれぞれのキャリ―ケースを開けると


「うわ……」


 月乃が素直な声を上げた。それもそのはずで、月乃が開けたのは石川が入っていたキャリーケースだった。それは最も古く、ゆえにそれなりの腐敗が進んでいた。また筋弛緩により色々なものが体内から出てしまっており、鼻を突く異臭が周囲に漂った。


 続けて愛枷と静也も開けた。それらには鈴原の親衛隊の男子三人が収まっていた。もちろん彼らもまた腐敗と、傷口に湧いた蛆により強烈な臭いを発していた。


「能徒。入れていい?」

「どうぞ。機械は稼働しておりますので落ちないようにお気をつけください」


 一番最初に我慢の限界がきたのはもちろん月乃だった。

 早くこの悪臭を消したい。そう思って眼下に見える粉砕機へ向けて器用に死体だけを放り込んだ。そしてその肉塊がゴウンゴウンと音を立てて回転を続ける歯車に接触しそうになった丁度その時だった。


「わわっ」


 月乃の視界が完全に暗くなった。


「こういうの苦手だっただろ? こうすれば見なくて済む」


 静也が気を遣って月乃の両目を後ろから手で覆ってやったのだ。また、その様はまるで月乃を後ろから抱きしめているような体勢になっているため、月乃はどきりとした。

 そんな何も見えなくなっている月乃のすぐ下では生々しい音が鳴っている。その根源では肉塊が骨ごと砕かれ、引き裂かれ潰されてを繰り返して見る見るうちにミンチになっていった。そして下の専用の場所に溜められていった。


 静也は月乃の体をそのままゆっくりと後ろに回転させると両目から手をどけた。


「終わったけどまだ四回もあるんだから別のところを見ているんだぞ?」

「……うん、ありがとう」


 月乃は思わぬ親切につい頬を赤らめた。

 その後は続けて静也が二人分、それから愛枷が一人分の計三人を放り込んだ。

 やはり良い景色ではないので月乃を別の方に向かせておいて良かったと思った静也だった。

 そして最後は能徒の番となったが


「静也様、少しだけあちらを向いていていただけますか?」

「ん? まぁいいけど。愛枷、能徒に何かあったら助けてやってくれるか?」

「うん……」

「ありがとうございます」


 静也がそっぽを向くと能徒がスーツケースを開けた。もちろんそこには鈴原が入っているわけだが、彼女には大々的な怪我はないこともあって変に虫が湧いていたりとかはなかった。しかし、頭部はひどい有様で誰かに見せられるものではなかった。

 すると愛枷が小さな声で問いかけた。


「静也くんに……見せたくなかった……の?」

「はい。この人は静也様のお言葉やご意思を否定した方です。謝罪させたとはいえ、やはり静也様のお目汚しになりますので」

「そっか……許せない人……なんだね」

「はい。絶対に。だから私がこうしました」


 そこで愛枷が先日生徒会室に捨てられていた片方のツインテールの謎を理解したのだった。

 すると能徒はスーツケースごと粉砕機に落とした。きっとその意図は、好きな人を否定した彼女が触れた物を近くに置いておきたくないからだろうと愛枷は察した。

 眼下では彼女もまた彼らと同じように無惨に砕かれていき、原型が無くなるとこれも彼らと同じ場所に溜められたのだった。


「静也様、ありがとうございました。終了しました」

「そうか。あれ? スーツケースは?」

「誤って落としてしまいました。また購入します」

「そうか。愛枷、能徒を見てくれてありがとうな」

「うん…… あっ」


 静也はそんな愛枷の頭を撫でた。そしてつい悪戯心に前髪をめくった。するとそこには円な蒼い瞳で照れている整った顔があった。


「静也、愛枷が困ってるよ?」

「ごめんごめん。つい」

「……」


 離れていく静也の手。愛枷は名残惜しそうに見ていた。


「皆様、お手伝いいただきありがとうございました。あとはこれを上に運びますが全自動となりますので、私達も上へ行きましょう」


 ということで最後に粉砕機にこびりついた肉片や血液、脂などを洗浄するために、まだ稼働中のその中に特殊な薬品が入った包みを投げ入れた。すると、歯車が回転するたびに綺麗に磨かれていった。

 そうして四人は再び上階へ戻ったのだった。

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