4-31 歪な方針
それからも仮生徒会にとって不可解なことは続いた。
時にはクラス内で、時には校舎のどこかしらで理解が出来ない喧嘩や異様な人の発生によりてんやわんやしていた。
「最近どうなってんだよ。生徒会ってこんなに大変なのかよ」
「さすがの俺っちもまじむり」
「休む時間の邪魔になって最悪だ」
「わたくしも困りましたわ」
「今までこんな感じじゃなかったよ。神野さん、このままで生徒会はやっていけるのかな」
放課後の生徒会室に集合している仮生徒会一行はここ最近のことに不平不満だったり、疲労を露わにしていた。
その矛先はもちろん仮生徒会会長の神野に向かうわけで
「今回は近衛の言う通りだ。神野、オレらはこの学校を楽しい場所に変えられるって言われたから手を貸してやったんだ。ちっとも楽しくねぇぞ」
「そうだよ。すずちゃんもまた変な人に襲われそうになったし。やめてって言っても誰も言うことを聞いてくれないし、すずちゃんが命令しても言うことを聞かない人も出てきたしで最悪。ぴえんだよ」
そんな意見を向けられている神野は静かに口を開いた。
「でもどうにかなってるんでしょ? この前みたいに」
「そうだけどよ、マジで死ぬか死なないかのところでやっとってこともあったんだ。お前はオレらを殺す気か?」
「そんなの許さないよ。すずちゃんはずっと思い通りにいく世界を生きるんだもん」
「神野。わたくしも自分が死んでしまうのは嫌ですわ。わたくしは何かが勝手に壊れたり誰かがどうこうなっている分にはどうとも思いませんが、その対象が自分になるのは困りますわ。壊したり誰かをどうこうするのはわたくし側なのに」
「神野っちよぉ、南波っちの言う通りだぜ? 死んじまったら意味がないんだぜ?」
「休みをくれ。僕は休めるから協力してるんだ。話が違うぞ」
それぞれの鋭い視線が降り注ぐ。だが、神野はそれに屈することなく再び口を開いた。
「何かを成し遂げる時には必ず危険やリスクは付き物よ。それこそ学校全体を変える革命ならなおさらね。確かに今の私達には苦難が降り注いでいるけど、どうしてか全て命を落とすにはいたっていない。むしろ、その暴れたり変なことをした人の方が倒れている。それはここにいる全員の運がいいのか、もしくはここを変えるのは君達なんだと神から言われてるからかもしれないわよ」
「神だ革命だ言ってるけどよ、死んだら意味がねぇって言ってんだよ。オレらが求めるのはこの先どうしたらいいかってことだ。お前がオレ達に校内でも気にせず暴れていいって言うなら話は別だけどよ」
すると、神野はわずかに口角を上げた。
「南波。革命っていうのは少なからず血は流れるものよ。そうやって歴史は進んでいったのよ」
「ほう。つまり、必要な血は流れるべきだと?」
神野が頷いた。
「なるほど、そういうことか。だとよ、小池、朱里」
「そっかそっか。そんじゃまぁ、変な奴はノリと勢いでヤっちゃいますかぁ」
「そうですか。なら我慢しなくてよろしいですわね。そういう人は存分に壊してあげましょうね」
二人は怪しく笑った。だがそこで待ったをかけた人がいた。
「自分からの暴力は駄目だよ。ぼく達は生徒会だよ? 何かがあったら大変なことになるよ」
「そうだ、オレ達は生徒会だ。だからこそ学校の秩序は守らねぇといけねぇ。そういう奴をヤるんだよ。片っ端からな」
「そうですわよ? それで生徒会の粛清なんてことにすれば今後変なことを起こそうなんて思う人もいなくなるに違いありませんわ」
「近衛っち。いつやるか、今でしょの精神だぜ。それに見てみろよ、鈴原っちも石川っちもノリ気だぜ?」
そんなまさか。近衛がそう思って周りを見ると
「こう見えてすずちゃんも鬱憤がたまってるんだよ? 最近はおぢも素っ気ないし、お金も落とさないし。そろそろ親衛隊も危険人物まみれになってきている気がしてならないから、そんなのがきたらサクっとしちゃおっかな」
「僕は休みの時間と空間の邪魔になるならヤる。それだけだ。それ以外は何もしない。というか、僕らが何かやって大事になったら責任はどうなる? それだけは明らかにする必要がある。でないと休みの時間がますます減るからな」
「休みの時間は置いとくとしても、神野。それはどうなんだ。仮に校内でヤっちまったとして誰かに見られたらどうするんだ? いくら生徒会でも警察と教師はどうにもならないだろ」
「言っておくけど、すずちゃんは責任取りたくないよ? そんなことになったら誰かに押し付けちゃう。親衛隊とか。でもすずちゃんは可愛いから誰でも許してくれるよね」
「わたくしもですわ。最後の逃げ道は確保しておいてほしいですわ」
邪魔だったり危険な人は排除する。そこに流れる血は革命には必要なものだから許される。でも何かあった時の責任は取りたくない。
そんな利己的な感情がそれぞれの心にあった。
全員の視線を受けた神野は再び自信満々に告げた。
「気にしなくていい。もしも誰かに見られたなら、その人も殺して構わないわ。それも必要な犠牲なんだから」
「神野っち、大胆。そういうの俺っち好きだぜ」
「単純な話だったな。分かった。見た者は皆殺しだ」
「ふふ。壊し甲斐がありますわね。滾りますわぁ」
「すずちゃんの言うことを聞かない人は革命のために殺す。簡単なことだね」
「いいの? そういうので本当にいいの? 少し考え直そうよ。でないと―」
近衛が再び口を挟んだ。だがその言葉は次の瞬間に南波に胸倉を掴まれたことで強制的に消えた。
また、その周囲には他の面々もやってきて彼に不穏な目線を向けていた。
「お前、さっきからうぜぇよ。なんなんだよ。決まろうとしてるところでうじうじとよ。目障りなんだよ」
「そうだぜ? 俺っちはそういう冷めることを言う人は嫌いだぜ」
「みんなで決めたんだよ? すずちゃんもいいって言ってるの。言うことが聞けないの……?」
「わたくしは壊すのは好きですけど、決まったことを壊されるのは嫌いですわよ」
「い、石川くん。石川くんはどう思う?」
睨まれた近衛は今はもう話に参加していない石川に助けを求めた。だが、
「みんながいいって言ってんだ。また決めたり変えるのは面倒だ。休みの時間が減る」
「そんな……」
「なぁ、神野。景気付けにいいこと思いついたんだが、いいか?」
「……なるほど。革命には犠牲は付き物。それに従わない者は先々で障害になる恐れがある。そう言いたいのね?」
「分かってるじゃねぇか」
直後、近衛を囲んでいる人全員の目が怪しい光を帯び始めた。それにより近衛は得体の知れない恐怖を感じると、どうにかその手をほどいて逃げ出そうと扉に向けて走った。だが、生徒会室の扉は鍵がかけられてしまっていた。
「近衛、最期に言い遺すことはあるか? それくらいは聞いてやる」
「や、やめてよ。考え直してよ。みんなで平和にこの学校を楽しくしていこうよ」
「面白くない最期の言葉だぜ。南波っち、こういうのはノリと勢いの良さを知ってもらいながらいかせてやろうぜ」
と言って南波にお決まりの金属バットを渡した小池。
受け取った南波は醜悪な目を近衛に向けると、小池と一緒にじりじりと距離を詰めていった。
「だ、誰か……鈴原さん。考え直してよ」
「え? うーん……すずちゃんの言うことを聞かない人は死ぬべし。そうやって身の程知らずで指示してくる人も死ぬべし」
「じ、神野さん。朱里さん」
「わたくしもですわ。近衛、最期は派手に壊れてくれたらそれでいいですわ」
「近衛。革命のための犠牲よ。受け入れなさい」
「そんな……」
近衛は怯えた目で全員を見ると、後ずさりしてもうさがることが出来ない扉に背中を付けた。また、どうにかして開けられないかを試すように体当たりもしていた。
もちろんそんなことをしても扉はびくともしないので、その間についに南波と小池が目の前に到着してしまった。
「じゃあな、近衛。お前の死体はちゃんと処理しておいてやるから感謝しろよ」
「お前はいい奴でもなければ悪い奴でもなかった。ただ、ノリの勢いが足りなかっただけだぜ」
二人が金属バットを振り上げると、次の瞬間その怯えた顔面に向けて勢いよく振り下ろした。
直後、この生徒会室には鈍い音が響いたのだった。




