4-32 後手で待つ
「みんな……仮生徒会が…動いた……良くない…ほうに……」
「みたいだな。僕も確認した」
次の日の放課後、セブンスターズの事務所に遅れて到着した愛枷が報告をあげた。それを示すように狩人が全員にパソコンの画面を向けた。
そこには先日の生徒会室での様子が映っていた。内容はもちろん隠蔽すべき非道なことである。
「そっか。そうすることにしたんだね。ならここから先の校内はかなり荒れそうだし、行方不明者がけっこう出てきそうだね」
「冷静に言ってる場合じゃないぞ、月乃。奴らは仲間を殺したんだ。しかも意にそぐわないからって考えもせずにだ」
「そうです。一旦ご飯を食べて落ち着いてから話すべきでしたです」
「というか、愛枷ちゃんは止めなかったの?」
「昨日のこの時間は……みんなで…ここに……いたから」
「狩人くんも隠しカメラが生きてたならすぐに行っても良かったんじゃない?」
「お前も見ただろ。荒れ始めてから殺すまで時間がなかった。行っても無意味だっただろう」
仮生徒会の庶務、近衛が他のメンバーに殺害された。その事実はセブンスターズにとって予想外だった。なぜなら
「いくら頭が悪そうな人達でも仲間を殺すのは予想出来なかったよ。それくらい頭が終わってるみたいだね」
「それで、どうする? みんなも気づいてると思うけど、奴らの目はGreedのそれだったぞ。今すぐ処分しに行くか?」
「静也様。それは早計かと」
と能徒が静かに給仕をしながら答えた。
「私も…そう…思うよ……」
「お姉さんもよ」
「どうして? Greedを早急に処理するのが俺達の仕事だろ?」
「お前はそんなのも分からんのか。愚か者め」
「んだと!」
「静也。狩人も煽っちゃ駄目だよ」
月乃も同じ意見だったようで全員を代表して答えた。
「今の私達の目的はなに?」
「今のなら、仮生徒会がやろうとしていることで学校の秩序が保たれなくなったのを見届けてから権限と席を返してもらうことだ」
「そうだよね。なら、ここで処分に動いたら結局秩序は?ってなってうやむやなまま権威が返還されるんだよ? そうなると、これから先また同じように、自分達ならもっと上手く出来るって言い始める人が出てくる可能性が高いの。その度にその人達を仮生徒会にしたりして対応するのは面倒だよね?」
「まぁ確かに。でもよ、奴らが映像で言ってただろ? 革命だかに犠牲は付き物って。ならこの先は気に入らない奴を殺して回るぞ?」
「そこで私達の出番だよ」
月乃はにこっと口角を上げた。だが静也と悟利はその意味を理解出来なかった。
「どうして?って顔だね。なら想像してみて? あの人達が身勝手に生徒達に制裁を下すとその生徒達はどう思う?」
「嫌な気持ちになるです」
「だよね。なら、そんなことをしているあの人達がある日突然いなくなったら、生徒達はどう思うかな?」
「清々するです。虐げられた分、心配も思わないと思うです」
「そういうことだよ、静也。今まで私達は校内に出たGreedを見つからないように何度も始末してきたよね? その生徒や先生は色々な方法で隠蔽したけど、他の生徒達は誰も何も言わなかったよね」
「つまり、そういう人に対してはある種の天罰だという認識で大事にならずに処分が出来るってわけか」
「そう。まぁ、この半月過ぎたくらいで生徒達のヘイトはそれなりだから普通にやっても大丈夫だと思うけど、やるなら念のために私刑をしてる時の方がいいね。もちろん、襲われてる生徒は助ける必要があるけどね」
「なるほど。確かに納得だ」
「でも、そうなると少し大変よ?」
唯が口を挟む。
「いつどこで誰がやらかすか分からないわけだから、常に見張っていないといけないわね。いくら頭が残念でも気付かれるんじゃない?」
「愛枷と私と能徒以外はそうだね。それはもう頑張ってもらうか、結局事に及ぶ時ってGreedの気配が出るはずだから急いで駆けつけてもらうしかないかな」
「一般生徒の救出が間に合わなかったら?」
「大変だと思うけどそこは間に合うようにして。まぁ、万が一一般生徒が死んじゃったら助ける時間も逃がす時間も人目も気にしなくて済むからいいんだけど。でもやっぱり一般生徒は出来る限り助けないと。それが生徒会であり欲祓師の仕事だと思うから」
「そうだな。というかなんで能徒も気付かれない認識なんだ?」
「私達の万能メイドはやることをしっかりやるからだよ。それに、静也だって何度か能徒の尾行に気付かない時があったでしょ?」
静也は前に月乃と唯それぞれと遊びに出た時にその存在に気付かなかったことを思い出した。
「まぁ、そうだな。で、月乃は地味の極みだから見つからないってことだな?」
「地味だけど極めてないよ?」
月乃がむっとして頬を膨らした。だがすぐにいつもどおりに戻った。
「私だってそういう尾行は出来るんだよ? 本気を出せば多分誰にも気付かれないよ」
「それが完璧に出来るのは愛枷だけだ。まぁ分かった。奴らが何かやらかしたらすぐに駆けつけるようにするよ」
「質問です! 仮生徒会は一人減ったです。ならわち達の尾行とか処罰の分担はどうなるです?」
「確かに。俺もてっきりそれぞれの役職の奴を見てろってことだと思ってた」
「それなら庶務の静也兄ぃは何もしないことになるです。あと、わちはあの地雷の人になるです。親衛隊もいるみたいですから怖いし嫌です」
「そうだね。分担を言ってなかったね。尾行が問題ない私と愛枷と能徒はそれぞれの役職の人でいいとして、それ以外はGreedの気配を察したら急行ってことになるかな」
「気配だけだと既に三人がやってる奴と区別がつかないぞ?」
「なら私達が相手をする時は、直後に私達も気配を出すよ。それがあるか無いかで判断して」
「分かった」
「サボって行かないのは無しだからな? 無波」
「お前じゃあるまいし。いや、ボッチの金錠なら友達に気を遣わずにいつでも急行出来るのか。良かったな、ボッチで」
「んだと!」
狩人が言い返そうとした時、それでも狩人はパソコンの画面にあるカメラの映像をチェックしていたのを認識した静也は月乃から言われる前に口を閉じた。
「ということは、尾行問題ない組をまとめると、私が仮生徒会会長の神野だね。それで愛枷が企画の小池、能徒が総務の南波。急行組は副会長の朱里と会計の石川、それと書記の鈴原だね」
「授業はどうする? 奴らは生徒会の権限を乱用して授業中でも構わずやると思うぞ?」
「抜けていいよ。権限を貸し出しているとはいえあの人達は仮。本物はこっちなんだから。それについては私から先生達にかけあうから、みんなは授業中でも気にせずに抜けて急行してね」
「分かった。ならさっそく明日から何かあったら急行することにするよ」
「もろもろ決まったところで悪いが、今カメラの映像で気になるものを見つけた。念のためこれも確認しておきたい」
と狩人が再び全員にパソコン上のカメラ映像を示した。
すると、そこには鈴原の親衛隊の二人が生徒会室にやってきて暴行の末に謎の死を遂げるという一部始終が映っていた。
「もちろんカメラには映っていないが、二人をやったのは深見でいいんだな?」
「うん……この時間は…非認知で……ここにいた。さすがに…やばいと……思ったから……やった……どうして……?」
「もしもこれが別勢力の仕業だったら困るからだ。もしくは奴らの中にこういう殺傷力のある能力を持っている奴がいたらなお困る。でも深見がやったってことならそれでいい」
「確認って…それだけ……?」
「深見にはな。次のは星見だ。もしも親衛隊みたいに一般生徒が荒れたらどうする? 先行して僕達が始末していいのか?」
「ううん、先行対応はあの人達だよ。革命の犠牲はって言ってるんだからそういうのはとことん潰していくと思うから必ず動くはずだよ。それでどうせあの人達は見つからないように人気のないところに行くと思うから、そうしたらあとはまとめて私達で対応ね」
「分かった。確認は以上だ」
そうして狩人がパソコンを閉じると、あとはもう気になるところとか異常なところはなかったのだろうと全員が認識したのだった。
「あ、そうそう。能徒」
「はい」
「この先、死体がけっこう出てくると思うから大変だと思うけど処理はいつも通りお願いね」
「承知しました。完璧に遂行いたします」
「あと、もしもね、もしも大変だったら静也以外にも頼っていいからね? 何も静也だけじゃなきゃ駄目ってわけじゃないからね?」
「ま、またあそこに行くですか……? しばらくお肉が食べられなくなるですぅ……」
「もちろんみんなには無理にとは言わないけどね。まぁ、私は協力を求められたら行くけど」
その言い方、というか独特な雰囲気を察した唯が
「お姉さんも行くわ。毎回静也くんと能徒だけじゃ大変だと思うし」
と言うと、その意味を察した愛枷も
「わ……私も……なんなら…三人で……でも…いいよ。人手は…多いほうが……いいって…いうし……」
急いで申し出た。
そんな光景を見て雰囲気を察した狩人はやはりやれやれといった様子で何も言わなかった。
悟利はというと、あの光景とこの場の静かな戦いのような圧を感じて何も言えなかった。
「承知しました。もしも難しいとなった場合はお声をかけさせていただきます。その際はよろしくお願いします」
能徒は相変わらず冷静な口調で感謝を告げた。だが、もちろんそれぞれの心意には気が付いているので、やはり静也と自分では本当に厳しい時のみお願いしようと思い、他の人には基本的に手助けは求めない方針でいこうと決めたのだった。なにせ、貴重な二人だけの時間が削られてしまうからだ。
「それじゃ、今日は解散。また明日から忙しくなると思うけどそれぞれの仕事をちゃんとやろうね。で、処理したり何かあったら必ず連絡。それこそ一人で相手に出来ない時は絶対にね」
最後に月乃がそう言うと解散になった。




