4-27 仮の生徒会の面々
「今日からここが私達の拠点よ」
今朝の全校集会にて壇上で挨拶をした仮の生徒会。本日より様子見で一か月の間生徒会を務めることとなったのだ。
それもこれも
「上手くやったよな。あの陰キャ生徒会長と金魚の糞みたいな奴を納得させるために啖呵切ったんだもんな。おかげでオレに相応しい席が手に入った。よくやった」
「南波。成果を上げた神野に尊大すぎないかしら?」
生徒会長の神野による生徒総会での舌戦の戦果だった。
そんな彼女は自らに相応しい生徒会長の席に座った。
「生徒会長って言っても仮だろ? いずれ生徒会長選挙をするんだ。その時にこのオレが生徒会長になる。だからどんな態度をとっても関係ねぇだろ」
「いいねぇ。その時は俺っちを副会長にしてくれよな?」
「このオレの役に立ったら考えておいてやるよ」
短い銀髪をワックスでガチガチにセットしたいかにもな陽キャの南波は、同じくチャラチャラしている金髪長髪のいかにも軽そうな陽キャ、小池に言った。
そんな小池は突如スピーカーを準備して生徒会室に軽快で独特のビートのある音楽を流した。
「おいおい、みんなどうしちまったんだ。今日は記念日だぜ? 楽しくノッていこうぜぇ」
小池は特殊なリズムに乗って踊り始めた。すると、
「そろそろ大事な話をしようよ。だって生徒会役員になったんだよ?」
と元気極まりない二人とは対極的に大人しい男子生徒が言った。それに便乗して
「近衛の言うとおりですわ。最初が肝心ですわよ」
と糸目で令嬢のような見た目の彼女、朱里が言った。
それに対してせっかくいい気分だったのに水を差されたと不機嫌なオーラになる小池。もちろん、そんな冷める一言を不快に思ったのは南波もだった。
よって金髪と銀髪の異様な圧が彼女と大人しい彼をとらえた。
「肝心でもこの先楽しくなかったら嫌じゃん? すずちゃんは損しなければ何でもいいんだけど、楽しい生徒会にしたいなぁ」
一触即発状態の双方に割って入ったこれまた独特な雰囲気を醸し出す少女。
彼女は制服を着ているものの、鞄は色鮮やかなピンク色でなぜか羽が生えていた。また、メイドカチューシャをつけてツインテールを揺らし、人工的な涙袋と潤んだ瞳であざとく周囲を見ていた。
「鈴原、お前の楽しいってのはあれだろ? 自分の思い通りにいくことだろ?」
「そうだよ。みんなでそんな生徒会にしようよ。すずちゃん、頑張るよ」
手をきゅっと握って口元に持っていくと、その時に捲れた袖から見えた手首から腕にかけていくつもの自傷傷が生々しく彼らの目に映った。
「あの、そろそろ静かにしないと先生に怒られるんじゃないかな?」
大人しい男子の近衛が言った。彼はなぜこのメンバーに属しているのだろうかというほどに空気感に対して相応しくなく、はたから見ても明らかに居心地が悪そうだった。
その言葉に対してやはりいい気分ではない彼らはまた厳しい視線を向けた。それを恐れた近衛は、ずっとだんまりだった彼に助けを求めた。
「い、石川君もそう思うよね?」
「僕? 別に。どうでもいい。僕は誰にも邪魔されずに休めればそれでいい。というか、神野の頼みを聞いてメンバーになったのも生徒会に入れば好きなだけ休む場を与えてやるって言われたからだし」
「そんな…… せっかくだから一緒にいい生徒会にしていこうよ。神野さんもそう思ってメンバーを集めたんだと思うし」
「どうだろうね。まぁ、僕はどうでもいいけど。僕にとって大事なのはいかに何もせずに楽をして休んで得が出来るかなんだ。というか、この僕に馴れ馴れしくしないでくれるかな。休みの邪魔だ」
無気力の塊である石川が僅かにずれた眼鏡を直した。そんな彼は椅子に座ったまま眠りに入ろうとしていた。
しかしここでついに神野が口を開いた。
「小池。いったん音楽を止めて」
「いいだろぉ、別に。ノリと勢いで楽しくいこうぜぇ」
「いいから止めなさい。この一か月の間は私が生徒会長。逆らうなら追い出すわよ。それに、ここのみんなで革命を起こす。そうでしょ? そのために話そうとしてるの。分かるわよね?」
「……分かったよ。ノリに乗った勢いで革命を起こして、この学校を楽しくする。毎日踊り明かそうぜの学校のためだもんな」
ということで小池が音楽を止めると、それにともなって全員の意識が最奥の生徒会長の椅子に座る神野に向けられた。
「私達はこの学校生活に、いえ、学校に革命を起こす。あんな規律規律の地味で堅苦しい陰キャが頂点に立つこの学校を変えるのよ。そのために私はみんなを集めたのよ」
そして神野はそれぞれの顔を見た。
「副会長の朱里」
「はぁい」
「会計の石川」
「……あぁ」
「企画の小池」
「うぃす」
「書記の鈴原」
「はいはぁい」
「総務の南波」
「ふん」
「庶務の近衛」
「うん」
「みんな独特だけど、それぞれには願いがある。それを叶えることが出来るのは生徒会であって、そんな学校に変えることが出来るのも生徒会だけよ」
すると神野が立ち上がり、強く鋭い目で全員に言い放った。
「この学校はつまらない。普通すぎてつまらない。だから私達が変えるのよ。楽しくて有意義な学校にね。そのためにはみんなで協力しないといけないわ。でないと私達がどうして生徒会役員になったのか、どうしてあの女達から席を取ったのか分からないわ。だから何が何でもこの一か月を平和にして正式に生徒会の席を獲る。それ以外に革命の手はない。みんなもそう思うわよね?」
「悔しいがな。あいつらみたいなのが学校をつまらなくするんだ。オレ達が変えていくんだ」
「みんなが楽しくノッていける学校。パリピな生活をお届けしまぁす」
「なんでも思い通りにいけば最高だよね」
それぞれがそう思う中で他の面々も頷きあっていた。それを見た神野はあらためて宣言した。
「みんなの意思が一つだって分かって嬉しいわ。よって私達のこの新生生徒会が学校に革命をもたらして生徒達にはより良い学校生活を送ってもらえるように頑張るわ。もちろん、私達の願いも叶えるの。それは権力を持っている生徒会だから出来ることよ。頼むわよ、みんな」
まるで指揮官のように言い切った神野は再び椅子に座ると、まるで明るい未来を見ているかのような凛とした瞳を全員に向けたのだった。
「面白くなりそうですわね。まぁ、わたくしは結果が良ければそれでいいですわ。途中なんてどうでも」
「ぼくの願いもきっと叶えてみせる。そのためにここに入ったんだ」
するとそこで今日最後のチャイムが鳴って校舎内に響いた。
直後、一番早く立ち上がったのは鈴原だった。
「今日はおぢと出かけるから先に帰るね」
「またいただきかよ。そろそろそのおっさんが惨めに思えてるな」
「おっさんじゃないよ。おぢだよ。というか、おぢが勝手に尽くしてくれるの。それもこれもすずちゃんが可愛いからだよね。可愛いは正義、だからすずちゃんは悪くないよ。それじゃあね」
ということで鈴原が生徒会室を出て行った。
それに続いて続々とそれぞれの帰路についていく一行。そして最後に神野だけが残った。
「革命には犠牲は付き物。私は私が損をするやり方はしない。みんなはせいぜい革命の人柱になってもらうわ」
神野は最後に怪しく口角を上げると、完全に日が落ちて暗くなった校舎を歩いて一人で帰宅したのだった。




