4-39 満足の顔と動揺する四人
校舎三階にて仕事を終えた能徒は、自らの下で息絶えている無惨な鈴原を見下ろして満足とも達成感ともとれない、ただ当然のことをしたという顔をしていた。
「終わったんだな」
「金錠様。はい。先ほど終わらせました」
ついさっき鈴原に迫っていたGreedと化した三人の親衛隊を始末した狩人が合流した。そして万能メイドの足元にある痛々しい状況を見て察した。
「女の戦いって怖いものだな」
「戦いってほどではありません。ただ私はこの人に訂正と謝罪をしてほしかっただけですので。Greedの始末はついでです」
「そうか。まぁ、そういうことにしておこう。というかえぐいものだな。髪の半分が無いじゃねぇか。髪は女の命だって聞いたことがあるぞ?」
「はい。なので私が命を刈り取りました。これで静也様も満足されると思います」
「無波か。なるほど。女は本当に恐ろしいよ。というか、僕は無波が満足するよりもお前の方が満足している顔をしていると思うが?」
「そうでしょうか?」
すると能徒は横にあった窓ガラスに映った自分の顔を見た。すると意識していた無表情とは違った顔をしていることに気が付いた。
「―まぁ、そうですね。私はこの前この人にブスだとなじられました。しかし通りかかった静也様が言い返してくれたのです。そしてこの人の方がブスだと、私の方が可愛いと言ってくださいました。それにこの人は反発し静也様の言葉を受け入れようとしませんでした。今回私はこの人に訂正させ、謝罪させました。私は、それできっと満足しているのでしょう。自分で感じているよりも強く」
「自分が言われたからというよりも、あいつの言葉とか気持ちを否定されたのが嫌だったんだな。忠誠心というかなんというか」
「私は自分がどうこう言われるのはかまいません。ですが、皆様が言われたり否定されるのは許せないのです」
「特に無波を、だろ?」
こくりと頷く能徒。
「そういう人にはお気持ちを改めてもらったうえで誠心誠意謝罪をしてもらいます。本来ならこの人を静也様のところまで連れて行って謝らせるのが筋ですが、今の状況からしてきっと静也様もお忙しいと思われます。ですので謝罪は私の方からお伝えすることにしました」
「……本当にいろんな意味で恐ろしいよ、女というのは。それで、それはどうするんだ? 前みたいにどこかに隠しておくか?」
「いえ、今回は先に運び出します。幸い体が小さいのでスーツケースに収まるでしょうし」
「でもあっちには三体いるぞ?」
「でしたら、金錠様。申し訳ございませんが車を手配いただけないでしょうか。あと運び出すのをお手伝いいただければと」
「分かった。裏門なら人目に付かないだろう。それでいいな?」
「はい、ありがとうございます」
ということで二人はまずはスーツケースを取りに行って鈴原の死体を詰め、親衛隊の死体を順番に運んでいった。ちなみにそのルートには人払いの結界を張っておいた。だから人の意識にも近づかれる心配もなく全てを校外に運び出すことが出来た。
裏門の外にて
「ちなみに一つ気になってるんだが、自分の担当の監視は大丈夫なのか?」
「はい、問題ございません。企画の小池、それと総務の南波は一緒にいます。そこには深見様が付いていますので。それに逐一状況を連絡してくださっていまして、今も問題なく監視出来ているようです」
「そうか。まぁ、深見とお前が二人でついている必要もないわな」
「はい。では、工場に運んでまいります。お手伝いいただきありがとうございました」
「かまわん。他にしておいた方がいいことはあるか? この際だから聞いてやる」
「では、これを生徒会室の床にでも投げておいてください」
と能徒が包に入った何かを渡した。狩人はそれを受け取った瞬間に中身を察し、嫌そうな顔をした。
「では、よろしくお願いします」
そして能徒は狩人が手配した車でかの工場へと向かっていった。
「どうしてこんなものを。しかも臭いし。風呂入ってないだろ」
それから狩人は誰もいない生徒会室に入ると、お願いされたとおりそれを包みから出して床に投げておいた。
「誰でもこんなのを見たら発狂するぞ。本当に恐ろしい女だ」
狩人は出る際も細心の注意を払って廊下に出ると、そのままそそくさと何事もなかったかのようにその場を後にした。
***
「なんだよ……これ……」
「なんてこった……」
生徒会室に戻ってきた南波と小池が扉を開けた途端、床に無造作に落ちていたそれを発見して絶句した。
「ウィッグ、ではなさそうだな」
「あぁ、鈴原っちだ。このツインテの片側は間違いねぇ」
「惨いことをしやがる。いったい誰がこんな。その鈴原はどこだ?」
「いるわけがないと思うぜ。きっと石川っちと同じだろうよ」
「とにかく他の奴らを呼ぶぞ。話はそれからだ」
ということで残りの二人を呼ぶと、まもなくして全員が集合した。
もちろんそれを目の当たりにした。
「間違いなく私達を狙っている。これで確信したわ」
「おいおい。俺っち達も殺されるってのか?」
「冗談じゃねぇ。誰が狙ってやがるんだ。ふざけんな! オレらがいったい何をしたってんだ! 神野。お前、こうなっちまった責任、どう取ってくれんだ。オレは協力はすると言ったが死ぬつもりはねぇ。石川も鈴原も消えちまった。きっと死んでる。どうすんだよ! オレらはここで死ぬのかよ!」
「南波。落ち着いてくださいな。何も死ぬとは決まったわけではありませんよ」
「朱里。お前は死ぬのが怖くねぇのかよ?」
不安と興奮した南波が朱里に詰め寄った。対して朱里は冷静に口を開いた。
「神野の言うとおりわたくし達が狙われているのは間違いないでしょう。なら、この先も誰かの前にその人は現れるはず。だからわたくし達は待っていればいいのです。それで来たら返り討ちにしましょう」
「そんな簡単に―」
「では石川と鈴原は喧嘩が強かったでしょうか?」
「それは……ねぇけど」
「あなたや小池の方が強いでしょう? 実はわたくしも神野もそれなりにやれますのよ? それこそあの二人よりも。つまり、あの二人よりも強ければ返り討ち、もしくは捕まえてつるし上げることも出来ます。そうではありませんか?」
「朱里の言う通りね。たまたま弱いところを突かれた。それで、その事実を私達に突きつけて動揺させようとしている。それで内部分裂も狙っているとしたら、私達は敵の策に飲まれるわけにはいかないわ。だから私達が出来ることは、現れた敵を返り討ちにすること。絶対に現れるわ。だからもしもこなかったらなんて疑問は受け付けないから」
神野がメンバーを見まわす。そして小池のところで視線が止まった。
「いつものノリと勢いはどうしたの? 来た奴はノリと勢いで殺せばいいじゃない」
次に南波に目が留まった。
「知ってるわよ? 生徒達を脅迫して言うことを聞かせてるんだってね。その気迫はどこにいったの? 出るのは文句だけ? 情けないわよ」
「お前……」
南波が掴みかかる勢いで神野を睨んだ。だが、神野は一切物怖じせずに睨み返した。その中に言いようのない強いものを感じた南波は本能的に引き下がった。
「……分かったよ。変なのが来たら殺す。それでいいな?」
「もちろんよ。小池、あなたもよ? 私はあなたのノリを大事にするところ、結構好きよ?」
「……そんなことを言われたら引き下がれねぇな。分かったよ。俺っちも南波っちも強い。誰が来ても返り討ちだぜ」
「頼りになるわ。朱里もよ?」
「ええ。もちろんですわ。わたくしは誰が来ても壊すだけですので」
「お前も戦うんだよな? 神野」
「私が何もしなくてどうするの?」
「だよな」
仮生徒会一行は、得体の知れない敵を考えて戦うことを決意した。
その様子を生徒会室の影で見ている人がいた。その人は一切音もたてずにただ佇んで観察と聞き耳を立てていた。そして思った。
みんなに共有しておかないと―と。




