4-46 非常事態
四人を乗せた送迎の車がようやく学校に到着した。直後、まだ車内だというのに月乃以外の三人もまたそこで起きている異常を察知した。
「静也様」
「あぁ、何かやばい。月乃ちゃん人形が震えている」
月乃ちゃん人形。
それはかつて狩人がメンバーに渡した、水晶髑髏の反応を感知するために作成したアクリルスタンドだ。それが震えているということは、よりにもよって学校でそれ関係の異常が起きているということを示しているのだ。
ということですぐさま車から降りた静也は一目散に助手席のドアを開けた。すると
「月乃!」
「静…也……」
そこで月乃が頭を抱えてうずくまっていた。それはやはり彼女の中にあるヘッジススカルが共鳴を起こしていることを意味していた。
続けて能徒と愛枷も月乃の様子を確認した。
「月乃、眼鏡と帽子はどこに?」
「家……だから、ごめん。私は帰るよ。狩人に連絡したらもう対処してくれているって言ってた。でも痛いから終わってない。だからみんなは早く行ってあげて。悟利と唯が先にやってるはず」
「分かった。こっちは任せろ。能徒、愛枷」
「はい」
「うん……月乃ちゃん……こっちは心配…しないで……」
「……ありがとう。任せたよ……」
直後、車が発進し月乃の家へ走り始めた。
「水晶髑髏の他にGreedの反応は一つ。追加で感じる反応は唯と悟利だな。急ごう」
そうして三人は察知した反応に向けて急いだ。
***
仮生徒会会長の神野が悟利に近づいた。
するとたちまち耳にあるイヤリングが奇妙な光を放出し始め、その光を見た悟利は本能的にまずいと確信した。
「何かあるなら話したくなるようにするだけ。大丈夫、素直に話してくれたら苦しくないから」
「いや、嫌です。わちは何も知らないです。離れてほしいです」
抵抗する悟利。そしてどうにかして立ち上がって逃げようとするも、同じく近くにいた南波によって体を踏まれて動けなくされてしまった。
「やっぱりなんか知ってそうだな。で、どうやってやるんだ?」
「簡単よ。私の本能がこうやれって教えてくれているの。南波、あなたはそのまま押さえていなさい」
「よく分からねぇが分かった。これで石川と鈴原をやったのが誰か分かるんだな」
神野が悟利の額に手を伸ばした。その手は悟利の目には禍々しい光を纏っているように映った。もちろん抵抗するも、動けないためついにその手が悟利に触れた―いや、触れようとした。丁度その時だった。体育館の入り口から轟音が響いた。直後
「あらあら、何して遊んでいるのかしら? お姉さんも混ぜてほしいわ」
「唯姉ぇ……」
ようやく唯が到着したのだ。そして悟利の置かれている状況を瞬時に把握すると、次に神野のイヤリングに視線がいった。続けて、以前に狩人から受け取ったアクキーが震えていることに気がついた。
「鍵は閉めてあったんだけど、どうやって入ったのかしら? 元生徒会の姉ヶ崎唯さん」
「女の子の秘密よ。仮生徒会の神野。それで、ウチの悟利ちゃんに何をしているの? 南波って言ったっけ? 今すぐその足をどけないと、二度と地面を踏めなくなるわよ?」
「ほう。このオレを脅そうってか? 上等じゃねぇか」
「うぐっ」
まるでやれるものならやってみろ。そう言っているかのように悟利をさらに踏みつけた。そんなことをされている悟利はどうにかしてこの状況から抜け出そうと考えていた。それと同時に、このままだと自分はただの足手まといになると考え、来てくれた唯に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「外が気になるの? 大丈夫よ。既に体育館の周りには規制線を張ったから他の一般生徒は入ってこないわ」
「そう。ならもう気遣いなんていらないわね。私達もこれでも他の生徒達の目は気になるのよ。感謝するわ」
「それで、お前はこいつを助けに来たってことでいいんだよな? なら、こいつと同じく何かを知ってるってことだ。つまり、お前らが黒幕だな?」
「何のことかしら? お姉さんはただ悟利ちゃんを取り戻しにきただけよ? おイタをする悪い子達からね」
唯は悠然と微笑む。
もちろん事実を話すわけにはいかない。いくら仮生徒会の行動に対して対処として処分をしている身としてもだ。それに、そんなことを話したら今囚われている悟利がどんな目に遭うか分かったものじゃない。
すると、唯は瞳にほのかなピンク色を灯し始めると、その光で南波を見た。だが驚くべきことに
「あら?」
「どうかしたか?」
どんな男でも骨抜きにしてしまう唯の能力、魅了が通じなかったのだ。無論、それに気付いている悟利は何も言わなかったが驚いていた。
そこで唯がなぜ通じなかったのかを考えた。すると、やはり結論は神野のイヤリングではないかというところに至った。
魅了で南波を操って悟利を解放。そこから仲間割れに見せかけて神野を襲わせる。その隙に退却というのが唯の筋書きだった。でも初期対応が出来なかったことで次の行動が二択に迫られた。
一つは単騎で突撃してまずは一瞬で南波を始末する。そこから悟利を助け出して続けて神野も始末する。
もう一つは同じく異常を察知している狩人を待って数的に同等になってから行動を起こす。
そもそも二人をここで逃がすわけにはいかないのだ。今は誰もここに入ってこないとはいえ、逃げられて変なことを校内に広められてしまったら問題になってしまうのである。
「唯姉ぇ……」
悟利は悔しそうに見ていた。自分はどうして何も出来ないのだろうと。
神野もどうすべきかを考えていた。
こちら側には人質がいる。だから優位に見える。だが、さっき言っていた規制線を張ったという言葉が気になる。もし本当なら気にせずに事を進められる。もしも嘘なら、大掛かりなことをして騒がれでもして人が集まってきたら革命を起こすために今までやってきたことが水の泡となる。
それに、姉ヶ崎という女。一切物怖じしていない。まるでこの状況でもどうにか出来ると言っているかのようなそんな雰囲気だ。
あと、前々から気になっていた石川と鈴原を消したこと。それを本当に知っているのだとしたら小牧か姉ヶ崎のどちらかは生かしておかなければならない。
それぞれの心の中で考えが渦巻いていた。
だが共通してあるのは、下手に動くことが出来ないということだ。
時間の経過に関して唯は狩人を待つことが出来るため良い。だが、そのためには二人をどれくらい足止め出来るかが鍵となる。
対して神野は時間の経過はあまり望んでいない。なぜなら、生徒会面々の増援を否めないからだ。そうなってしまえば、人質がいるとはいえ状況は一変する。だから今のうちにどうにかしたいのである。
「焦っているように見えるけど?」
「まさか。そっちはそのままでいいの? この子、南波にかかればすぐよ?」
「出来るのかしらね。悟利ちゃんはそう見えてかなり強いのよ? 油断していたら二人まとめてボンよ?」
「ハッタリね。強いなら自力で抜け出すもの。南波、油断をしたら駄目。分かってる?」
「もちろんだ。しっかり押さえておくからよ」
「ごめんなさいです……わちのせいで……」
拮抗した会話。そんな時だった。
「あれぇ? これはどういう感じ? 俺っち混乱中ぅ」
「わたくしも分かりませんわね。でも、生徒会が何かをしたってことは分かりますわ」
唯にとって最も望まないことが起きた。それは残りの仮生徒会の小池と朱里がやってきたのだ。
なんて運がいい。神野はそう思った。だが、もちろん唯は最悪だと思った。
「姉ヶ崎。どうやらさっきあなたが言っていた規制線ってのは嘘だったようね。それに、私達は四人で人質がある。対してそっちはあなただけ。どうする? 素直に口を割る?」
「だから何も知らないわよ」
本当にどうする? これでは時間稼ぎもまともに出来なくなった。
唯は平静を装いながらも必死に考えた。だが、そんな中でも確かなことがあった。それは、
「というか、規制線を越えることが出来たのね。すごいわね」
「神野っちの話を聞いてたか? そんなものは無かったよ。だからこうして俺っち達が入れたってわけ」
そう規制線を割ることが出来たということだ。
唯は確かに規制線を引いていた。でもそれは特殊なものだったのだ。よって、それを越えたということで唯は確信した。
「あなた達、やっぱりもう駄目になっているわね」
後から入ってきた二人もまた救いようがないということを。




