4-30 異変の片鱗
それは突然起きた。
「すずちゃん。昨日のあれはなんだったんだよ…… 僕達のこと大事じゃなかったの?」
「そうだ。ぼく達はすずちゃんが笑ってくれるからって頑張って尽くしてきたのに。ぼく達に見せてくれた笑顔も言葉も全部嘘だったの?」
放課後の生徒会室。
仮生徒会一行が揃っている中でかの鈴原親衛隊のうちの男子生徒二人がやってきた。そして座っている鈴原にスマホの画面を見せると、悲しそうで悔しそうな顔を向けていた。
「違うの。それはすずちゃんじゃないよ。きっと何かの間違いだよ。そもそもすずちゃんがそんなおじさんとそんな所に行くわけないよ」
「嘘だ。僕は見たんだ。こんな汚いおっさんとホテルから出てくるところを」
「すずちゃん。信じたくないけど、もしかしてパパ活をしてるの? ぼく達がいるのに?」
「違うって。きっと誰かがAIで作ったんだよ。見間違いだし勘違いなんだって。信じてよ」
憤りを見せる男子二人。それを見ている他の仮生徒会員は我関せずといった様子で知らんぷりをしていた。
だが、一向に治まらない男子達の気持ちと否認をしている鈴原の口論にある人が痺れを切らして立ち上がった。
「うるせぇよ。ちげぇって言ってんだからちげぇんだよ。いい加減帰れ。女々しいんだよ」
「南波くん」
「か、帰らない。僕達の思いを踏みにじったんだ。許しておけない」
「そうだそうだ。ぼく達はすずちゃんのためにいったいどれだけ尽くしたのか君は知らないだろう? すずちゃんはな、お母さんが病気で大変なんだ。それでお金だって工面してあげた。なのにあんなおっさんとホテルに行くなんて。ぼく達ってものがありながら……」
その時、二人の雰囲気がじわじわと変わっていき、瞳がまるで薬物をキメたかのように見開かれて鈴原と南波を捉えた。
「行ってないんだってば。みんなの可愛いすずちゃんだよ? みんなを裏切るようなことなんてするはずないじゃん」
「うるさい! 僕は、僕はすずちゃんの笑顔が好きだったのに……ずっと一途だったのに」
「ぼくもだ。ぼくもすずちゃんが何よりも大切だよ。こんなに想ってるぼく達が出来なかったことをおっさんが出来るのはおかしいよ!」
「落ち着いてって。ちゃんと話をしよう? 全部勘違いだって分かってくれるから」
「なら証拠はあるの?」
「証拠?」
「そうだ。おっさんと何もないならちゃんとあるんだよね?」
「あるって……」
その時、男子二人が醜悪な笑みを露わにした。そして鈴原の体を嘗め回すように見ると欲を宿らせた瞳で接近し始めた。
「な、南波くん。助けて。この二人やばい目をしてるよ」
すると、南波が二人に聞こえないように鈴原に何かを言うと鈴原が頷いた。それにより、
「仕方ねぇな。小池。手伝え。報酬はいいもんだぞ」
「お、本当か。仕方ねぇな。久しぶりに俺っちの剛腕が火を吹くぜぇ」
「確認だが、神野。やっていいよな?」
「好きにしたら。でも私達に迷惑はかけないことね」
「当然だ」
それから迫る男二人から逃げるように南波と小池の後ろに隠れた鈴原。それを見た彼らは一層怒りと悲しみを露わにしてぶつぶつと言いながらゆっくりと接近した。
「近衛、鍵閉めろ。絶対に誰も入れないようにしておけ」
「え、でも、先生を呼ばなくて―」
「早くしろ。お前も殺されたいか?」
圧のある目で見られた近衛は逆らうことが出来ずに言われるがまま生徒会室の鍵を閉めた。それを認識した南波と小池は不敵に笑った。
「すずちゃん……僕達のすずちゃん……」
「大好きなすずちゃん……可愛いすずちゃんをぼく達が……」
「きめぇんだよ。陰キャが」
「立場をわきまえろって話」
直後、南波と小池が二人に殴りかかった。それはほぼ同時に二人の頬に直撃し、ベキィッという明らかに頬骨が砕ける音が生徒会室に鈍く響いた。
それを拳越しに感じた南波と小池は楽勝の笑みを浮かべた。だが―
「すず…ちゃん……」
「ぼく達の……すずちゃ……」
二人は何事もなかったかのように歩みを止めなかった。むしろ、その顔は歪んだことで一層醜さを増していた。
「野郎っ」
そこで二人はもう一発殴った。それは溝内に入ってそれぞれから吐しゃ物が漏れた。また、同じく拳越しに肋骨が折れる音が二人には聞こえていた。
今度こそ終わりだろう。そう思っていても
「確認…しなきゃ……」
「すずちゃんは……まだ綺麗な…女の子だって……」
「「確認しなきゃ」」
顔が歪み、口元には汚い汚物と血を纏わせながらも動き続けた。さらに、その目は虚ろで狂気的で、それでも笑っていた。そんな瞳は常に鈴原を見ていた。
「ひぃっ! 南波! 小池! 早くどうにかしろって!」
「んなこと、分かってるよ。小池」
「久しぶりに怖くてピンチ」
南波と小池は二人の溝内に突き刺さったままの拳を強引に振り抜くと、その勢いのまま男子二人を扉の方まで突き飛ばした。
もちろん、男子二人は立ち上がって再び向かって行った。
「ゾンビかよ」
「どうする? さすがにヤっちゃう? 金属バットならあるよ?」
「ヤっちゃって! いいから早くしろ! すずちゃんに何かあったらタダじゃおかねぇぞ!」
迫りくる亡者のような恐怖をその身に感じ続けている鈴原はあのぶりっこキャラを変貌させて焦っていた。
また、どうして金属バットを持っているのかといったことを疑問に思う余裕なんてなく、南波は決断した。
「……後処理のことを考えてても仕方ねぇな。小池、ヤっちまうぞ」
「痺れるねぇ。それじゃ、あいよ」
そういうことで小池が南波に金属バットを渡すと、二人して構えた。
「全部壊れていきますわぁ。久しぶりに見れますわねぇ。派手にヤっちゃってくださいな」
「いい加減終わらせろ。耳障りなんだ。僕の休みを邪魔するな」
そんな光景を見ている他の仮生徒会員は誰一人として止めることをしなかった。いや、近衛だけは止めようとした。だが、それも二人の圧にやられて言葉を飲み込んでしまったのだった。
「すずちゃん……」
「ぼく達のところに…おいで……可愛いすずちゃん」
次に彼らが前に出た時、南波と小池もまた前に出ていて持っていた金属バットを振り下ろした。それは見事に脳天に直撃して明らかに頭蓋骨が割れる音が響くと、彼らを地面に倒した。
これで本当に止まる。そう思っていても彼らは這いながらでも接近を続けた。そのうちの一人が
「マジかよ……」
南波の足首を掴んで恨みのこもった目を向けたのだった。
「タフだねぇ」
だがそんな彼の腕は小池の一振りによって砕かれ、あらぬ方向に折れ曲がると離された。直後、南波はその彼の頭や体を滅多打ちにした。
それを見た小池も残りの一人に襲い掛かると、同じく滅多打ちにしたのだった。
鈍い音と短い悲鳴が響き、気が付けば彼らは軟体動物のように全身のパーツがぐちゃぐちゃになっていた。
「はぁ…はぁ……これでどうだ」
「さすがに死んだっしょ……」
二人の金属バットもまた所々が凹んでいて、その異様な形が事の激しさを物語っていた。
「さすがにまずいよ。先生にバレたら大変だよ」
「うるせぇ。バレねぇように処理しておけ。いいな?」
「ぼくが……? みんなでやろうよ。また動いたら怖いよ」
「黙れ。庶務だろ。やっておけ。いいか? バレたら全員が終わりなんだ。分かったならちゃんとやれ」
「そうだぜ? 俺っちもそれは嫌だぜ? だから近衛っち、頼むからね」
南波と小池の目はまるで、断ったらこいつらと同じく殺すと言っていた。
近衛はというと、他にも手伝ってくれる人はいないかを見まわしたが全員が一様に彼に冷たい目を向けていた。
「……分かったよ。やるよ。でも―」
「すず……」
「「「!?」」」
近衛が何かを言おうとしたちょうどその時、原形を留めていないはずの一人がうめき声のようにそう言ったのだ。
そして近づこうとしているのか、四肢をぐねぐねと動かしていた。
「ぼく達の……」
「すず…………ちゃ」
「どうなってんだよ! なんで死んでねぇんだよ! 小池!!」
「分かってる。こいつらはストーカーの中のストーカーだ」
二人は今一度金属バットを構えた。
またそれを見ている鈴原は完全に怯えてしまっており、もう声すらも出せなかった。
「神野。いい眺めですわねぇ」
「そうね。なかなか見られるものじゃないわ」
神野も朱里も非現実的な光景を嗜むように見ていた。だが、そんな中でも同じ人間とは思えない二人に少しだけ恐怖のようなものを感じていた。
「南波っち。本当にぐちゃぐちゃにするしかないかもね」
「どうあれ止まるならなんでもいい。いくぞ」
二人は再び金属バットを振り上げた。そして今度は頭を破壊するまでやろうと思った直後、
「「―ッッ!!」」
男二人は首を飛ばされて動かなくなった。
急に起きたことかつ、周囲を見てもそんなことをした人がいないことに全員が驚きを隠せなかった。
もちろん、そんなことをされた二人は今度こそ動かなくなった。
「よく分からねぇが、死んだな」
「運がどうにかしてくれたのかも。マジ神に感謝」
それでようやく落ち着いた二人と鈴原は二人の死体を確認して胸を撫でおろした。
「ありがとうぅ。怖かったよぅ」
「なぁ、鈴原。こいつらはこんなにしぶとい奴らだったのか?」
「そんなわけないよ。ストーカーって怖いね」
鈴原は手で頭を軽くコツンとやっていつものぶりっこをしていた。
「ヤるオレらの身にもなれ。というか、パパ活だかいただきだか知らねぇが、バレねぇようにしてくれ。こんなのが毎回じゃ身が持たねぇよ」
「うん。反省反省」
「したことは否定しないんだな」
「まぁね。でもすずちゃんは寂しいおぢを助けてあげてるんだよ? だからこれは人助け。すずちゃんは何も悪くないもん」
頬をぷくっと膨らした鈴原を見た二人はやれやれと思って自分の椅子に座った。
「近衛。ちゃんと片づけておけよ? いいな?」
「うん……」
全体的にも落ち着きを取り戻した一行は、なぜ二人の首が飛んだのかを考えることをしなかった。
同じく、どうして二人がこんなことになったのかも考えることはせず、ただの異常者だったということで処理をしたのだった。




