4-24 それぞれの感想
もう一日の休日を一緒に過ごした月乃と静也は、週が明けて一緒に登校した。
しかし今日からは生徒会室に行くのではなくそのまま自分達の教室に行って席に座った。とは言っても隣同士だから生徒会室の時と大して変わらないが。
「今日から一ヶ月間、私達は一般生徒だね」
「そうだな。でも、やっぱり本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。今まで一か月間が丸々平和だったことはある?」
「ないけど」
「なら大丈夫だよ。それに、今回の私達は生徒会が対処すべきあっちの案件には手を出さないから」
「俺達にとっては大丈夫だけど、生徒達にとっては大丈夫じゃないんだよなぁ」
先日の生徒総会にて生徒会メンバーの入れ替えを要望した女生徒がいた。それを一ヶ月間のお試し期間という形でその彼女と、彼女が決めたメンバーに役職も仕事も任せることにしたセブンスターズ。
それで今日からの一ヶ月間の学校生活を誰もが平和に過ごせる状態で維持出来たならそのまま生徒会の座は移譲し、逆に問題が起きてしまって生徒達の安全を守ることが出来ないなどの事態になれば潔く生徒会の立場を諦めるという約束を交わしたのだ。しかも
「あの人は荒れるようなことがあれば生徒会としてどんな罰則でも受けることを約束したし、大人しく立場を返還するって言ってたね。ちゃんと全校生徒の前で」
「そうだな。よほど自信があったんだろうな」
「だろうね。でもあっちのことは無理だよ。一般人じゃ絶対に対応出来ないから」
あっちのこととはもちろんGreedのことである。
そもそもGreedと戦い鎮静化させるには自分の欲を暴走させることなく使いこなすことが出来る欲祓師である必要があるのだ。
星条院高校の生徒会とは普通の生徒会ではない。校内がGreed関係で荒れた場合でも対処出来る欲祓師でありその専門家でもあるのだ。
「あの時の月乃は難しい仕事があるとか、そういうことも言わなかったよな? わざとか?」
「言ったところでどうせ大丈夫とか言ってくるって想像出来たからね。それに、口で言って理解出来ないことは身をもって理解させるしかないんだよ。そっちの方が楽だし、一回失敗例を全員に示せば今後は生徒会をやりたいだなんて言ってくる普通の人は出てこないからね。だって、目の前で失敗されたことってやりたいなんて思わないでしょ?」
「まぁそうだな」
「全てはこの先のことを視野に入れた動きなんだよ。だから大丈夫。来月には生徒会の席が戻ってくるから」
そこで月乃の口元がにこっとした。それを見た静也は思った。
「こんなにも地味で人畜無害そうな顔をしてるのに、考えていることとかやることが見合ってないんだよなぁ」
「人は見かけによらないとはこのことだね」
「自分でそれ言う?」
「なら、私が地味じゃなくなった方がいい?」
「それは困る」
「どうして?」
「月乃はやっぱりその感じじゃないと違和感というか、嫌なんだよな。それこそ俗に言うところの陽キャみたいになられたら話しかけにくいし、そもそも話しかけたくないし」
「そっか。ならこのままでいるから、ギャップみたいなのは我慢してね」
すると、そこで担任教師が教室に入ってきて朝のホームルームを開始した。そして、今日から一か月間は別の生徒会が運営するということで全校集会のために体育館へと向かわされたのだった。
***
「独自に集めたって言ってたからどんな人達が来るんだろうって思ったけど、誰も彼もいけ好かない人ばかりだったわね」
全校集会からの通常授業を全て終えて一行はセブンスターズの事務所に集合していた。
そこでの活動は学校行事には含まれていないため自由であるのは当然なので、それぞれが自分達の席で思い思いにくつろいでいた。
「そうだね。期待はしていなかったけど、思ったよりも個性が強そうな人ばかりだったね」
「むしろ個性しかなかったです。各役職ごとにその人で本当に大丈夫です?って心配になるレベルでしたです」
「多分……無理……」
それぞれが今日の全校集会にて生徒会の面々の紹介で思ったことを話し始めた。そんな中でも能徒はいつも通りにお茶を淹れて全員の机に置いてまわっていた。
「金錠。お前の役職の奴はどう思う?」
「会計の奴か? あれは駄目だろう。金の知識やら管理とは何かを全く理解していない感じがした。金、人、モノ、情報は現代における重要な資産だというのに上手く運用をしていける様子じゃなかった。一ヶ月放置していたら学校の金は尽きかねないな」
「でも一見すると真面目そうだったように見えたけどな。同じく眼鏡をかけてたし」
「眼鏡をかけていて優秀な会計は僕だけだ。あれはまがい物にすぎない。せめて眼鏡を外せ」
「眼鏡被りが嫌なだけなように聞こえなくはないんだよな」
「そんな浅はかな理由を持っていては金の管理という冷静こそ武器の役職はやっていけない。きっとあの眼鏡はダテに違いない。まがい物だ」
「やっぱり眼鏡被りを気にしてるだろ」
静也は次に気のせいか神妙な雰囲気を出している愛枷に問いかけた。
「生徒会企画として、あっちの企画の人はどう思う?」
「……頭…悪そう」
「直球だな。俺も思ったけども」
「あと……いかにも…陽キャ……っぽくて…無理……かな。自分の…こと……俺っち…って…言ってた……し」
「愛枷とは正反対だよな。もちろんいい意味で」
「静也くんは……静かな…方が…いい……?」
「そうだな。大人しいほうがいいよな」
「そう……」
「しかも俺思ったのが、なんかこう、やけに流行りの言葉を使うというか、まさにノリと勢いだけでやってきてますみたいな感じだったんだよな」
「うん……私も…思った……頭…悪そう……… 企画は…ちゃんと…考えないと出来ない…こともある……から……きっとあの人には…無理……」
相変わらず愛枷の表情は全体的に膝くらいまである超ロングヘアによって分からないが、声の感じというか雰囲気からして明らかに苦手意識が出来てしまっていることがみんなに理解された。
すると悟利も感想を言った。
「みんな食に対するリスペクトを感じられないです。特に書記のあの人なんかは細すぎると思うです。集会が終わった後に見たですけど、どうしてかエナドリにストローを差して飲んでたです。それとまくった腕に傷もあって痛々しかったです。エナドリよりもご飯を食べるといいと思うです」
「ツインテールだったし、目元とかも不自然な涙袋とかを作ってたもんな。あれはなんなんだろうな」
「それはきっと地雷系メイクよ。お姉さんも詳しくは知らないんだけど、そういうのが都内の一部では流行ってるそうよ」
「唯姉ぇもするです?」
「お姉さんはしないわよ。だって静也くんはそういうの好きじゃないでしょ?」
「まぁそうだな。普通でいいんだよ普通で」
「というか地雷ってなんです?」
「一見すると大人しそうなのに蓋を開けたら一癖もニ癖もあるとか、病的な癖だったり、男の人から見たらかなり厄介な性格の人らしいわ。本物の地雷も地面に埋まってたら分からないでしょ? だから踏んでみないと分からない。そういうことよ」
「うーん……やっぱりいまいちです」
「まぁ、悟利ちゃんはそのままでいいんだから気にしないでね。あの人はあの人、悟利ちゃんは悟利ちゃんだから」
地雷。その言葉に静也も他の面々も妙に納得してしまった。それくらいに書記の人はインパクトが強かったのだ。
「副会長は?」
「そうねぇ。穏やかな話し方でどこかの令嬢みたいな感じだったけど、お姉さんの勘が正しければ猫を被っているわね。きっと本性はとんでもないわよ」
「そっか。会長は生徒総会で見たままの感じでいかにもな自信家というか、まるで本物の革命でも起こしかねない雰囲気を出してたな。それと、自分の実力を信じて疑わない感じだった。そうだよな? 月乃」
「うん。でもああいうタイプは変なところで挫けると一気に壊れるし、自分のやる事成す事が正義と思って疑わないから失敗を認めずに他の人に擦り付けたり反省もせずに同じことやって同じ失敗をするんだよね。結構厄介なタイプだよ」
その時、全員の机にはおやつとして大福が置かれた。
それを用意したのはもちろんメイドである能徒だ。
「能徒はどう思った?」
「はい。企画のあの陽キャと同じく陽キャな雰囲気を感じました。総務とはこれもまた奥が深く縁の下の力持ちといったように影から支える存在です。もちろん頭のキレも周囲の雰囲気を察する力も必要です。でもあの人からはそのようなものは感じませんでした」
「つまり、あの人も頭が悪そうと?」
「オブラートに包まずに言うならそうです。あとはそうですね。威圧的な感じも見て取れましたので、あくまで私の感想ですが、面倒事は誰かに押し付けて自分は楽をしていそう。そう感じました」
「そうか。つまりは会計と企画と総務は頭が悪そうで、後ろの二つはついでに陽キャ。書記は地雷で会長は自信家、副会長は裏がありそう。ロクなのがいないな」
「そう言う庶務の方はどう思ったんだ? 僕にはやはり癖というか何かがありそうな気がしたがな」
ずっと問いかけばかりだった静也に狩人が質問した。
「他と比べると圧倒的に大人しそうだったな。会話も普通には出来そうだったし。でもしきりに周囲の様子を見ていたというか、メンバーの顔色を窺っているような気がしたんだよな」
「僕もそれは感じた。まぁ、彼も何かあるのかもしれないな」
一行の中で今回発表された生徒会の面々についての認識が共有されたことで、この先本当に大丈夫だろうかという気持ちが強くなった。
だが月乃は一切表情を崩さずに机の上に置いてあるしいたけのフィギュアをいじっていた。
「月乃は心配じゃないのか?」
「もちろん心配だよ。でもそれを向けるのはあの人達ではなくて、学校の生徒のほうだよ。私達は私達の役職を取り戻すにはこの一ヶ月の間に何かが起きてあの人達が無能であることを全校生徒に理解させないといけないの。だからあの人達のことは心配しないよ。むしろ崩壊しそうな面々で良かったって思ってるよ」
「なるほど。でも心配だな」
するとそこで静也は能徒と愛枷に目を向けた。
「愛枷は少しの間非認知で生徒会室に潜入したり尾行をしたりして調べてくれないか?」
「うん……分かった……ちょうど…やろうと…してたところ……」
「ありがとう。それで能徒はあの人達について何でもいいから情報を集めてくれないか? それこそもしも中学が同じだった人がいたら有難い」
「承知しました。ではさっそく明日からそのように動かせていただきます」
「あ、でも目立つようなことはするなよ? 危険なことに巻き込まれたらまずいからな?」
「ご心配ありがとうございます。必ずや皆様ならびに静也様のお役にたてるように頑張ります」
能徒の表情は引き締まった。
だが、それに対して室内には妙なぴりっとした空気が発生し立ち込めた。それはあの人達に対してのものではなく、別のことが原因だった。




