4-41 それぞれの悩み
「さっき出てくるの遅かったけど、何かあったの?」
セブンスターズの事務所を出た一行はそれぞれの帰路へと立った。そして能徒とも別れていつも通り月乃と静也だけになると、月乃が静かに問いかけた。
街頭が照らす夜道。そこには他に誰もいないためその声は妙にしっかりと静也の耳に届いた。
「あぁ、明日の放課後に今日までに出た死体の処置を手伝ってほしいって言われたんだ。まぁ、五人だから能徒だけだとさすがに大変だからな」
「そう。また二人で行くの?」
「今回は愛枷も一緒だ。だから三人かな。月乃も行くか?」
「三人か……」
月乃は少し考えた。
相変わらず両目を長い前髪で覆い隠しているため表情は分からない。でもその口元はむっと強張っているため静也は次の言葉を待つことにした。
「考えておくよ。でもあれを見ることになるのはなぁ……」
複雑な気持ちといった様子の月乃。
だがそんな月乃でも今回は三人でとはいえ少し引っかかっていた。というのも能徒はかの女子会で手を出さないと宣言していたが、愛枷については面と向かってライバル宣言をしていたのだ。さらに静也からの評価というか印象もいい。
「どうしようかな……」
まさにそんな迷いの気持ちでいっぱいだった。
もちろん、そんな気持ちや裏事情なんて知らない静也は
「まぁ、見るものが見るものだからキツイのは分かってるし。三人でも大丈夫だから気にしなくていいよ」
と言うのだった。
まったく、そういうことじゃないんだよなぁ。月乃はそう思うももちろん言葉に出したりはしない。それでも月乃はそんな静也の袖をきゅっと握った。
「……考えておくよ」
それから月乃はそのままの状態で一緒に歩き続けると静也の家の前に到着した。でも袖を離すことはなかった。
静也はそんな月乃を見て少し心配になり
「明日学校だけど泊まるか?」
と提案した。すると月乃はこくりと頷くと、今回はそのまま静也の家に入ったのだった。
***
時を同じくして帰宅した仮生徒会の神野は自室で考え事をしていた。その内容はもちろん連日のメンバーの失踪についてである。
「石川も鈴原も死んでるわね。誰が私達にこんなことを……」
その二人は仮生徒会でもそこまで喧嘩が強いメンバーではなかった。とはいえ、会計と書記を失ったのだ。このまま仮生徒会を継続出来たとしてもこの空白は痛い。特に会計という財務関係は必須の役職ゆえに、今後本当に生徒会として君臨するならなくてはならない要職だ。
主な役職を潰して機能不全にしようとしている?
いやいや、それなら会長である私を狙うのがセオリーだ。でもまだ今のところは何もない。
もし私が襲撃をする立場なら、会長と会計は真っ先に狙う。そこから重役順に潰していく。本当に機能不全が目的なら、今私が無傷ということで予想も目的も成立しないことになる。
なら何が目的?
石川は休みを何よりも重要視していた。ゆえに良くも悪くも目立つタイプではなく、誰彼構わず被害を出すような人ではない。だから怨恨というのは考えにくい。
鈴原は自分の意見や行動が全てと言い、何もかもが自分の思う通りにいかなければ豹変する。さらに容姿に謎の自信を持ち、校内に親衛隊なるものを抱えている。心酔している彼らを駒使いし、それに対して報酬は与えない。搾取するだけ搾取して不要になったり狂いだしたら切り捨てていたりもした。つい最近生徒会室に乗り込んできた親衛隊二人に対して躊躇なく処分の決断をしたほどだ。
恨みは買っていてもおかしくはない。現にアレー剥ぎ取られた鈴原のツインテールの片側が生徒会室に投げ捨てられていた。そんなことをするのは強い恨みを持った人に違いない。
神野は広い部屋で一人考えた。
怨恨説でいけば石川の場合が成立しない。重役説でいけば自分が生きていることで成立しない。
本当に理由が分からなかった。
それゆえに実は内部からの裏切り説も考えたが、我こそが会長になるという目的があるためであれば成立しないでもないが、なぜ会長である自分を狙わないのか。なんなら今日まで自分には何も被害らしい被害がなかった。だから裏切り説も成立しない。
「誰がこんなことを……」
考えれば考えるほど訳が分からなかった。
すると、頭の片隅にあったことがふと浮かんだ。
「元の生徒会は何をしてるのだろう」
そう。月乃達だ。
一応その動きは時折見ていた。しかし見ている時は各教室でみんな大人しく勉学に励んでおり、いたって普通の学生として学校生活をおくっていた。でもたまにどこにいるのかが分からない時があり、きっとみんなでどこかで昼食でも食べているのだろうと思っていた。
ならば生徒会の面々は関係ないか。もしも今回の件に関わっているのだとしたら、生徒会の席を確実に取り戻しにきている。それに、生徒総会で大事な生徒会の席を貸し出す奴だ。何かをしたとしたら必ず証拠を残してしまうに違いない。
普通は席の貸し出しなんてしないから。そんなことは愚か者のすることだから。
という持論のもとで生徒会の面々がやったという説も排除した。してしまった。
ならば本当に誰がこんなことを?という根本の命題に戻るわけで、神野にはもう何も浮かばず分からなくなっていた。
「でもこのままだとまた誰かがやられる気がする。それは自分かもしれない。そんなことはあっては駄目よ。だって私はゆくゆくはこの世界に革命をもたらすのだから」
争いも貧富の差もない平和な世界を作りたい。
それが神野の最終的な目標だった。そのために星条院高校の生徒会長になり、小規模の組織から革命を起こす。そして少しずつ規模を広げていって最後は世界へと手を伸ばす。
それを叶えるためにこんなところで死んでいいわけがない。
自分だけは死ぬわけにはいかない。そう思った神野はあのことを思い出して机の抽斗からある物を取り出した。
「千取さん、力を借りるわ」
かの千取から借りた水滴の形をしたイヤリングだった。それは着ければ圧倒的な頭脳と力が入るという代物だった。
着けてもどうせ気のせいだろう。正直そう思っていた。だが、こうも今の自分の頭では分からないことがあり、この先のことを考えた時の不安から僅かでも解放されるならと信じてみてもいい気がしてきていた。だから試しにそれを片耳に着けてみたのだった。
「特に何も感じないわね」
鏡で自分の様子を見ても何も変化がなかった。だがアクセサリーとしては似合っていた。
やはり気の持ちようなのかもしれない。そう思って外そうとしたその時だった。
「……!?」
その耳からじわりじわりとした熱と得体の知れない力が全身へ回り始めた。そしてそれは不思議と自分から不安も迷いも消え去り、自信をもたらすと同時に心が落ち着いていったのだった。
神野は片耳しか着けていなかった。でも確かに感じたこの感覚。もしも両耳に着けていたらもっと強いのかもしれない。それこそ本当に圧倒的な頭脳も力も手に入るのかもしれない。
そう感じたが、神野はどうしてか本能的に今は片方だけで十分と思いもう片方は箱にしまったままにした。
学校へ不要なアクセサリーは禁止。だが、これは必要なもの。鈴原ではないが、私がいいと思ったものだから必要なもの。何かあれば会長権限でどうとでもする。
ということで明日からこれを着けていくことに決めたのだった。また、もう片方は念のため持っていくことにした。それこそ、本当に困った時に着けようと考えていた。
「これで大丈夫」
イアリングによりもたらされた自信。それは今の彼女には十分すぎるほどに効いたのだった。




