4-40 共有と疑問
「そう。分かった。ありがとう、愛枷」
「うん……」
その日、セブンスターズの事務所に集合していたみんなのところに愛枷が遅れて戻ってきた。そしてついさっき生徒会室で話されていたことを全員に共有したのだった。
「そういうことだから、仮生徒会はいまだに誰が仲間達を狩っているか気づいていないみたいだよ。それはそうだよね。今まで校内で好き勝手してきたんだし、色んな人から恨みも迷惑も買っているんだから誰から狙われてもおかしくないって思考になるよね」
「そうだな。僕も今日まで数日見てたが奴らは敵を作りすぎだ。今後も特定は無理だろう。目撃者でもいないかぎりはな」
「それもないと思うです! だってみんな人目を避けているからです。それに、困ったら能徒が結界を張ってくれるです! 頼もしいです!」
「はい。絶対に誰にも見つかることはありません」
確信の様子でいつものように全員にお茶を淹れてそれぞれの前に置く能徒。すると狩人がずっと思っていた疑問を投げかけた。
「ところで、どうして始末した奴のモノを奴らに分かりやすいところに残しておいたんだ?」
「そんなことも分からないのか? その眼鏡はダテか?」
「んだと! ならお前は分かるのか?」
「言わなくても分かる。月乃の指示だろ?」
「それは僕にも想像がつく。でなきゃ能徒が毎回こんなことをしないだろ。それで、お前にはちゃんと分かるのか?」
「当然だ。な? 月乃」
「静也兄ぃ、絶対に分かってないです。わちも分からないです。どうしてです?」
ということで全員の視線が月乃に集まった。すると月乃がにこっと口角を上げて答えた。
「だってそうした方が向こうに追い詰められているって思わせられるから楽しいじゃん。―っていうのは半分嘘。本当は、警告なんだよ。仮生徒会の人達は好き勝手やって生徒達に危害を加えたり、今みたいにどこかしらで欲をもって力を奮ってる。だから、やめないと次は誰かな?っていう警告だよ。まぁ、愛枷の話を聞く感じだと当事者なのにも関わらず気づいていないみたいだし、きっとこの先も分からずに震えるんだろうね」
「そうだ、金錠。分かったか?」
「お前もだ、無波」
「いがみ合わないの。でも月乃ちゃん、もしも仮生徒会の人達が本当に止めたらどうするつもりなの? それこそ改心して学校を平和にしようとしたら生徒会の席が危ういんじゃない?」
「それはない……よ。言い…切れる……」
と愛枷が答えた。
「だって…神野は……革命とか…言って……たし、生徒総会でも…絶対に……引き下がらない…みたいな…ことを…言ってた…から。それに、生徒会室で……ずっと…監視…してたけど……そんな雰囲気も…撤退も……改心も無いって……感じ…だったよ」
「そうだよ唯。神野みたいなタイプはいい意味で最後まで諦めずにやり遂げる子。でも悪く言えば退きどころが分からない子なの。諦めが悪くて褒められる場合もあるけど、今回は真逆。冷静に状況とか自分達の行いを見て理解していないともれなく全滅になるんだよ。まぁ、全員Greedだから最終的には私達が始末するんだけどね」
月乃は相手の心理や行動、周りの状況を見て理解し何手も先を見ている。それで最善の手を選択し仲間達に共有しながら盤面を支配している。
地味な外見で物静かで口元でしか感情が図れないこともあって、その思考の深淵は誰にも予測が出来ていなかった。
「それで、あとは誰が残っているんだっけ?」
「なんか映画とかアニメとかの悪役が言うセリフみたいだな。それで次は誰を消そうか?ってか?」
「私は悪役じゃないもん。確認しているだけだもん」
そこで月乃がむっと口元を強張らせた。それは年相応の無邪気さというかお茶目さを含んでいた。
「残りは会長の神野、副会長の朱里。企画の小池と総務の南波の計四人です」
「そっか。それで小池には愛枷が、南波には能徒が張り付いているんだね。感付かれている感じはある?」
「ない……」
「まったくです」
「うん。ありがとう。それじゃ継続ね」
「月乃はどうなんだ? 神野に付いているなら気づかれてないか?」
「私も平気だよ。というか、この数日見てたけど、自分から何かを起こしている気配がしないんだよね。それでも宣伝活動とか演説はしてるけど。あ、でも元気が無さそうな人とかそういう人には親身になって話をしてたりしてるよ」
「なるほど。革命だなんだと言ってるわりにはよく分からんな」
「聞いてる限り神野だけみんなと逆のことをしてるです。弱きを助け強きをくじくみたいな、そういう感じに聞こえるです」
「だな。それで神野は表でも裏でも一般生徒に危害を加えていたりはしていないってことでいいんだな?」
「うん。だから私としても見てるだけで介入してないよ」
「でも気を付けたほうがいいぞ?」
とみんなが不思議に思っているものの、平和そうならいいかという判断に至ろうとしたところで狩人が口を挟んだ。
「僕の知っている限りだと、そういう善人は滅多にいない。かの偉人ガンジーも裏では暴力をしていたらしいし、マザーテレサでもそういう話があるくらいだしな」
「何が言いたいんだ?」
「絶対に何かあるってことだ。100%善人なんてこの世にいないからな。社長をやっていても思うことだ。Win-Winだなんだといっても最終的には自社の利益の方が大事だから、どこかしらで甘い蜜をすすろうとするんだ。だから安心して油断はしないほうがいい。むしろ警戒の域だと僕は思うね」
「狩人兄ぃはひねくれているです。きっとそういう汚い大人の世界を見すぎたんです。美味しいお菓子をあげるです。心を癒すです」
悟利がそう言うと、手に持っていた饅頭を狩人の机にそっと置いてやったのだった。
「可哀そうな金錠。それなら俺は心温まる平和な童謡の本でも買ってあげよう」
「二人してやめろ。きっとお前らも分かる時がくる。絶対にだ」
「こういう大人にだけはならないようにしような? 悟利」
「はいです。人の心はみんな温かいです」
「僕はまだ高校生だ。―つまり星見、神野は怪しい。だから気を抜くな。いいな?」
「まぁそこまで言うなら。確かに生徒総会でメンチ切ってたもんね。これで終わりなわけもないもんね。分かった。もちろん最後まで気を抜かないから大丈夫だよ」
「何かあったら俺に連絡してくれたらすぐに行くからな?」
「ありがとう」
「僕とは大きな差だな」
「お前も同じように言われたいのか? 寂しがり屋だな。気持ちが悪い」
「そう思うお前も十分に気持ちが悪い」
そんなこんなで共有と今後の方針が決まったことで今日も解散になった。次々とみんなが事務所から出て行く中で能徒が静也に歩み寄った。
「どうかしたか?」
「実はご報告とご相談がありまして」
「うん」
「まずはご報告から。先日静也様の言葉を否定した鈴原は私がしっかりと始末しました。鈴原には誠心誠意謝罪させ、静也様のお言葉やご意思が正しいことを認めてもらいました。ですのでご安心ください」
「ん……? 別に俺は謝罪は求めてなかったけど」
「いえ、お気持ちを害されたのですから必要です」
「害されても―」
「必要です」
「そ、そうか。ならありがとうな」
「はい。お次はご相談です。また工場での処理をお手伝いいただければと思います。一旦は工場の方に死体を運びましたが処理にはいたっておりません。数が数なのでご一緒にお願い出来ればと」
「あぁ、いいよ。でも死体だと見つかると大変だからすぐの方がいいよな。明日でいいか?」
「はい。ありがとうございます。では二人で―」
「能…徒……」
その時能徒の後ろからぬぅっと愛枷が現れた。
他のみんなは事務所から出たのに二人だけ出てこないことで不審に思い、念のため非認知で様子を見ていたのだ。
急に出てきた様はまるでホラー映画の演出のようだった。
「ふ、深見様。もう出られたかと思いました。忘れ物ですか?」
「私も…行く…… いいよね……? 静也くん……」
「まぁ俺はいいけど。人数がいたほうが能徒も楽だと思うし。いいよな?」
「は、はい…… でも、深見様も抜けてしまうと監視はどうするのですか?」
「放課後に……行こう…… そうすれば……みんな…安心……学校も…安全……」
「だな。悪いな、能徒。そういうことにしよう」
「分かりました。では放課後に」
せっかく二人になれると思っていた能徒は残念に思うも決して表には出さなかった。対して愛枷は
「そうは…いかないよ……?」
と全てお見通しといった目と雰囲気を能徒に向けていた。
そうして約束した三人も外に出ると、それぞれの帰路についたのだった。




