4-36 違和感の仮生徒会
「どこに行ったのかしらね」
「そうですわね。あの石川が生徒会室に戻ってこないなんておかしいですわ」
昼休み。
仮生徒会の一行は状況報告を共有するために生徒会室に集合していた。しかし、石川だけがいつまで経っても現れず、いつもは自分の居場所として低位置化していたソファで休んでいるのにと全員が不審に思い始めていた。
「グループのLINEにメッセージは入れてたねぇ。なら来ないのはおかしい。屋上でスリーピングか? ノリが悪いのは良くないねぇ」
「それはない。ここに来る前にオレが見てきた。あいつ、たまに屋上でサボってやがるからな。見つけたら引きずって連れてきてやろうと思ったのによ、どこにもいなかった」
「何よりも休みを大事にする石川っち。この時間まで仕事をしてるなんてことはあり得ない。何かあったのかもしれないねぇ」
小池と南波の会話が他の人達の耳に入る。すると鈴原が
「すずちゃんの時間を奪うなんて最低。すずちゃんの時間はこの世で一番大事なんだよ?」
と言って不機嫌気味に電話をかけ始めた。
その直後だった。生徒会室のどこからかLINE通話の着信音が鳴った。
「このタイミングで誰だ? 紛らわしいぞ」
「そういう悪ノリは俺っちは嫌いなんだけどねぇ。ちなみに俺っちじゃねぇぜ」
「わたくしも違いますわ」
「私もよ」
「オレでもねぇ。なら誰のスマホだ」
全員が自分のスマホを出して潔白を証明した。ということで南波がその音の出所に行くと
「おいおい。これって……」
南波がソファの下にスマホを発見しそれを取り出すと、顔が青ざめた。
「鈴原からの着信画面だ。石川のじゃねぇか。間違いねぇ」
「南波っち、そんな冗談はウケねぇぜ? 俺っちも確認してやる」
「なら見てみろよ」
南波が小池にスマホを投げ渡した。そしてそれを見た小池が驚いて言葉を失った。
「マジかよ…… これは本当に何かあったのかもしれねぇな。しかもここで。神野っち、みんなで調べようぜ。それが先だ」
「そうね。一応近くの教室も調べてみたほうがいいわね」
「神野。ここ、何かの跡があるよ」
鈴原が床に残っていたほんの僅かに擦った跡を発見した。
「よく見つけたな。でもよ、最初からあったんじゃねぇか?」
「それはないよ。だってすずちゃん、生徒会室の汚れは覚えてるもん。だからこんなところにこんな汚れはなかったよ。朝にもなかったし。というか、もうすずちゃんいなくても良くない? 石川くんは帰ったんだよ。だからすずちゃんも帰りたいよ。いいでしょ?」
「駄目だ。せめて石川の所在が分かるまではいろ」
「すずちゃんに指図するの? いくら南波くんでも容赦しないよ?」
「誰のおかげで今ここにいられると思ってんだ? 別にオレらはあの時親衛隊の奴に引き渡しても良かったんだぜ? なぁ? 小池」
「そうだぜ。鈴原っち、少なくとも石川っちのことが分かるまではいてもらうよ。つまり空気を読めって話。そういうノリが分からないなら、次は鈴原っちの番だぜ? な? 南波っち」
「その通りだ」
「すずちゃんは女の子だよ? いいの? そんなことして」
「男女平等パンチって知ってる? そういうことだぜ? それに、見てるのは身内しかいない。近衛っちみたいになりたくなければ従えってこと。まぁ、俺っちも南波っちも鈴原っちがどう答えるかは強要しないけど。どうする? 決めるのは鈴原っち、君だぜ」
小池はかの金属バットを取り出すと、その内の一本を南波に渡した。それにより生徒会室が物々しい空気に包まれる。
もちろん鈴原は不機嫌極まりない表情と威圧を向けるが、一切物怖じしない二人を前に他の二人に目を向けた。だが、神野も朱里も何も言わずに黙って見ているだけだった。
「……仕方ねぇな。めんどくせぇ…… すずちゃんの時間は誰よりも大事なのに」
「無理強いはしないぜ?」
「探せばいいんだろ、探せば。何でこんな時にどっか行くんだよ石川。ふざけんな!」
鈴原は元のぶりっ子キャラから変貌しドスの利いた不機嫌極まりない声を発した。するとそこで懐からカッターナイフを取り出すと
「おいおい」
自分の左腕を切った。それにより滲み出した血が痛々しく細い腕を伝って床に落ちた。
「探しに行くんだろ? 早くしろよ」
「リスカ。初めて見たぜ。まぁいいや。良かったな。また誰かをバラす必要もなくなったわけだし。な? 南波っち」
「あぁ。本当、手のかかる女だ。行こうぜ。お前らも行くんだろ?」
「もちろんよ。早く探して午後も見回りに行きたいもの」
「わたくしもですわ。いらないものを壊して回らないと」
ということで一行は生徒会室を出た。
最後尾にいた鈴原は、思い通りにいかなかった憤りをぶつけるように生徒会室のドアを思いきり蹴ると、わざと足音を立てて廊下を歩き不機嫌オーラを出し続けた。
いかにもやばい女になった彼女に構うことなく一行は散り散りに探し始めた。
***
「これって……」
「間違いないわ。石川はこの中にいたってことよ」
空き教室を中心に探していた一行は放課後になってようやくかの物置に到達した。するとそこには石川のブレザーが刻まれた状態で置いてあった。
「いったい誰が……」
「それで、石川くんはどこに行ったか分かるの?」
「知らねぇよ。ブレザーしかねぇんだから」
「そう。なら行方不明ってことで。すずちゃんはもう行くから。おぢから回収してくる」
「おい! まだ見つかってねぇだろ!」
「うるせぇよ。すずちゃんの時間は誰よりも大事なんだよ」
そう言って鈴原は誰も寄せ付けない雰囲気を出して去っていった。
「南波っち。もういいと思うぜ。あれはもう何を言っても聞かねぇよ。それに、ここで騒がれたら俺っち達が不利だ」
「冷静だな。まぁ、確かにそうか。いくら部活時間とはいえ大声を出せば寄ってくるもんな」
「まぁ、あれだ。鈴原っちには仲間意識もそういうノリも足りなかったってことで」
すると小池が石川のブレザーを取って生徒会室に戻って行った。
それから他の人達も生徒会室に戻ると、自然と今日は解散となった。
「神野。朱里。何か心当たりはねぇか? 石川は休んでばかりだったから誰かに恨みを買うような人じゃなかったと思うんだが」
「確かにそうね。でも悪いわね。見当がつかないわ」
「わたくしもですわ。でも生徒会室の床の跡と制服の感じを見る限りですと、ここで誰かにやられて物置に隠されたってところでしょうか。それでわたくし達が見つける前にまたどこかにやったのか、もしくはそもそも最初から制服だけ置いたのか。分かりませんわ」
「何が目的なんだよ……」
南波は訳が分からなくなって机を殴った。
「とにかく、今の状態で分かることはないわ。だから今日は帰るわよ」
「そうですわね」
「仕方ねぇな」
「手詰まり…か。石川っち。生きてたらいいけど、難しいだろうな」
何も分からないまま仮生徒会一行は解散した。




