4-37 策士策に溺れる
「みんな。くれぐれも気を付けて。ミイラ取りがミイラになんて言葉もあるんだから」
登校した仮生徒会一行は朝のホームルーム前に生徒会室に集合していた。
会長の神野が神妙な面持ちで仲間達に告げる。
先日会計の石川が行方不明になった。だが、所々ぼろぼろに切られた彼の制服のブレザーだけが物置の中に入っており回収した。
「ミイラの言葉? 神野っち、なんだ? それはどっかの国の何かか?」
「すずちゃんも知らない。でもそんなの知らなくても可愛いければ生きていけるよね」
「とりあえず気をつけろってことだろ? 誰があんな真似をしたか知らねぇが、見つけたらタダじゃおかねぇ」
「お、南波っち。ミイラの言葉を知ってるのか?」
「知らねぇよ お前風に言うなら、ノリで意味を感じ取っただけだ」
「俺っちとしたことが。大事なノリを忘れちまってたぜ」
小池、鈴原、南波が談笑していた。それを見ている神野は少しため息をついた。すると副会長の朱里が口を開いた。
「とにかく、気を付けていきましょう。生徒会としてのお仕事を見られないように、妙な人は大事にならないように処分しましょう。もしかしたらその中に石川をどこかにやった人がいるかもしれませんので、気づいた際は共有もしっかりとしましょう。こんなところでしょうか? 神野」
「そうね。私が思っていることを代弁してくれてありがとう」
するとずっと奥の会長の椅子に座っていた神野が立ち上がった。
「一日一日が大事な時期よ。私達は残り半月を耐えればいいだけだけど、革命のためにいらない人は消す必要があるわ。石川はきっと誰かにやられて死んでいると思う。それをやった人は校内にいると私は思ってるわ。だからその内誰かの前に現れるとも思ってる」
「ほほう。どうしてだい?」
「学校に入れるのは関係者だけだから深く言わなくてもいいでしょ? 誰かの前に現れるっていうのはただの予想。でも石川のブレザーがあそこにあったのは何かの意味を持っている気がするの。となれば、あれは仮生徒会へのメッセージ。そんな気がするのよ」
「なるほど。俺っちにはよく分からないな。でも変な奴は勢いっでやっちゃえって話ね」
神野が悲しそうな顔をした。
そこでホームルームの前のチャイムが鳴った。
「そういうことだから、今日も頼むわね。全ては革命のために」
今日も一行は生徒会室から出た。
***
「すずちゃん! 今日も可愛いね」
「すずちゃんは僕達の女神様だぁ」
「可愛い、可愛い」
「ありがと。すずちゃんはみんなといられて幸せだよっ」
鈴原は普段は人目につかない校舎三階の隅の一角で親衛隊を数人集めていた。そんな親衛隊の男達は、こういう場所に呼ばれたことでいささか興奮状態になっていた。
「今日はみんなに聞きたいことがあるの。教えてくれる?」
「「「もちろんだよ」」」
ぶりっ子のキャラづくりを欠かさない鈴原は今日も地雷メイクとふりふりの服で彼らに媚びるように接し、今回の目的を果たそうと問いかけた。
「この前ね、すずちゃんのお友達がどこかに行っちゃったの。誰か知らないかなって思って。なんでもいいから、知ってることがあったら教えて? 教えてくれたら、なんでもしてあげちゃう」
「「「なんでも!?」」」
「うん。すずちゃんを好きにしていいんだよ? 今分からなくても調べてくれたら嬉しいなっ」
鈴原が少し恥ずかしそうに上目遣いで告げた。それに心を射抜かれた彼らは頭の中で色々なことを想像して息を荒らげた。
男って単純。すずちゃんの可愛いさにメロメロね。当然よ。すずちゃんは誰よりも可愛いんだから。
正直石川のことはどうでもいいけど、何かいいことをしておけば神野が会長になったらいい席にしてくれるかもしれないし。というか、神野が会長ってありえないよ。すずちゃんよりも可愛いくないのに。
いつかはすずちゃんが会長になる。そのために男達はうまく使わないと。
そう思った鈴原の瞳が妖しい光を帯び始めた。
これで自分が何もしなくてもこいつらが動いてくれる。もちろん報酬はあげない。すずちゃんは安い女の子じゃないんだから。こんな金も持ってない男達にすずちゃんをなんでもする権利はないんだから。
こいつらは使いぱしりがお似合いよ。でもすずちゃんは可愛いんだから全部正しいことだよね。こいつらもすずちゃんに頼られて嬉しいよ。
「すずちゃんのためにたくさん調べて、たくさん教えてね?」
とさらに可愛げを出して彼らの心を掴んだ。
これで完璧。そう思った時、親衛隊の三人が一様に鈴原に詰め寄った。
「やっぱり可愛いなぁ」
「すずちゃん、一生懸命調べるからさ、だからさ、ちょっとだけ。ちょっとだけだから」
「ぼ、ぼくも。すずちゃんに触りたい」
「みんな……?」
効きすぎてしまったのか、彼らは独特な雰囲気を放ってその目に欲を表してしまった。
鈴原をじっとりと見る六つの眼は色欲に飢えた獣のそれで、意図せずにGreedを生み出してしまったのだった。
「すずちゃん……」
「すずちゃん…すずちゃん……」
「可愛い。可愛いよぉぉ」
「近づいたら嫌よ? すずちゃんの言うことが聞けないの?」
鈴原の言葉は彼らの耳に一切届いていなかった。だから鈴原が壁に背中をつけて困っていても誰一人として慈悲を向けず、むしろさらに迫った。
その異様な雰囲気を察した鈴原は
「すずちゃんが離れてって言ってるんだよ? 言うこと聞けないの? 聞けよ。離れろよ!」
言葉を荒らげて豹変した。そして地団太を踏んだり彼らを激しくなじって威嚇した。だが、それももちろん届いていなかった。
「離せ! お前らがすずちゃんに触んなよ! 汚ねぇんだよ!」
「すずちゃん……すずちゃん。好きなように」
彼らはもう駄目だ。このままだと本当に好き勝手される。今回は南波も小池もいない。しかも人気のない校舎の一角だ。呼んでも届かない。
そう思った鈴原は―
「触んなよ!!」
光を妖しく反射したそれを懐から出して彼らの一人に振るった。するとそこから鮮血が舞った。
鈴原の手にはカッターナイフがあった。それは鈴原が常に持ち歩いているもので、時折心を落ち着ける用途でやるリストカットのために使っているものだった。
その刃が彼の喉元を切ってしまった。それは偶然にも頸動脈の位置で直後にはおびただしい量の血が噴き出した。
普通ならそれを前に誰もがうろたえる。しかし、ここにいる全員は何も感じていないようにそれぞれがそれぞれの思うがまま動いていた。
「すずちゃんの言うことを聞かないからだ。すずちゃんの言うことは絶対! すずちゃんに従うのが当たり前なんだ!」
「すずちゃ―」
その言葉とともにもう一人の喉元も掻き切った。無論、再びとんでもない量の血が噴き出し周囲の壁や窓、それから鈴原自身の服や体にも付着した。
「汚い! ふざけんな! どうしてくれんだよ!!」
鈴原の目が怒りとともにドス黒く染まった。そして狂乱とともにカッターナイフを振り回してもう一人も切った。しかし、最後の一人を含め、先に切られた二人がゆらりと立ち上がってあの時の亡者のようにひたひたと接近した。
「く、くんなよ! 言うこと聞けよ!!」
縦横無尽に振り回す。それらは容赦なく肉を切っていく。だがもちろん彼らの動きは止まらなかった。
「なんなんだよ…なんなんだよ……っ! どいつもこいつも!! すずちゃんだぞ!!」
「すずちゃん……すずちゃん……」
その時、そのカッターナイフの刃が肉に食い込んだ瞬間に動かなくなり、鈴原はつい手を離してしまった。
振るうものが無くなり、鈴原は喚き散らして地団太を踏むしか出来なくなった。ついにそこで彼らの血に濡れた手が頬や体に触れた。
「キモイ!! お前らが触っていい体じゃねぇんだよ!! やめろよ!!」
暴れる鈴原。それを歯牙にもかけずに欲をもって触れていく男達。
このままでは本当に好き勝手される。金も落とさない気持ち悪い男に犯される。そう思った鈴原はさらに奇声を上げて周囲を轟かせた。
するとそこでやっと
「全ては因果応報か。愚かな女だ」
「はぁ!! お前何て言った!? すずちゃんだぞ!?」
「愚かな女だ。そう言ったんだ。噂に聞く地雷女」
眼鏡をくいっと上げて狩人が到着した。




